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46話「噂の1年?!」




 モモに彼氏がいる事が発覚してから1週間が経っている。2学期始めの実力テストも無事に終わり、通常の高校生活をエンジョイしている。

 今日も1時間目は家庭に始まり、数学、芸術、生物と移動授業を挟む形で続いた。 お陰で4時間目の生物ではお腹の音がなってしまった。 恥ずかしさに顔を下げていると、少し遠くからも同じ音が聞こえてきて思わず笑ってしまった。


 これから始まる5時間目は体育。9月でも未だに日差しが強く、体育館の床を照らして温かくしてくれる。 10月になればグラウンドで主に授業する体育は苦手だ。

 何故寒くなるにつれて外に出すのだろう。せめて夏場はグラウンドで授業してほしい。先生は体育館の熱気を甘く見ている。

 体育の先生に心の中で愚痴ってたら始まりのチャイムがなった。


「やっぱ9月でも体育館の熱気ヤバいねー」

 入り口近くで軽くバドミントンをしながら過ごしている私達。疲れたのか勢い良く私の横に座ってきた梓が私に問いかけてきた。

「ねー、1組と2組合同授業だし、体育館に何人いるの」

「えーと、80人弱? いや多いなっ」

 あまりツっこまない梓が自ら言った言葉にツッコミをするぐらい疲れているようだ。

「もうグラウンドでもよくねー?って思う」

「それな」

「体育館の扉、入口以外に開いてないし」

「確かに」



「あっつー」

 朱音とモモも床に座って休憩を取る。

「あっついねー」

「てか、朱音汗ヤバいよ」

「ホントだ、テカってる」

 朱音自身も額の汗を手で拭い確かめている。

「あたしの汗つけてやるーつって!」

 いつもの朱音のおふざけで汗の付いた手を私達に伸ばしてくる。

「やぁーっ!近づけんなっ!」

「わぁー妖怪汗付けババアだぁー」

「何その変な妖怪?!」

 朱音の横にいたモモが先に逃げて、その後を梓が走る。私は梓のボケにツッコミながら後を走っていく。

「えっ、そんなに?」

 最後に残った朱音の言葉は誰にも届かず消えた。



「あー、あっつい!」

「梓ー、スーブリーズ持ってないー?」

「あ、持ってくるの忘れたっ、ごめん」

「んーん、いいよーっ」

「あたしの使うー?」

「あっ、いいー?ありがとー」

 もはや教室内の湿度が上がっている。今日は全員が元気に登校してきたので、教室内に40人の汗と制汗剤の匂いが充満している。 皆が別の匂いを使っているので、もはや変な匂いになっている。



「ゆりーっ」

 放課後、未だに変な匂いがする教室内を掃除していると、聞き覚えのある声に呼ばれた。

「今日部室行こーっ!」

 朱音だった。教室の扉に寄っ掛かりながら誘ってきた朱音は既にリュックを背負っていた。「いいよ」と良いかけて止める。

「今日水曜日だし、2年生の邪魔になっちゃうよ?」

「えーっ?なんてーっ?」

 耳に手を沿えて問い掛けてくる朱音にムカついた。確かに教室の窓から入口の扉までは少し距離があるけど、そんなに聴こえませんか? 私の声が小さいのか、周りの音が大きすぎるのか。


「今日水曜日ーっ、2年生の邪魔になるんじゃないのー?」

「2年生3人しかいないんだってー」

「理由になってませーん」

「梓は部活でいないしーモモは誕プレ候補見てくるってもう学校出てるーっ」

 どうしたら部室に行こうとなるのだろうか。普通に帰るっていう選択肢はなかったの?

 教室の掃き掃除担当を終えた私は机を並べる前に清掃班の皆に挨拶をして教室を出た。

「2人で遊ぶのはつまんないから、部室に行こうかなーっと」

 顔で精一杯に訴えてくる朱音。

「普通に帰るっていう選択肢はなかったの?」

「えー、何もない日だからこそ何かするんじゃん! 何もないからって普通に帰ってぐだぐだするより汗を掻こうぜ!」

 何がそんなに朱音を動かすの?改めて私がインドアなんだと思い知った。



「こんにちはー」

 結局私が折れる形で部室の扉を開けた。

「あ?」

「噂の1年?!」

 部室には3人の男子生徒がいた。部室の扉に背を向けている3人は反射的にこちらを向いた。

 1人は鋭い目をこちらに向けて軽く威嚇をしているようだ。もう1人は天真爛漫な雰囲気をしていて、私達に興味を持っている。 唯一声を上げなかった人は静かにこちらを見ている。

「こんにちはー!私達が噂の1年生でーす!」

 睨んでくる先輩に怯えていると、後ろから朱音が飛び出していく。 駄目だ朱音!ヤンキーだよっ!


