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23話「ちょいと待てって」



「一生懸命したのに!」

 朝のホームルーム後、英語の教科書を机に置いて中庭さんと話し込んでいた時、荒げながら言い放ったのは谷さんだった。


「ど、どーしたー?」

「どうしたの、谷さん」

「ど、どーしたもこーしたもないわぁ!髪だよ!」

 戸惑いながら聞いた私と中庭さんに向かって谷さんが怒りを露にしながら説明しだした。

「あたしが毎朝何時に起きてるか分かる?!5時半だよ?!それから色々支度して家を出るのが7時!その間の30分を髪に使ってるの!なのに何で!2時間目始まる前から髪が跳ねてんのさぁ!!」

――知らんがな~

「しょうがないんじゃない?今梅雨だしさ、湿気が…ね!」

 中庭さんが私に話を振ってきた。

「ぅ、うん、そうだね、梅雨ん時は大体そうなるよ。私もそうだし」

 不意に隣の誰かと肩が当たって割り込んできた。

「谷さんもそう思うよね!あたしもそうなの!」

 相沢さんだった。


 相沢さんが同意してくれた事に大層嬉しそうにする谷さん。

「わかる?相沢さん!」

「うん!分かる!私ももうアイロンしたのに外跳ねが凄いの!これどうにかしたいよね!」

「うん!したい!30分もした髪のセットが台無しなんだよ!」

「分かる!ホンットにあたしも30分していつもセットするのに梅雨の時期だけこんな風に跳ねてさ!水の泡っていうの?!」

「そう!水の泡!髪セットした30分返せ!このジメジメ野郎!」

「ジメジメ野郎!」

 谷さんと相沢さんが外に向かって連呼していると、先生が入ってきた。

「何してるの?」

 戸惑う先生に誰も答えずに席に着いた。


 雨が強いせいで、窓側の席の私には五月蝿い。

「確かに、折角セットした髪が崩れるのは嫌だね」

 外の雨を見続けていると、突然声が聞こえてきた。

「梓も髪崩れた?」

 声の主に聞く。

「うん、ほら、跳ねてる」

 髪の先を指差して私に見せてくる。

「ホントだ、私は?どうなってる?」

 私の場合、1つに縛っている為、自分で跳ねているのか分からない。

「…跳ねてないよ」

 梓に対して横を向くと、梓が髪の方に顔を向けて声を出す。




 放課後、用事のない私と梓は、委員会の仕事で図書室に用がある朱音とモモに付き添う形で居座る。

「ちょいと待てよ?梓」

「早くしてよ」

 来て早々につまんない為、何故か置いてあったジェンガで遊ぶ私と梓。朱音とモモも誘ったが、藤田先生に仕事をするように注意されて、受付から私と梓の遊ぶ様子を窺っている。

