39話「キモいよ!」
夏休みに入って2週間、暑い日が続く今日この頃。
「このアイス私のだからー!」
暑い中コンビニから帰宅した私は、名前を書いたアイスを冷蔵庫に入れる。
「はいはい、名前書いたなら陸にぃに食べられる事はないって」
呆れたように言うお姉ちゃんはソファに座りながらエアコンのリモコンを手にしている。
久し振りに家に家族皆がいる。2階には夜勤明けのお兄ちゃんが自室で寝ている。
「そういえばお母さんとお父さんは?」
リビングにいた筈のお母さんとお父さんが見当たらず、お姉ちゃんに質問する。
「三浦さん家にいった」
三浦さんとは隣のそら君家の事だ。
私がコンビニ出掛ける前に慌ただしく支度をしていたのを思い出す。 この間頂いたキウイのお返しに夏の風物詩のスイカの買ったのが昨日。キウイは一昨日の夜に美味しく戴きました。
「ゆりー、洗濯物畳むの手伝ってー!」
庭から聞こえてきた声に大きく返事をして、どさくさにテレビのチャンネルを変える。
お母さん達が帰ってくる間、お姉ちゃんと2人でテレビゲームを楽しんだ。
「そういえばこの間ね」
協力プレイをしている時、私はそら君達と遊んだ時の事を話す。
「そら君達と鬼ごっこしたり虫取りしたんだけどね」
隣でコントローラーを操作するお姉ちゃんが相づちする。
「暑いじゃん!出来れば室内で涼しく過ごしたかったわけよ!」
不満を言う私に、「まぁそうだね」とだけ言ってテレビ画面から視線を外さないお姉ちゃん。
「だから、そら君を家に帰そうとして宿題の話題を出したわけ!」
そこまで私が言うと、理解したようにお姉ちゃんが話し出す。
「あ~、そら君の計画的宿題の進め方ね」
実際にそんな本が在りそうな言い方をするお姉ちゃんに知っているのか問い質す。
「去年の犠牲者あたしだから」
マジか。
「ちなみに一昨年は陸にぃ」
マジか。
「陸にぃとあたしの2人で話し合った結果、さっきの言い方になってるから」
「マジか」
私達3人兄妹がまさかの犠牲者だった。
お母さん達が帰って来たと同時に2階から音がした。
「お兄ちゃん起きた?」
「じゃない?」
お姉ちゃんと2人で話していると、お母さん達がリビングに入ってきた。 後に入ってきたお父さんは何かが入っている袋を持っている。
「お父さん、それ何?」
私より先にお姉ちゃんがお父さんに質問する。突然の質問にお父さんはニヤニヤしながら袋の中に手を入れる。
「ジャジャーン!キウイ~!」
某猫型ロボットのように取り出して見せるお父さん。
「「またぁ~?」」
私とお姉ちゃんの声が重なった瞬間だった。
お父さんに宥められた後、夕飯の準備を始めるお母さん。私とお姉ちゃんも手伝って準備し始めると、お父さんは1人でテレビを見始めた。
「あー!チャンネル変えないでよー!」
皆の分の小皿をテーブルに持ってくると、さっきまでのテレビ番組とは違うのに変わっていた。
「つまんないもん!」
お父さんがもん!なんて言ったって可愛くない!
「キモいよ!」
ついつい思っている事を口に出してしまう私に、お父さんは若干涙目になった。 その姿はお兄ちゃんにも当てはまり、お兄ちゃんはお父さん似なんだと分かった。
「もぉー、相羽ちゃんが出てるの! ニュースより大事でしょ!」
お父さんが持っていたリモコンを取り返してチャンネルを戻す。
お母さんからの呼び出しに軽く返事をしてからお父さんにチャンネル変えないように釘指しする。
夕飯の準備を終えた所で、お兄ちゃんを起こしに行くお父さん。
相羽ちゃんの出ていた番組も終わってしまい、チャンネルを8に回す。すると、国民的アニメのオープニングが始まる。
「ちゃーちゃらちゃーちゃら、ちゃっちゃちゃちゃちゃ」
「ピーヒャラでしょ」
オープニングを口ずさんでいると、お姉ちゃんに笑いながら指摘された。
「お父さんとお兄ちゃん遅ーい」
「陸にぃが寝惚けてんじゃない?」
「大丈夫よ、ああ見えてお父さんもやる時はやるの」
あのお父さんが?
本気を出すのか?と考えていると、階段の音が聞こえてきた。
「いやー、ごめんごめん」
「あ~、おはよ」
寝癖が凄いお兄ちゃんに私とお姉ちゃんは声をあげて笑った。
食べ終えた後、少し眠気が覚めたお兄ちゃんはみいちゃんと遊んでいる。 お姉ちゃんはすぐにお風呂場に向かっていった。お母さんは洗い物片付けているし、お父さんはお母さんとの会話を楽しんでいる。 何もする事がない私は静かにテレビを見ていた。
「アイドルとは思えないよなぁ」
テレビに映っているのはジャニーズアイドルのはずだが、米を作ったり畑で作業している姿を見ると、アイドルだとは思えない。
最終的に、5人組アイドルのリーダーが食材を用いたダジャレで番組は終わった。
「イッテQ始まった?」
同時にリビングに入ってきたお姉ちゃん。髪の毛をタオルで軽く拭きながらテレビと私を交互に見る。
「ダッシュ終わったばかりだよ」
そう言うと、私の隣に座るお姉ちゃん。
さっきまでみいちゃんと遊んでいたお兄ちゃんはお風呂入る為にリビングを出る。
「お!始まった」
少しすると、目当ての番組が始まった。この番組は毎週見ている番組だし、皆して笑えるから好きだ。
この番組のスタッフさん達は芸人さんを雑に扱うのが面白い。最近始まった中岡さんの『Qチューブ』は凄い笑った。
『着けたら分かる!安いやつやん!』
宮川さんがスタッフさんにツッコむと笑いが起こる。連動して私達も笑う。
始まって30分経つと、別のコーナーに移る。それと同時にお兄ちゃんがリビングに入ってくる。
「ゆりー、お風呂ー」
「これ終わったら」
お兄ちゃんの言葉に即効で返事すると、またテレビに集中する。
誰かの溜め息が聞こえてきたが、テレビに集中したいので華麗にスルーする。
「っあー、面白かったー」
テレビに向けてた顔をキッチンに向けると、ニヤニヤしたお母さんと目が合った。
「ゆり、キウイ食べる?」
テーブルには半分に切られているキウイがあり、お母さんがスプーンを見せてきた。
「……いや、キウイ飽きた」
少し考えたが、やっぱり飽きてるし要らない事を伝えるとお母さんはしょんぼりしてしまった。
「流石にそうよね~」
お母さんはキウイを1つ食べながら困ったような表情をする。
「まさかまたキウイを貰うなんて思わなかったわ」
食べずに駄目になるのはもったいないわ~、と言いながら2つ目
。
座っていたソファからお母さんのいるテーブルに近づく。
「もう勢いでお母さんが全部食べちゃったら?」
お皿には皮だけのキウイが3つ、残りは7つ。
「キウイって沢山食べると舌がヒリヒリするのよね~」
なんだか悩んでいるお母さんは、キウイと私を交互に見てくる。
「1つ分でいいから食べない?」
人指し指を立ててみせるお母さんに溜め息を吐きながらスプーンを手にする。
「しょーがないなー」
その後、お母さんに上手く乗せられた私は、残りのキウイを食べる羽目になってしまった。
「あー、ヒリヒリきたー」