33話「なーにー?」
夏休みが始まり3日目。
「あぁーめんどくせー」
自転車で学校に向かう私は呟く。
夏休みが始まり3日目の今日は、プールの補講だ。決められた回数入らなければいけないらしいが、私達のクラスは殆どが補講だろう。私もその中の1人だ。
期間は今日から5日間で、1日2時間分まで入る事が出来るらしい。 私は2時間足りないので、今日入れば終わりだ。確か梓も私と同じ立ったはずだ。
学校に着いた私は、駐輪場から急いでプールに向かう。
プールには、学年ごとにシューズが並んでいて、色んな声が聞こえて来る。 サンダルに履き替えようとして1つもない事に気付く。それだけ多くの生徒が補講に来ているんだろう。
「あ、ゆり!やっと来たぁ!」
裸足で着替え室に入ると、朱音達が着替えている途中だった。
「アハハ、ごめんごめん」
遅れた~、と笑いながら言って梓の横に鞄を置く。
「どうしたのー?」
「そら君に止められた」
「あ~、あの子にねー」
4人で話しながら着替えていく。
「でさ、そら君と約束しちゃったんだよね。今度皆で遊ぼうって」
「その皆ってのは……」
「ここの4人だよ」
「「だよね~」」
モモと朱音の声がハモると4人で笑った。
私より先に着替えていた3人が着替え終えてプールに向かうと、私も急いで水着を着る。
思った以上の生徒の数に、私は一瞬固まってしまった。
見学者用のベンチに座っていた先生に学年と組と名前を言うと、急いで梓達の所に向かう。
「お、来たね」
「来ましたよー?」
モモと朱音が馬鹿やってる後ろで、梓と話始める。
「どうです、あの2人は課題やってると思います?」
「うーん、どうでしょう?何もそれっぽい事は話してないですねー?」
「さよかー」
「せやー」
敬語と変な関西弁を交えながら話す私達。
「あれ、これって何回往復だっけ?」
確か何回か往復で、1時間分になるらしいが。
「確か10回だよ」
梓曰く、10回の往復で1時間分になるらしい。という事は、今日20回往復で終わるのか。
「どぅーん!」
梓と話しながらプール内を歩いていると、背中に何かが当たる。振り向くと、朱音とモモがビート版を持って遊んでいた。
「これどうだ!ンブッ」
「アハハハッ!顔!顔!」
モモと朱音は遊びに夢中で、私達が見ている事を知らない。
「……何してるんでしょう?」
「……さぁ」
「……置いていこうか」
「……そうだね」
何とか5往復。あと5往復したら1度先生に報告しないといけない。そしてまた10往復。めんどくさい事この上無い。
「あ、プール終わったらアイス食べない?」
思い出したように提案する私に、ビート版で遊んでいた梓は私に顔を向ける。
「……ゆりの奢り?」
「違うから!」
「……食べる」
「ちょっと間が空いたのは何で?」
梓はビート版を使って先に行ってしまった。呟いた私は急いで梓のあとを追う。
何とか10往復終えて、先生に報告する。
「あと1時間分やるか?」
「はい、やります」
「はい」
寒すぎて体を震えながらプールに入ろうとすると、先生が止めてきた。
「待て、富田と大澤はどうした?」
先生の問いに私達は顔を見合わせて固まった。
「忘れてた!!」
二人の存在を忘れていた私と梓は、プールサイドで2人を呼んだ。
「モモ!」
「朱音ー!」
私達の叫び声に周りの生徒も私達も見る。
「なーにー?」
「どうしたの?」
そんなのを他所に、本人達はゆっくりと此方に歩いてくる。
「一度上がれ!」
私が2人に叫ぶと、戸惑いながらも慌てて上がる。
「はい、先生に10回往復したこと言って!」
私と梓で、モモと朱音の背中を押して先生の所に連れて行く。先生は呆れながら2人に聞く。
「10回往復終わったな?」
聞かれた2人は顔を見つめ合った後、私達の顔を見て衝撃的な言葉を言った。
「終わった?」
――……数えとけよ!!
補講が終わると、私達は校門前にいた。
「……あづい」
「日陰なのにね……」
「プールの後なのに何故汗が出る……」
「……早くアイス食べよう」
校門前には、白ヶ峰高校を象徴するように大きな桜の木がある。緑色の葉が何枚にも重なって私達が座る所を日陰にする。 時々、吹いてくる風と揺れる葉の影が私達を少し涼しくしてくれる。それでも熱いのは何故だろうか。
コンビニに行こうとしていた私達は、5分後、行動に移した。
校門から歩いてたった1分の所にあるコンビニは、冷房が聞いていて一気に熱が引いていく。今までいた所が地獄のように感じる。
「プールの後はアイスだよね!」
「お風呂の後もアイスだよね!」
意気投合しながらアイスコーナーを見る2人は、まるで小学生のように身を乗り出している。
「プールの後はアイスなの?」
プールに長く入ったからか、アイスを食べている途中でだるくなってくる。これがあれか。プール後の脱力感。
授業中でも度々襲ってきたそれは、私からアイスを遠ざける。
「……誰か私の食べる?」
「いらなーい」
「……朱音!ジャンケン!」
モモと朱音がジャンケンをする。
「ゆりっ、あたし食べるっ、ちょい待って?」
ジャンケンで勝ったのであろう朱音が勢い良く残りのアイスを頬張る。 頭キーン現象で顰めっ面しながらも手を出してくる朱音は、食い意地が張っている。
自転車漕ぐのも面倒だが、漕がなきゃ家には帰れない。
「ゆりっ!バイバーイ!」
「バイバーイ!」
「気ぃつけてね」
最後の梓の思いやりに涙が出そうになったが、それを抑えて3人に手を振る。
「バイバーイ……」
さて、帰ったら寝よう。