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42話「花火行くのー!」




「はいっ!きれー!」

「浴衣初めてかもー!」

「何言ってんの?幼稚園でも来たわよ?」

「覚えてなーい」

 今日は地元のお祭り。車道を規制して、そこに色んな出店が並ぶ。 何日も前から今日は卜部とそら君と一緒に回ると約束したので、約束の場所に浴衣で向かう。

 祭り会場までの道のりを歩いていくと、少しずつ人が増えていく。 中には私みたいに浴衣着ていたり、普通の服を着ていたりと様々だが、向かう理由は皆一緒だろう。


「おっ、おーい!」

 持っていた小さいバックをブンブンと振り回しながら歩み寄る。卜部は浴衣、そら君は甚平のようだ。

「おーっ、様になってんじゃーん!」

「茅野、おせーよ」

「お出掛け前の女の子は大変だという事で覚えときたまえ!」

 もし卜部に彼女が出来た時、知っておくべき情報だ。

「ゆりお姉ちゃんっ、かわいー!!」

「やだ~、そら君ったらー!お上手ー!そら君も格好(カッコ)いーよ!」

 頭を撫でると、目を細めるそら君。卜部が私の顔をジトーっと見つめている事に気付く。

「何?」

「……別に?」

 そっぽ向いた卜部が早く行こうと催促する。そら君と手を繋いだ私は卜部の後を着いていく。


「あっ!わたあめ!」

 あれ買うー!と私と手繋いだまま、そら君が駆け足でわたあめの出店に向かう。

「どれ買うの?」

「あのでっかいの!」

 そら君の先には確かにでっかい袋に入ったわたあめがあった。袋の大きさがわたあめの大きさを物語っている。

「200円だね、100円玉2つある?」

 お財布を取り出したそら君は100円玉を何とか2枚取り出して出店のおじさんに手渡す。

「おーっ、坊主!どれがいい!」

「あのでっかいやつ!」

 気さくなおじさんに取って貰ったそら君は上機嫌。


「かずきお兄ちゃんは?」

「そこら辺にいると思うよー!」

 そら君と手を繋ぎながら奥に進んでいく。殆どの人が奥に歩いていくので、殆ど流れに乗っているように前に進む。

「そら君大丈夫?」

「うん!ゆりお姉ちゃんは?!」

 大丈夫だよー!と笑いながら奥に進んでいく。

 出店はわたあめの他にも沢山あって、焼きそばやたこ焼き、フランクフルトやかき氷、金魚すくいにヨーヨー釣りもある。

 人混みを掻き分けながら進んでいくと、あるお店が見えてきた。良く行く薬局だ。

「そら君、あそこまで歩ける?」

「うん!」

 薬局を指差しながらそら君に訪ねる。そら君は左腕で大きいわたあめ袋を抱えながら元気良く返事をする。ニヤける顔を隠すような再び前を向いて歩き出す。


「ふーっ、疲れたでしょー?」

「大丈夫だよー!」

 薬局の駐車場にある3人分のベンチに少し余裕を持って座る私。そら君はわたあめ袋を両腕で抱えながら回りを走り回っている。

「そらくーん!わたあめ食べるなら座ろー!」

 私の座っているベンチから少し離れた所でそら君はピタッと止まっていきなり袋を開け始めた。私の言葉が聞こえたようで一直線に駆けてくる。

「ゆりお姉ちゃんも食べる?」

「じゃあ少しちょうだい」

 はい!と渡してきた白いわたあめを手にすると、早速ベタベタになる手。

 祭りの騒がしさの中、静かに食べる私とそら君。


「おいしーねー!」

 手や口の回りをベタベタにしながら笑うそら君。ベタベタの手のまま袋に触るから袋までベタベタになっていく。

 そら君にちょっと待つように言うと、近くの水道で持っていたハンカチを濡らしてくる。

「これで手拭きな?」

 そら君がハンカチで手を拭いている間にわたあめの袋を締める。

「はい!ありがとー!」

「もうベタベタしない?」

 うん!と言いながらハンカチを渡してくるそら君。私も軽く手を拭いてから鞄に仕舞う。

「よしっ、焼きそばとたこ焼き、どっち食べたい?」

「焼きそば!」

 それを合図に再び出店が並ぶ道路に出る。


「あっ!金魚すくい!」

