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40話「はふーぃ」



 何故夏という季節があると思う。それは、お化けが活躍出来るからだよ!


「あーつーいー」

 薄いタオルで巻いた長方形が保冷剤を首に当てながら学校の怪談を見る。 始まったばかりのそれはお化けが出る事がなく、普通の学校生活を送っている小学生達。早くお化けを出して私を涼しくしてくれ!


 来る!と思うと、画面全体にお化けが映し出される。

「ぎゃぁぁ!」

 持っていた保冷剤で目を隠すと目元がひんやりとする。

 テレビの小学生達は来た道を戻るように走り去る。いいぞ!もっとお化け出てこい!


「あ~、絶対いるって~」

 何でテレビの中の小学生達は、いると分かっていて中を覗こうとするのだろう。

「オウッ、目ぇぇ!」

 目ん玉がギョロッとこちらを向いた。小学生達も後ろに倒れて尻餅をつく。

 だからお化けいるんだって!

「中には入るな!お化けがい、たぁじゃねぇか!」

 ほらいた!鏡の前にいるから!逃げろ!呪われるぞ!

「手ぇ繋いで逃げろや!」

 身長デカイ癖に心はちっせぇな!それでも男か!

「あぁ~」

 ほらぁ、女の子1人になっちゃった。

「えぇ?!」

 1人になった女の子がお化けか!やられた。


「五月蝿いよ」

 ビクッとしてソファーから顔を上げると、お姉ちゃんが寝起きのような格好で扉の所に立っていた。

「いや~、学校の怪談見てた」

 今日のお姉ちゃんは泊まり込みの仕事だ。その為、午後2時半頃に起きてくる。

 お姉ちゃんが起きてきた事で私はお母さんからの伝言を思い出した。

「あ、ハンバーグのソースどうする?」

 私の声にこちらを向くお姉ちゃんの顔。手にはいつものように麦茶とコップを持っていた。

「いつものデミグラスソースと和風のおろしソース」

 両手にお皿を持った私は、それをお姉ちゃんに見せながらテーブルに持っていく。

「ちなみに、お昼に私が食べたのは2つで、両方使ったよ!おろしソース結構行ける!美味しかった!」

 私の感想を聞いたお姉ちゃんは少し考えてからご飯を持ってくる。

「じゃあ私も両方使うよ」

 レンジの止まる音が聞こえて急いでハンバーグを取り出す。ラップを取ると、熱々の湯気が上がってハンバーグの良い匂いが私を攻撃してくる。

「どうしよう、小腹へった」

「あげねぇよ?」



 お姉ちゃんが支度をしに2階に行ってしまって、再び1人で学校の怪談を見る。

「あの女の子の幽霊は良い幽霊なのか」

 悪い幽霊が女の子の幽霊を閉じ込めていたらしい。

「良かったなぁ」

 女の子の幽霊が笑顔で消えていくと、悪い幽霊が怒ったのか体を大きくして小学生達を怖がらせる。

 折角感動する場面なのに、感動させないってどういう事だ!

 激動の幽霊との対決を前に、お母さんが帰って来た。

 ママ友の家に行ってたお母さんは、行くときに持っていた袋とは違う物を手にしていた。

「それなぁに?」

 不意に私がお母さんに訪ねると、お母さんは嬉しそうに笑った。

「とうもろこし貰っちゃった!」

 1本を私に見せるお母さんは、そのとうもろこしで何を作るか考えている様子。

「う~ん、ポタージュ作ろうかしら?あ、炊き込みとかどう?天ぷらも美味しいわよね~、ゆりはどうしたい?」

 楽しみそうに考えるお母さんが私に意見を聞いてきた。

 とうもろこしと言えば!