「あぁ、1年か」

「ここにあるギターケースは君達のだよね?」

「そうです!」

 朱音と天真爛漫先輩が楽しそうに会話を楽しんでいる。パッと見では朱音と同じ性格のようだ。

「中島悠斗」

 朱音と天真爛漫先輩の方に行こうとすると、後ろから声が聞こえた。名前を言ったみたいだ。

「中島先輩、ですね」

「こっちは浅野隼人」

「浅野先輩、ですね」

「あっちではしゃいでんのが山崎瞬」

「山崎先輩……」

 先輩達の名前を覚えるように復唱する。山崎先輩は未だに朱音とはしゃいでいる。


「お前は?」

 山崎先輩と朱音のやり取りを見ながら、どんな会話をしているのだろうと考えていると、中島先輩が尋ねてきた。

「名前は?」

「あっはい!すいません!茅野ゆりです!よろしくお願いします!」

 睨んできた中島先輩に謝りながら名前を教えると、若干眉毛を上げたのが分かった。

「あっ朱音! 朱音も自己紹介!」

 自己紹介を終えた私は朱音も自己紹介するように促す。

「あっ、富田朱音です! よろしくお願いします!」

「朱音ちゃん!朱音ちゃん! こっち来てみ?おもろいのあるからっ!」

 自己紹介を終えた朱音は山崎先輩に連れられて部室の奥に消えていった。



「わりぃ、瞬はいつもあんな感じだ」

「あっ、いえっ大丈夫です!朱音もいつもあんな感じですので!」

 部室の奥から朱音と山崎先輩の笑い声が聞こえてくる部室で、私と中島先輩と浅野先輩の3人はまったりと過ごす。

「あの、中島先輩達は3人でバンドを組んでるんですか?」

「バンドってそういうもんだろ」

「すっ、すみません!あの、パートとかって何処を…」

「あ?俺がベースで、隼人がギターとボーカル、瞬がドラムだよ」

 中島先輩の隣では浅野先輩が何度も頷いている。全然喋らない浅野先輩がボーカルとは、これまた何か萌える設定だ。 どんな歌声なのか気になってしまう。


「そっちは?2人でバンド?」

「あっ、はい。私がギターで朱音がベース時々ギターで」

「へー、珍しい組み合わせだな」

 話終えるより先に中島先輩が関心の声を上げる。

「ボーカルがいない……」

「喋った!」

 浅野先輩が喋った事に驚いた私は声を隠す事も忘れて驚き事を上げる。 喋った本人である浅野先輩も私の声にびっくりしたようで、肩がフルフルと震えている。

「ブッ、こんなに驚いたの茅野が初めてだな! 隼人、お前が驚いてどうすんだよっ!」

 腹痛ぇと言いながら笑っている中島先輩に、アワアワと慌てる私と浅野先輩。今誰か入ってきたら異様な光景だろうな。



 中島先輩の笑いが収まって少し、やっと朱音と山崎先輩が戻ってきた。

「朱音、何があったの」

「ふっひっひっ、ゆりには内緒ーっ」

 笑い方といい、内緒といい、私をムカつかせるのが上手いな。

「お前らどうすんの?」

「へ?」

「ボーカルだよ」

 いねぇじゃん!と言う中島先輩の声に、バカな朱音も慌て出した。

「どっどどっどうするぅ?!」

「朱音、お願い」

「嫌だよ!音痴だもん!ゆりがやってよ!」

「私も歌上手くないし」

「練習すれば行けるよぉ!」

「朱音が練習すれ――」

「ゆりぃぃぃ!!」

 話聞けよ。


「まぁまぁっ!上手くなくても歌によって歌詞を共感してくれるもんだよ?」

 気にすんな気にすんな!と励ましてくる山崎先輩。私達の周りをグルグル周りながら慰めようとしてくれる浅野先輩。 何かを考えて動く気配がない中島先輩。

「ゆりっ、どうしよ~」

「だから朱音が歌えばいいじゃん」

「音痴なんだって!」

「知ってる?音痴でも練習すれば歌は上手くなるんだよ」

「論破しようとしないでぇ!」


「分かった、ボーカルは茅野だ!」

「うぇ~い!」

 睨みあっていた私と朱音は中島先輩の言葉に唖然とする。盛り上げようとした山崎先輩がムカついた。 類は友を呼ぶものなのか。

「ちょっと待って下さい!何で私がボーカルなんですか!」

「知ってる?声が低い人が歌うと歌声が綺麗に聞こえるんだよ」

 隼人もそうだよな、と浅野先輩に問い掛ける中島先輩。

「知りませんよ!」

「ゆり、頑張れ」

 肩を叩かれた私が振り向くと、朱音のムカつく顔がそこにあった。

「……道ずれじゃあ!!」



 結局、その後に先輩達が演奏する事はなかった。邪魔になったんじゃないかと思い尋ねてみたが、浅野先輩も中島先輩も山崎先輩も大丈夫だと答えてくれた。

「文化祭までに出来なかったとしてもそれはお前らのせいじゃない、俺らの努力が足りないって解釈するよ」

 中島先輩の言葉と浅野先輩に頭を撫でられた事に私は恥ずかしくなり目を反らした。 反らした先には山崎先輩に頭を撫でられて嬉しそうに笑っている朱音がいた。



「ボーカルは2人でやろう」

「えー!」

「えーじゃない!何私1人に恥ずかしい事させんだ!」

「はいはい、分かりましたよー」

 朱音が口を尖らせながら答える。本当に分かっているのだろうか。

「茅野っ」

 先輩達と分かれた後、校門で朱音と喋っていると最近話題に上がった久保田君が駆け寄ってきた。 まだ校内に残っていた事に驚きながら対応する。

「どうしたの?久保田君」

「ちょっと話があるんだ! 来てくれないか?」

 切羽詰まった感じに見てとれた久保田君に了承して、朱音には自転車と待ってもらう形で久保田君の後を着いていく。


 無言で歩く久保田君は、駐輪場の横にある多目的ホールに入っていく。 私が入ると、こちらを振り替えって口を開いた。

「俺とっ、やらせてくれ!」

「……は?」





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