 焼きそば買いに行く途中、金魚すくいを見つけてしまったそら君は繋いでいた手を放して駆け寄ってしまう。

「そら君!焼きそばは?」

「あとで!」

 即答しながら泳いでいる金魚を凝視する。

「おじさん!やる!」

「おっ、とれるか~?」

 結果は見えている。毎年同じ。2回ぐらい挑戦するも1匹も取れず、店の人におまけとして貰うパターンだ。

「おじさ~ん!もっかい!」

「おっ、頑張るなー坊主!」

「次で捕る!」

 無理だよ、そら君。

「そら君、コツを教えてやろう!」

 ポイを手に息巻いているそら君に私が話しかける。目を輝かせながら私を見てくるそら君。


「まず何でもいいから影を作るの!金魚は影のある場所に集まるからそこを狙って!」

「分かった!やってみる!」

 そら君が前屈みになって影を作る。少しすると、金魚が何匹か集まってきた。

「よしっ、今だ!」

 私の声に合わせてそら君のポイが動く。尾びれをピチピチさせる金魚を水の張った器に移す。

「捕れたー!」

 その場で立ち上がったそら君は拳を空に向ける。

「良かったねー、そら君」

 そら君の横にしゃがんでいた私は、パチパチと拍手を送る。

「おーっ、捕れたのかー!良かったなー!」

 店の人もそら君の頭を撫でる。でもね、そら君、毎年金魚が死んでしまうと泣いてたよね?


 やっとの思いで焼きそばを買った私達は先程のベンチに戻って、ゆっくり夕飯を食べる。

「あ、花火の音かな?」

 遠くから花火を音がした。多分、奥に進んだ所にある大きい公園で打ち上げ花火が始まったのだろう。

「えっ、花火見る!」

 花火を見たいが為に、急いで食べるそら君。

「そら君、始まったばかりだろうから、そんな早く食べなくても大丈夫だよ」

 喉詰まっちゃうよ?と言うと、食べる速度を緩めるそら君。アハハと笑うそら君の口周りにはソースがベットリ付いていた。


「花火見に行こ!」

 焼きそばを食べ終えると、すぐに私の腕を引っ張ってくるそら君。私としてはもう少しゆっくり食べたい。

「えー?私たこ焼きも食べたいし、もう少しゆっくりしたいなー」

「駄目ー!花火見るのー!」

 急いで行くのー!と言うそら君は必死のようで少し笑ってしまう。

「フランクフルトも食べたいし、かき氷にクレープ、あっりんご飴もあったな」

「早く行くのーっ!」

 う~ん、と悩んでいると救世主。


「何してんだよ」

「卜部!」

「かずきお兄ちゃん!」

 食べ掛けのフランクフルトを右手に、お好み焼きを左手に、ヨーヨーを右手首に、キャラクター物のお面を頭に。とても楽しいです!と全てが物語っている。

「良い所に来た!卜部!そら君と花火見に行ってあげて!」

「はぁ?!何で俺が!」

 呆れたように見ていた卜部は私の言葉に驚きの声をあげる。

「そら君が見たいって!」

「茅野が一緒に行ってやれよ」

「卜部どうせ1人でしょ!私も沢山買ってから後追うからさ!」

 手を合わせてお願いポーズをとる私に、卜部は少し冷静になったみたいだ。

「何買って来るんだよ?」

「たこ焼きとフランクフルト!お好み焼きもいいなっ」

 呆れたようにため息を吐いて、それだけ?と聞いてくる卜部。

「う~ん、デザートにクレープも食べたいし、祭りといえばかき氷も食べたい…」

 悩む私を他所にそら君と話し出す卜部。


「俺と行くか!」

「うん!早く行こー!」

 そら君、少しはごねて。そら君は、私や卜部より花火なんだね。


 手を繋ぎながら歩き出すそら君と卜部。それを見守った私は、早速たこ焼きとフランクフルトの出店を探す。

 先に見つけたのはフランクフルトだった。人気なのか少し客が並んでいた。

 私が買う時、大きな花火が上がった。これからもっと沢山上がるだろう。


 歩きながらたこ焼きの出店に向かう。たこ焼きの出店はフランクフルトの出店より多いらしく、並んではいなかった。

「ソースマヨ1つ」

 フランクフルトを口に含みながらもお金を渡すと、出来立てのたこ焼きを手渡してくる。 袋にいれてくれたお陰で火傷にはならなかったが、見える湯気がどれだけ熱いかを語ってくる。

