49話「フルーツ絵描き歌?」
「丸を描いてー♪」
「何?」
「も1つ丸をー♪」
「……」
「漢字の“人”を書いたらー♪」
「……」
「あっという間にさくらんぼー!」
「わーおいしそー」
「でっしょぉ?」
「いや全然見えへん」
「へあ?!」
何故に関西弁?!と驚いている朱音。
今年の文化祭は10月中旬らしい。3年生と2年生はバンドを披露するらしいが、私達はそんな予定はない。よって部室ではほぼ遊んでいる状態。
「あたし達のクラスは文化祭何やるのかな?」
「そういえばまだ決まってないよね」
白ヶ峰高校の文化祭は校舎内ではなく、校舎外に各クラスごとに考えた店を並べる。 軽音楽部やダンス同好会が体育館で披露したり、多目的ホールには美術科や芸術選択授業で美術を選んだ人が描いた絵などを飾るらしい。
「そういえばゆりは美術どこまで塗った?」
「もう少しで最後の枠に行く」
私達は芸術選択授業で美術になってしまった不運な2人。
「もうさ~、あたし達が描いたやつ飾らなくていいと思うんだ」
「それな」
「文化祭で多目的ホールに飾るからって丁寧にやる?めんどいよ~」
「めっちゃそれな」
私も朱音も、選択授業では音楽を選択していた。それなのに!何故か選択授業は美術になってしまった。
それが朱音と仲良くなったきっかけであるからいいとするが、せめて生徒の要望は叶えてほしかった。
「あ~……あー!!」
朱音が畳に寝転がると、あっち行ったりこっち行ったりと世話しなくゴロゴロする。 感化された私も畳に寝転がると、朱音と一緒にゴロゴロする。
「あ~……」
「あー!!美術ヤダー!!音楽がよかったー!!」
「そーだそーだぁ!」
たった2人しかいない部室が一気に騒がしくなった瞬間だった。
「さて、文化祭の定番と言えば?!」
「はい!お化け屋敷!!女装喫茶!!」
「そんなのやりたかったー!」
私の問いに挙手した朱音が答える。ハイテンションの私達は再び畳に寝転がる。
分かってた!白ヶ峰高校ではこれが普通なの分かってた! じゃあ何で白ヶ峰高校を選んだかって? お兄ちゃんとお姉ちゃんがこの高校入ったからだよ!
「クラス男子の女装喫茶見たかったー!」
「私達の演技で色んな人が怖がる所見たかったー!」
「「あ――!!」」
「軽音部うるさいっ!」
「「……すみません」」
突然扉を開けたのは、丁度真下に部室がある茶道部だった。
男子生徒が身に纏っていたのは青色の着物。 シューズを履いていた男子生徒に違和感を抱きながら、彼が2年生であることを確かめる。
「……そういえば今日は茶道部ある日なのか」
「……ね」
「……丸を描いてー」
「あ?」
「キンピカ表現ー」
「またか……」
「ちっちゃい棒をぶっさしてー」
「言い方……」
「ちっちゃい葉っぱを描いたらー?」
「な~んでーすかー」
「ジャジャーン!綺麗に磨かれたリンゴー!」
「……虚しくないの?」
「……何やってんだろう」
朱音の顔は何とも言えない表情でこちらを見てくる。
どんな顔してんねん。
「どんな顔してんねーん」
「こんな顔してんねーん」
私のツッコミに変顔をする朱音。見たことない景色だ。
「ゆりは?どんな顔してんねーん?」
「……こんな顔してんねーん」
朱音の変顔に対抗してとびきり可笑しい笑える変顔を披露する。
「……ふっ……」
「はい負けー!」
「くっそ……」
いきなり『笑ったら負けよあっぷっぷ』第26回の勝敗は私の勝ち。これで私は20勝6敗。ついに20勝に突入した。 もっと負かしてやる。
「フッハッハー!どうだ私のー!」
「筋肉?」
「カッチカチだ――ってちげぇよ!変顔!どうだ私の変顔!」