「焼きとうもろこし!」



「行ってきまーす」

 支度を終えたお姉ちゃんがリビングに顔を出して言うと、台所で作業していたお母さんが手を止めて外まで送る。

 いつの間にか学校の怪談は終わっていて、報道番組になっていた。

 いつもの4チャンネルの報道番組に変えた私は、新聞の番組欄を見る。

「あっ、今日怖いやつある!」

 7時からあるそれは、送られてきた心霊動画や心霊写真などを流したり、使われていない学校や病院に入って心霊現象が検証する番組だ。この時期には必ずある番組で、私のお気に入り番組の1つ。

 今日が夜勤でいないお姉ちゃんはホッとしているだろう。あの人怖いの苦手だから。

「え~?今日怖いやつあるの~?」

 番組欄を見ていると、後ろから覗いてくるお母さん。そういえばお母さんも怖いの苦手だっけ。

「ンフフ、楽しみ~」

「ゆりのその性格お父さんそっくりよ~」

 お母さんが苦笑いしたことに気付かなかった。



 とうもろこしを茹でたお母さんはそれを使ってポタージュを作るようだ。焼いた方が美味しいと思う。

「お母さん!お風呂もう入れる?」

 この後7時からある番組をゆっくり見たい為、今日は早めにお風呂に入ろうと考える。

「大丈夫よ、バスロマン入れてね」

 軽く返事をした私は部屋に駆けていく。パジャマと下着を手にお風呂場へ直行。

 お母さんが言っていた通りにバスロマンを入れる。薬用のミルク仕立てのバスロマンを入れると、ミルクの香りが浴室に充満していく。


「はふーぃ、あっつ~」

 湯船に浸かった私は、濡れた髪の毛と一緒に出てくる汗をタオルで拭く。タオルで風を送り、体の熱を逃がす。

 リビングにはソファに座って明日の天気予報を見ているお母さんがいた。

「おかーさん、アイス食べていー?」

 冷蔵庫を開けながらお母さんに問うと、お母さんが叫ぶ。

「ゆり!上着なさい!」

 どうやら私の格好に問題があったようだ。私はお母さんの注意に反論する。

「だって暑いー!」

 お母さんは女の子なんだから!とか、はしたない!とか言うけど、暑いものは暑いのだから仕方ない。

 結局、お母さんに怒られた私は、暑がりながらもパジャマを着た。


 体の熱が覚めてきた頃、やっとお楽しみの番組が始まった。

「ただいまー!」

 と同時にお兄ちゃんが帰って来たようだ。


『お分かりいただけただろうか…』

 テレビから暗い声のナレーションが聞こえてきた。1発目の心霊動画が見逃してしまったようだ。

 スローで流される心霊動画の端に、不意に目ん玉がこちらを見ているが分かった。

「ぎゃっ」

「ぎゃぁぁあ!」

 叫ぼうとしたら後ろから野太い叫び声が上げられる。タイミングよくリビングに入ってきたお兄ちゃんの声だ。

「はっ、はぁっ、ビックリしたぁ!」

 胸を撫で下ろしたお兄ちゃんに私が反論する。

「こっちがビックリだよ!入っていきなり叫ばないで!折角私が叫ぼうとしたのに!」

「いや、だって入っていきなり目ん玉が……あったから……」

 そんなの知らないし!折角叫んで幽霊効果で涼もうとしたのに!

「……ふんっ」

 お兄ちゃんを無視してテレビに目を向ける。と同時に、今度はテレビ画面全体に得体の知れない半透明の女の人が駆けてきていた。

「「ぎゃぁぁあ!」」

「うるさーい!」

 お兄ちゃんと抱き合いながら叫ぶと、台所にいたお母さんに注意された。


「そんなに怖がるなら見なければいいのに」

 怖がりながらも見ていると、お母さんが呟いたのが聞こえた。お母さんはコーンポタージュを二口程飲んで、私の顔を見てきた。

「分かってないなぁ、怖いから見るんじゃん!」

 私の言葉にお母さんは首を傾げながらご飯を食べる。お兄ちゃんも首を傾げるのが分かった。


「夏があるのは、こうやって幽霊達が活躍出来る為なんだと私は思う!」

 私の言葉に首を傾げるお母さんとお兄ちゃん。そんな2人に私は力説する。

「だって夏と言えば幽霊だし、幽霊といえば夏でしょ?夏の為に幽霊達は力を貯めて私達に存在を示してるんだよ!じゃないと幽霊達が可哀想!」

 隣に座っているお兄ちゃんにズイッと近寄って力説を終える私。息を整えた私はそのまま残りのコーンポタージュを飲み干す。

「それに!夏の暑さを冷ませてくれるいい人達だよ?幽霊は」

 そういった私は、空になったお皿を重ねて流し台に置くと、急いでソファに座る。


「幽霊に季節関係ないだろ」


 小さく呟いた声はゆりの叫び声で誰にも届かない。





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