34話「ビックリしたなー」
「ゆり!ここにいたっ!」
何やってたの?!と怒りながら私に聞く梓はいつにも増して焦っていた。
走ってきたのか息が絶え絶えな梓は、私の手を引いて何処かに走る。見覚えのない建物が沢山あるここは地元でない事が分かる。
どれくらい走った?私も梓も息を荒げながらも未だに付かない目的地。そこら辺にいる人達が私達を見ているのが分かる。
「あっ、ハァハァッ、いたっ」
どうやら梓は、私と一緒に誰かを探していたらしい。
「朱音っ、ハァハァ、ハァハァッ……っん、ハァ」
朱音は突然の私と梓にビックリしていて、息が荒い私達の背中を擦りながらどうしたのかを聞いてきた。
先に息が整った私だが、私も突然梓に引っ張られて来ただけなのでよく分からない。
「モモっ、が!っ、じこっ……ハァ、事故に合ったって!」
「えぇ?!」
私と朱音の声が大きく重なって響く。
衝撃的な事を何で本人でない梓が知ってるんだ?と不思議に思っていると、梓が詳しく話す。
「モモからメッセージ来たの、ほら!」
そういって見せてきた梓のスマホ画面には「事故に」の文字だけがあった。
梓のえげつないドッキリかと思ったそれだが、あの梓が体力のない自分の体に鞭を打ってまで慌てる程だ。本当だと知ると、いきなり冷や汗が出てきた。
嘘だ、嘘だと思っても止まらない冷や汗を手で拭いながら梓に問う。
「病院が何処か分かる?」
「多分、ここから近くの中央病院だと思う」
なら行こう。そういう私は手が震えていた。怖いんだ。数少ない私の友達が事故に合ったなんて、今まで経験した事がない。
死んじゃうのかな?そんなの嫌だ。馬鹿だけど、優しいし、体育で一緒にペアになってくれる。 思いの外、私はモモが必要だった。私に付きまとうようにして、実は私の事を考えて行動する。 モモが私を必要とするように、私だってモモを必要とする。
「行こうっ」
梓と朱音の後ろを付いていくように歩いていると、突然手を握られた。同時に聞こえてきた声は前を見なくても分かる。朱音だ。
「朱音、モモ大丈夫だよね?」
苦笑いしながら、それでも少しでも笑顔を作って朱音に問う。
「大丈夫だよ、モモは頑丈だからね!」
笑顔で言う朱音は強い。考えた事なかったけど、誕生日では朱音が一番早い為、いつメンの中ではお姉さんなのだ。
朱音と手を繋ぎながら歩くと、中央病院が見えてきた。
中に入って、受付の人に確認する。
「大澤桃子って人、今いますか?」
受付人は少し資料を見た後に答えてくれた。
「はい、第2治療室で現在手当てしてますよ。そこの案内図でご確認下さい」
私達は受付人に礼を言うと、案内図通りに歩いて行く。
「ありがとうございました」
第2治療室の前に着くと同時に、見覚えのあるシルエットが扉を開けて礼を言う。
「モモ!」
3人してモモの近くまで駆け寄ると、モモは驚いたような顔をする。
「えっ、何で?」
驚きの声を上げるモモに、私達は抱き付く。
「事故って大丈夫なの?」
「何処怪我したの?」
「誰にやられた?!」
モモが何か言うより前に詰め寄る私達。
「別に大きい事故じゃないよ。だから怪我もいつもとあまり変わらないから大丈夫! 自転車漕いでたら野良猫が出てきてビックリしたよー」
心配した私達を他所に、モモは流石のマイペースな声色で「ビックリしたなー」と話している。
「……良かったぁ!」
「ビックリしたんだよ?こんな中途半端なメッセージ来たから」
私が安堵の声を上げると、皆でわいわいと話を始める。
「いやあのね?メッセージ送ろうとしたんだけど、怪我したの右腕だからさ」
「だからってこんな簡潔にする?!」
あまり焦らないモモの言葉に、朱音が突っ込む。
「事故に合っちゃったぁ!ってな感じで送ろうとして、途中で呼び出しされたからさ」
ごめんよー?なんて馬鹿な風に言うモモは、いつもと変わらない。
「……あ?」
寝てたのか。
寝てました。
今何時?
そーね、だいたいねー。
ベッドから見える部屋の時計は長針が6と7の間、短針も6と7の間。
ん~?
6時半か
遅刻だ馬鹿!
勢い良く起き上がると、暗い外が見えた。
午後だよ馬鹿!
脱力した体が再びベッドに沈む。
てか夏休みだよ馬鹿!
どんだけ勘違いしてんだよ、馬鹿……
あれか、モモ達と笑いあってたのは夢か。夢だったパターンってやつか。
ふかふかベッドが再び私をドリームワールドに誘おうとすると、リビングからお母さんらしき声が聞こえてくる。
ご飯の匂いに反応するようにお腹の音がなる。無意識に起き上がった体は、リビングに続く廊下を歩く。
「んー」
リビングの扉を開けながら、この匂いは何だろう?と考える。
「やっと起きてきた」
お母さんは笑いながら、もとい呆れながら私を見てきた。
周りを見渡しながら頭を掻く。お父さんは勿論、お兄ちゃんもお姉ちゃんもいない。
「よっぽどプール疲れたのね」
お母さんの言葉で思い出した。
そうだ、今日はプールの補講で学校に行ったんだ。確か、プールの補講終わって、家に帰って来てお昼は食べたはず。 その後に寝たんだろう。
「お母さん、私何時に寝てた?」
何時間寝たのか分からず、お母さんに私が寝た時間を聞く。
「えー?お母さんが買い物から帰ってきたら、ゆりがソファーで寝てたのよ? お母さんがゆりの部屋に運んだの」
夕飯の準備をしながら言うお母さんは、重かったわーとか、大きくなった証拠ね!なんて言いながらおかずを運んでいる。
お母さんと一緒に食べる夕飯で、私は夢の話をした。全ての話を聞いていたお母さんは、正夢になったりしてね?なんて問い掛けながら笑った。
んなわけないない!と言った私の笑い声が広いリビングに響く。