 少し歩くと見えてきたかき氷の文字。フランクフルトの出店より客が並んでいた。

「ブルーハワイか、レモン」

 かき氷の出店の前で立ち止まり熟考する。

 イチゴも良いが、イチゴだと変化が足りない。かき氷の醍醐味は味によって舌の色が変わる事。そら君を脅かすのにイチゴじゃ駄目だ。

 食べ終えてしまったフランクフルトの棒を、かき氷出店の横にあるゴミ箱に放ってから並ぶ。

「んー、ブルーハワイで」


 熟考した結果、ブルーハワイを注文した私は氷が削られていくのを眺める。 発泡スチロールカップには氷の文字がでかく書かれていて、そのカップに少しずつ削られた氷が落ちていく。 削られた氷が溢れる前に手を止めると、ブルーハワイを上から2回に分けて掛ける。付属のスプーンストローと手にした私はそのまま奥の公園を目指し歩き始める。

 花火も半分を終えたぐらいだろう。




 公園に着いた私は周りをキョロキョロと見渡しながら卜部とそら君を探していた。

「茅野ーっ!」

 ふと名前を呼ばれた気がして声のした方向を見ると、ベンチに座った卜部が手をあげていた。 隣にはそら君もいて、私が来るまでの間を花火を見て待っていたようだ。

「ゆりお姉ちゃん!こっち!」

 そら君が空いてる隣の席を叩きながら進めてくるので、遠慮なく座る。

「ふーっ、疲れたー」

 持っていたかき氷を空いてるスペースに置いてたこ焼きを取り出す。

「たこ焼きだー!」

 目を輝かせて見てくるそら君に付属の爪楊枝(つまようじ)で刺してあげると、口を大きく開けてくる。そら君の口に放り込むと、咀嚼(そしゃく)しながら感想を言う。

「あっ、ふいっ!んふっ、おいひいっ!」

「そーかそーかっ!美味しいかっ、ほれ!もう1つあげよう!」

 まだ食べきれてないそら君にもう1つ差し出す。

「ゆっくり食べさせてやれよ」

 卜部の呆れたように声が花火と花火の間で消えた。



 6つ入りのたこ焼きは3人であっという間に食べ終えてしまった。若干溶けかかっていたかき氷を食べながら残りの花火を眺める。

「そら君そら君っ」

 そら君を振り向かせてベーッと舌の色を見せる。

「わぁっ!びっ、くりしたぁ」

 そら君の思った通りの反応についニヤニヤしてしまう私。それを見ていた卜部が何か思いついたように話す。

「そらもかき氷()う?」

 卜部の提案にそら君は即決して2人して公園を出ていく。確か公園前にも出店は少しあって、その中にかき氷の出店もあった気がした。 何味を買ってくるのか、ワクワクしながらかき氷を食べる。


「ゆりお姉ちゃん!これな~んだっ!」

 そら君が持っているかき氷には黄色のシロップが掛かっていた。

「レモンかパインだねー」

「んふふー、どっちだーっ?」

「んー、レモン!」

「ブブーッ、パインでした~!」

 あちゃーと言いながら頭に手を置いて残念ポーズを取る私。それを見たそら君も嬉しいのか声をあげて笑っている。


「茅野!これな~んだ!」

 私とそら君のやり取りを見て卜部も質問をしてくる。卜部のかき氷には緑のシロップが掛かっていた。

「は?メロンでしょ?」

「そこはそら見たいにノれよ!」

 そら君見たいにノらなかったのが不満なのか、声を荒げて抗議する卜部。

「卜部にはしな~い」

 んでだよっ!と声を荒げる卜部の声を無視して残りのかき氷を完食する。


 花火ももう終盤に差し掛かっていて大きな打ち上げ花火が上がり始めた。

「ゆりお姉ちゃん!あ~んっ!」

 そら君が差し出してきたパイン味のかき氷を口に含む。冷たいのと同時に、パインの甘さが口全体に広がる。

「ん~っ、パイン味初めて食べたけど結構美味しいね!」

 でしょ~?と笑いながら首を傾げてくるそら君。その姿に悶えながらもそら君の頭を撫でる。

「そら!俺にも!俺にも一口頂戴っ?」

「かずきお兄ちゃんにはあげないっ!」

「卜部っ、ふっフラれてやんのーっ!」

 笑ってやった。



「はーっ、楽しかったーっ!」

 ね!と私と卜部に問い掛けてくるそら君。そら君を両側から挟むように手を繋いで歩く私と卜部は、同意するように返事をする。

「来年も一緒に回ろうね!」

 そういって笑ったそら君の顔は、本日1番の笑顔だった。





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