25話「あーい!」
珍しい組み合わせだった。
「まぁたテストだよぉー」
「やぁだなぁー!」
掃除後の放課後、教室に残って遊んでいた私達――私と梓とモモと朱音――、今日はそれにプラス4人――中庭さんと谷さんと三宅さんと飛田さん――。
今日はモモと朱音、谷さんの3人がプリントを忘れた為、一緒に残って手伝っていた。
朱音が言っている通り、期末テストをあと1週間後に控えている。その範囲に入っているプリントを忘れたのは何処の誰だろうか。
「テストって言うけど、あと1週間あるんだし少しずつ勉強すれば大丈夫じゃね?」
飛田さんが言った一言にモモと朱音が反論をしだす。
「飛田さんは分かってないんだよ!私達、勉強出来ないコンビの気持ちなんか!」
「うん、分からん」
モモ達がお互い肩を抱きながら反論する言葉に正直に答える飛田さん。想定していなかった言葉にモモ達も一瞬固まった。
「な、なんだいなんだい!分からないのなら言わないでよぉ!」
泣き顔可愛いな。
私が朱音にヒントを与えていると、隣の頭が上がった。
「あ、ねぇ!賭けない?!」
「賭け?」
突然の谷さんからの提案に梓が尋ねる。
「イエス!賭け!う~ん、総合点数が一番低い人が何かを皆に奢る!とか?」
谷さんが賭ける内容を提案してくる。
「それ、あたしら前のテストでやったよね?」
「うん、お菓子奢るやつ」
谷さんの提案した賭けを前にやった私達。モモと朱音がそれを伝えると谷さんはまた提案する。
「う~ん、あ!ミックは?ミックの単品でもセットでも奢る!とか」
「いいね!あたしミックのポテト食べたい!」
谷さんの提案にモモが賛成する。
ミックの出来立てポテトが食べたくなってくる。絶妙な塩加減が堪らなく好きなのだ。
「うん、私もいいと思う。ミック好きだし」
私も賛成として挙手すると、皆が一斉に賛成しだす。
“総合点数が一番低い人が他の皆にミックを奢る”という賭けが成立した所でモモと朱音と谷さんにはプリントに集中してもらう。
「だぁから!そこは違うって!こっち持ってくるんだよ!」
「もぉー何でこんな複雑な式があるの?!分かんねぇよ!」
今日忘れたプリントというのは今日が提出日の数学プリントだった。
モモ達がプリントやってるついでに、監視兼ヒント与え隊の私達も今日渡されたプリントでもやろうと言うことで、朱音に教えながらプリントをやり始めた。
だがしかし、朱音の頭では今の数学は少し難しいのか、4回教えた筈の問題を未だに間違える。そのせいで私イライラする。
数学の教科書に目を通しているのか疑いたくなる。
「荒れてますなぁー、ゆり」
突然の声に振り向く。
「頑張れー」
「他人事だと思ってー!」
梓の言葉に怒る私。
「出来た!」
ドヤってる朱音のプリントに目を通す。
「……こっちも持ってくんだよ!」
「えぇー?!」
間違っていた。
きっと朱音が馬鹿なだけ。他の皆より馬鹿なだけなんだ。
「あ、モモ、そこ違うよ」
「マジか」
「まどかー、ここ分からん」
「えー?んー、殆ど公式通りで、ここで引くんだよ」
「んー?ほぉほぉ」
梓がモモに、中庭さんが谷さんに教えているのを見ていると羨ましく思う。何で私は朱音なんだろう?
もし私が教えるのが朱音じゃなくてモモとか谷さんだったら、私も何回も同じ説明しなかっただろうし、こんなに声を荒げなかっただろう。
「出来た!ゆり」
ドヤってくる朱音の顔にムカつきつつもプリントに目を通す。
「はいはい……だぁかぁらぁ!こっちもこっちも持ってくるんだよ!何でこっちだけでこっち持って来ないの?!言ったじゃん!私言ったよね?!両方持ってくるって!」
「はい……言ってました」
「じゃぁ、今度こそそのやり方でやってみな」
「あいよ!」
私の怒涛の攻撃にシュンとしていた朱音だったが、再びプリントな向き合う。
馬鹿な朱音だけど、やる気がある分まだ増しだ。
「終わったぁー!」
「モモー!イエーイ!」
「イエーイ!」
プリント終わった位でそんなに喜べるか。抱きつくなよ。
「まどかー」
「谷ー」
「「あーい!」」
何故中庭さんと谷さんまで抱き合ってんの。
「三宅ー」
「……とーびたー」
「あーい!」
飛田さんまでノッた?!三宅さん、やる気無さそうに抱き付かないで!最後の掛け声も飛田さんだけだし!
「……ゆりー」
心の中でツッコミをしていると、梓に呼ばれた。この呼び方だと、私と梓で抱きつく…のか?
「……やらないよ?!」
想像しただけで違和感が半端ない。
拒否ったら梓が凹んでしまった。
顔を伏せてしまった梓は、泣いているのか、はたまた泣き真似か。
「梓かーわいそー!」
「ノッてやれよ、ゆり」
「ゆり、そこは間を取ってでもノらなきゃ」
「そーだよー、梓期待してたのにー」
「可哀想だよー、ねー梓」
「梓ー、元気出してー」
皆して私を苛めてくる。何故だ。
「期待、してたのになー」
梓が小さい声で言った言葉に、何故かキュンと来てしまった。
「……ごめんよ、梓」
私が腕を広げながら梓に言うと、梓が私の体に飛び込んできた。
「どーん!」
「ぅお?!」
いきなりの重みに倒れそうになるのをなんとか耐えた私。自分頑張った。
「こうして、茅野ゆりと新垣梓の交際が始まった――」
「「始まってない!」」
ナレーションのように話す中庭さんの言葉に私と梓が声を合わせて突っ込んだ。
私と梓の息のあったツッコミに教室内が笑い声で溢れる。
「はぁー……さて、帰ろっか」
一頻り笑うと、モモが帰るように催促する。各々片付けて帰る準備をする。
「黒板の消していいー?」
三宅さんの言葉に一斉に黒板に顔を向ける。
「あ、待って待って!写メる!」
「あ、じゃぁそれ、あたしに送って?」
「いいよー」
黒板には、岩木先生の上半身が描かれている。離れて見ると、教卓の所に岩木先生が立っているように見える。朱音と谷さんの合作だ。
前から4列目の席に中庭さんが立って大きさを伝え、それを聞いて朱音と谷さんが描いて行った。結果、リアルに岩木先生がいるように感じる。
私と三宅さん以外が駅方面に歩いていく。三宅さんが自転車登校なのを今日知った私は、三宅さんと会話しながら帰り道を漕いで行く。
「ホンット、ゆりと朱音のコントは面白いわー」
「別にコントやってるつもりはないよ」
「傍から見たらそんな風に見えるよ」
「そうかなー?」
「そうそう!」
もう少しで日が落ちるのか、少し暗かった。
風が冷たいような、暖かいような、妙な感覚の中、私達は話ながら自転車を濃く。
「朱音はね、何かー、ツッコミ甲斐があるっていうか?ツッコまずにはいられない?みたいな?」
「アハハ!分かるー」
「だよね!」
朱音の顔を見てると無性にツッコミしたくなってくるのは何故なのだろうか?
横断歩道をきっかけに三宅さんと別れる。
「あ、私こっちだから、三宅さんじゃぁね」
「うん、バイバーイ」
三宅さんと分かれて家に向かう。
今朝飲んだ味噌汁まだあるかな、と考え込む。今日の味噌汁旨かったなぁ。