「ついにゆりの20勝かー」
「逆に朱音は全然駄目だねー?」
「もう1回!」
「ざんねーん、1日1回のルールを作ったのは朱音だよー?」
「……あ」
「まさか自分で作ったルール忘れてたのー?プフーウケるー」
「じゃあ来週やろう!学校であった時にすぐね!」
「はいはいっ、分かりましたよー」
って言いながら忘れてるんだろうな。
「丸を描いてー」
「また?」
「丸を描いてー」
「好きだねー」
「丸を描いてー」
「あれ?」
「丸を描いてー」
「丸描きすぎじゃね?」
「丸を描いてー」
「ハァ」
「丸を描いてー」
「あ、そういうことか」
「“T”を描いてー」
「ブドウだろ」
「あっという間にぶぅどぉうぅ!」
「……あっという間に?」
「好きだね、その変な歌」
「うん好きー」
「フルーツ絵描き歌?」
朱音は今まで描いたサクランボ、リンゴ、ブドウに色付けを始める。
「次描くやつは見ないで当ててね」
適当に塗り終えると、再び歌を歌い始めた。
「大きな丸を描いてー」
有無を言わせずに描き始めた朱音に対して、ムカつきながらも後ろ向きに座り直した私は朱音の歌に集中する。
「てっぺんにブタのしっぽー」
てっぺんにブタのしっぽ?豚の尾ってこと?てっぺんに?丸のてっぺんに豚の尾ね。
「くくくく~くくくくく~」
は?く?ク?9?区?九?苦?句?どの「く」だよ!
「白黒~白黒~」
白黒といえばオセロかパンダ?今までフルーツ縛りだったのにオモチャと動物になっちゃったよ! 何描いてんの?!
「あっという間に~?」
答えを言わないという事は私に答えを求めているという事。朱音の顔を見るとニヤニヤしていてムカつく。
「……パンダ?」
「は?」
あ、違った。
そろそろ最終下校チャイムが鳴る頃。
「ゆりバカぁ?今までフルーツ描いてたのにいきなり動物描くと思う?」
「白黒言うからパンダ以外出てこないよ」
朱音的には簡単な方らしいが何1つ伝わってこない。
丸くて、豚の尾のようなものが付いていて、“くくくー”という表現の仕方があって、白黒のフルーツ。
「ヒント教えてあげる!夏には誰もが食べるフルーツ!」
「白黒……フルーツ……夏には誰もが食べる……」
どんだけ考えても分からなくて、逆に分からなすぎて「白黒のフルーツなんてねぇよ!」と朱音にキレてしまった。
同時にチャイムが鳴る。
「白黒……え~?白黒のフルーツ? 何かある?白黒だよ?」
「あるよ!何で分かんないの? これ分かんないとヤバイよ?」
チャイムがなってすぐに部室を出る。元々、楽器を出して演奏をしていた訳ではないので簡単に部室の閉めることが出来た。
階段を下りながら考えるがやっぱり分からない私は、逆に朱音に質問する。 しかし、朱音にはこれが常識問題のようで馬鹿にされる。
白黒のフルーツって何ぞや。
セミナーハウスを出ると、茶道部の部室がまだ明るい。
茶道部は片付けが難しそう。 まず着物だし、茶を飲んだ器とかの汚れは簡単には落ちなさそう。他にも専用の道具とか沢山ありそうだし、残った茶菓子とかの取り合いとかありそう。
「まだ分かんないの?」
駐輪場から自転車を押しながら出てきた私に朱音が問う。フルーツ絵描き歌のことだろう。
「……分からん」
分からない事は分からないとキッパリ言った私だったが、何故か朱音に腹を抱える程笑われる始末。
「マジかっ、マジで分かんないっ?マジっ」
「なんかムカつく」
しまった、声に出てしまった。
校門で朱音と別れた私は、自転車に漕ぎながら考える。
――白黒のフルーツ、何か不味そう。
そして思い出す。
――そら君家から貰ったスイカ、早く食べたい。




