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22話「噎せます」




 プール掃除した4日後の今日、快晴のプール開き。

「準備体操!」

 先生の声に広がる私達。何故かプールに入る人より見学者の方が多い為、狭い所にも関わらず簡単に広がる事が出来た。


「シャワー浴びてきたら入っていいよ」

 準備体操を終えるとシャワールームに言ってシャワーを浴びる。この時のシャワーの温度が冷たすぎるのが嫌いだ。シャワールームからプールまでを小走りで移動する。

「寒い寒いっ」


 プールに入ってしまえば温かく感じるのは何でだろう。

「こうやってプールに入ってれば温かいよね」

「うん、何でだろうね」

 一緒に入っていた朱音と会話しながら歩き出す。

「梓ー!モモー!」

 反対側の見学者用のベンチに座っている梓とモモに、朱音が手を振って声を掛ける。それに反応して手を振り返してくれる2人。

 梓は月一のアレで、モモは昨日怪我をしてしまって見学している。

 1組と2組の女子の殆どは見学している人が多い。月一のアレや、怪我をしていたり、病気をしていたりと見学の理由はさまざまだ。中には、入りたくない為わざと水着を忘れたり、理由を適当に作って見学に回るようにしている人もいるだろう。

 その為、今日のプールに入っている人は、1、2組合わせて7人しかいない。


「ビート板使うやついるかー?ここ置いとくぞー?」

 先生が持ってきたビート板を手にすると、朱音がいきなりしゃべりだした。

「知ってる?ビート板使って面白い事出来るんだよ」

「ふーん」

 どうせアレでしょ。ビート板の上に立ったり、座ったりとかでしょ。


「ビート板を5枚使います」

「ビート板は1人1個です」

「いいからっいいからっ!次に5枚のビート板をプールに並べて浮かせます」

「どんどん離れていきます」

「離れていかないようにします!慎重に上に寝っ転がります」

「沈みます」

「見てろ?慎重に…ぶっほぉっ!げほっげほっ、ゴホッ!」

()せます」

 駄目じゃん!

「馬鹿じゃないの、出来るわけないじゃん!」

 朱音の背中を撫でながら言う。朱音の体型じゃ、そりゃ沈むよ。

「おかしいなぁ、中学の時に友達出来てたよ?」

「それは、友達が痩せてるからでしょ」

「そっか」


 朱音の納得がいった時、先生が来た。

「コラー!富田何やってる!ビート板は1人1個だ!」

「すいませーん!」

「先生、私も言ったんですよ!ビート板は1人1個だよって、そしたら朱音、大丈夫!って」

 先生に言い訳を言うと、朱音が「ゆりスルーしてたよね?!」と驚きの声を発する。

「富田、泳げないからって独り占めは駄目だぞ」

「…はーい、もうしません」

 不服そうな朱音は、口を尖らせながら先生に謝った。

 その姿を見た梓とモモがベンチに座りながら爆笑していた。


「あたし、別に泳げないわけじゃないんだよ?」

「うっそ?!」

「いや、マジで!」

「見えなーい」

 朱音の体型を見ながら考えると、朱音が「おい!」と言った。


「朱音ー、ゆりー、鬼ごっこやろー」

 谷さんと三宅さんが近付いて来たと思ったら、そんな事を提案してきた。

 二つ返事で承諾した私達は谷さん達に着いてプールの真ん中に移動する。プールの真ん中は、背の低い人が行くには危険なくらい深くなっている。そんな所でジャンケンして鬼を決める。


「プールでの鬼ごっこって疲れるね」

「ね、走ってる筈なのにあまり進まないし」

「でも、走る時若干浮くの面白いよね」

「あぁー、うん確かに」

 鬼ごっこの最中、フリーになった私と三宅さんは端の方に移動して話し込んでいた。

「ゆりー!朱音来てるー!」

 三宅さんとの会話中、突然呼ばれた私は声の聞こえた方に顔を向ける。モモだった。

「ゆりー!朱音ー来てるよー!」

 指を指しながら私に言ったそれは、朱音が鬼だと知る言葉になった。モモの指差しの先に朱音は居た。どうやら私か三宅さんのどちらかを狙っているみたいだ。

「やべっ!」

 いち早く動いた三宅さんは、反対側に向かって泳ぎだした。三宅さんの泳ぎで飛んで来た水飛沫に顔をしかめている間に朱音はこっちに泳ぎ迫っていた。どうやら狙いは私のようだ。


 プールの壁には泳げない人用に段差が付いている。

 泳ぎに夢中になっている朱音に分からないように段差の上を移動する。

 移動しきって朱音の方を見ると、丁度泳ぎを終えて顔を上げていた。いる筈の私がいなかった事で周りを見ている朱音は、私を見つけると、また泳ぎ出す。

 顔を上げながら泳ぎ始めたので、逃げる為に私も泳ぎ出す。

 もしかして、茅野ゆり泳げねぇんじゃね?と思ったでしょ?残念、泳げるんです!


「ゆり、泳げるんだ」

 泳ぎきった先に居たのは谷さん。谷さんも私は泳げないと思っていたのか。

「残念、泳げるんです」

「別に残念だとは思ってないけど…」

「朱音来るよ」

「ゆ、りー、っ!あしっ、あ、つっ…いっ、た!」

 朱音が何か言っている。ほぉら、捕まえてごらん。

「やーい!朱音来いやー!」

 谷さんはそう言うと逃げるように泳ぎだした。

――?何か、 

「って朱音!足()った?!」

 さっき朱音が言ったのは足が()った、って事か!

 私の言った言葉が響いて谷さん達や先生が来た。私は朱音に近付く。

「朱音!大丈夫?!」

「っあー、足()ったー。ありがとう、ゆり。良く分かったね」

 朱音を連れてプールの縁に移動する。丁度、見学者用のベンチの近くに居た先生に問う。

「朱音、出させた方がいいですか?」

「あぁ、富田、上がれるか?」

「はい、すいません」

 先生に謝りながら上がる朱音。

「あ、そうだ」

「ん?」

 突然私に向いた朱音は私の肩に手を置いた。

「私、鬼だったから、あとよろしく」

 つまり、タッチされた。



 その後、私が三宅さんにタッチした所で授業は終わった。


 濡れた髪をタオルで拭きながら朱音に問う。

「足大丈夫?」

 突然の質問に一瞬キョトンとした朱音だが、ニッコリ微笑んで答えた。

「うん!大丈夫!」


 教室に戻ると梓とモモが話していた。私達を見つけると、こちらに来て話しかけてきた。

「朱音、大丈夫か!」

「うん、大丈夫」

「朱音は()せるのが好きなの?」

「違うわ!」

 朱音は噎せるのが好きらしい。




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