「ちょいと待てって」

「はーやーくーしーてー」

「…ちょい…ちょい」

「時間切れまでー、5、4…」

「ちょっ待てよっ」

「3、ふふっ、ふっ…」

「…似てた?」

「…似てたっ、ふふっ」

「きっと声帯が似てるんだよね、ちょっ待てよっ、ちょっ…ちょ待てよっ」

「……早くして」

「はい…」

 私と梓が楽しくジェンガで遊んでる間も、受付の方からの視線が痛かった。



 ジェンガに飽きて、梓が受付の2人にたかりに行った。

「もしかして、藤田先生も髪型崩れてます?」

 私も行こうかなと席を立った所で藤田先生の髪に違和感を感じて尋ねてみた。

「えっ、何で分かったの?」

 思った事は本当だったのか。

「なんとなくです!でも藤田先生の場合、あまり分かんないですね」

「そう?」

 私が言うと、藤田先生はホッとしながら口を開く。

「何か、巻いてるからかな?あまり、ちゃんと見ると分かる感じです」

「そっか、良かったぁ、実は今日、学校来てすぐに髪型崩れたのに気付いてさ、それから後ろ髪を気にしてたの。茅野さんがそう言ってくれて良かったよ」

 そう言うと、藤田先生は持っていた資料に目を通し始めた。


 受付横に置かれてる大きなホワイトボートに足が生えているように見えた私は、ビックリして後ろ側に回り込んだ。

「お、ゆりも描く?」

 ホワイトボートの裏は黒板になっていて、白、赤、青、黄色のチョークと小さい黒板消しが置いてあった。

 何かを描いている梓がチョークを差し出してきたので、受け取って黒板にスラスラとあるキャラを描いていく。

「え、梓のそれは何?」

「なんでしょ~」

 気になって見てみたけど絶対分からない。強いて答えるなら、地球外生命体と私は言うだろう。

「…地球外生命?」

「…は?」

 朱音は馬鹿か!…馬鹿だったな。

 朱音の答えに梓は怒り新党で、モモは朱音と梓を交互に見ながら私に助けを求める。朱音は自身が言ってしまった事に心底後悔をしているようだ。

「…朱音とは、また楽しく遊びたいな」

 朱音生きろ。


 梓の怒りが少し収まって、梓はまたもや同じ質問をする。

「じゃあヒントちょうだい!」

 モモが思い出したように梓に提案する。

「え、ん~、パケモンのキャラ」

 闇属性か、土属性と見た。

「…タイプは?」

「電気」

 電気?!電気属性にこんなどろっどろなやついたかな?

「…えっと、メジャー?マイナー?」

「メジャーだね、主人公の相棒だし」

 考えたように答えた梓の言葉に描いたキャラが分かったと同時に衝撃を受ける。

「あ、あぁ!やっぱ…えぇ?!」

 モモ、衝撃を表に出さないで上げて、梓が傷ついちゃうでしょ?


 梓の絵がやっと分かった所で、私もやっと描き終えた。上手く描けた記念にスマホで写真を取ると、シャッター音で3人が気付く。

「レアパケモンだ!」

「ゆりすげぇ!かっこいい!」

「うまっ」

 朱音とモモは写真撮ってはしゃぎ出す。

 モモにかっこいいと言われて満足だ。

「あたし、このパケモンかっこよくて好きなんだ~、ありがとう!ゆり!」

 あ、私がかっこいいんじゃなくて、描いたパケモンキャラがかっこよくて好きなんだね。

 勘違いした私が恥ずかしい。


 朱音とモモも黒板に落書きし始めてぎゅうぎゅうになったので、私と梓は受付の椅子に腰かけて髪の毛を縛り直す。

「ゆりさぁ、髪の毛下ろして来たら?髪下ろした姿見たいなぁ」

 縛り直した後で、梓からの言葉に少し考える。

「え、う~ん、めんどくさいなぁ」

「何が?」

「えっと、朝、寝癖直すじゃん?それがめんどい」

「毎朝やってるでしょ?」

「いや、殆どそのまま。少しドライヤーで説かすくらい、それで髪縛ってるから」

 私の髪事情を知ると、梓はため息を吐いて口を開く。

「ゆりも女の子なんだからもう少し頑張ろう?そんなんじゃ彼氏も出来ないよ」

 ため息交じりの言葉に私は反論する。

「いや、今の時点で頑張ってるから!別に彼氏なんかいらないし!」


 落書きを終えて、私達の近くに来たモモと朱音。

「う~ん、ゆりは色んな意味でモテてるし、いいんじゃない?梓」

「そうそう!それにゆりは、今のままで充分可愛いよ?」

 朱音、モモの順番で言ってきた。

「そうは言うけど、ゆり、髪下ろした方がもっと可愛いと思うんだよね」

 私の髪を触りながら梓が言う。

「別に、いいじゃん。夏過ぎたら下ろして登校するんだし」

 私の考えを言うと、モモ達は驚く。

「えっ、何で?」

「うっそ!下ろして?」

「マジか、2学期から?」

 各々の反応を見て私が答える。

「2学期になるとさ、寒くなってじゃん!だから髪は縛らないでマフラー代わりにするの」


 一瞬3人共固まった。が、すぐに声を上げる。

「「「…分かる!」」」

「確かに!若干寒さ紛れるよね!」

 モモが少し考えて言ってきた。

「うん、私の中では、冬にいつまでマフラー無しで居られるか挑戦したりしてる」

「あぁー分かる!何か、寒くても髪で若干紛れるから、これどこまで行けるかな?って思う時ある!」

「ね!」

 モモと私が楽しく話していると、最終下校時間になった。



 少しずつ日が落ちるのが遅くなる為、最終下校時間も長くなる。

 でも、こういうの好きだ。一定の友達と学校に遅くまでいると、なんか悪い事をしているように感じてより笑えるから。

「「バイバーイ!」」

「バイバイ」

「じゃぁね」

 所々にある明かりがキラキラと輝いて見える時間帯。




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