21話「な、いです…」
「滑りやすくなっているので注意して掃除して下さい」
だったら生徒にプール掃除なんかさせるなよ。
今日は体育の時間を使ってプール掃除をする。何故私達生徒がプールの掃除をしなければならないのかいまいち分からない中、そそくさとプール内に足を入れる。
「きゃー、ヌルヌルしてる!キモイ!」
「ぁぁぁぁ、マジメにヤバい!」
「端の方が歩こう、手すりに捕まればコケないでしょ」
「これ、サンダル履いた意味ある?」
汚い水に藻のようなゴミが沢山浮いている。サンダルを履いた所でプール内に足を入れて歩くと色んなゴミがサンダルと素足の間に入ってくる。
「いっけぇぇ!」
「わっぷ、きったねっ!止めろよ!」
「あちょーっ!」
「こっち飛んでくんだよ!きたねぇ水が!おい!やぁめろ!」
プール掃除が始まってすぐに男子達の声が大きくなる。始まったよ、男子特有のあのテンション。
「コラー、真面目にやりなさい!」
ブラシで壁を擦っていると、先生の声が男子側から聞こえてきた。振り向いて見てみると、一部の男子が怒られていた。
どうせ、水の掛け合いか何かやってたんだろ?へっ、ざまぁ。そんな事でしか遊べない男子は本当に馬鹿だ。こういう時の遊びはこうやるんだよ。
「あ、朱音そこに変な虫いたよ」
「へっ、どこどこっ?!やだやだ!」
「あぁ駄目だよ、そんなにバシャバシャしちゃ虫が逃げちゃう。梓も怒っちゃうよ」
「へ?」
虫の話をしていたのにいきなりの梓登場にキョトンとしてる朱音。
少しの間固まった朱音は、思い出したように後ろを向くと、梓の体操着に茶色の汚れが水玉模様のように沢山付いていた。
梓の顔に少しだけ付いていた茶色の水は、梓の手によって拭かれた。何故か笑顔の梓だが、ちゃんと見ると目が笑ってない。
「…放課後予定ある?」
「な、いです…」
梓の突然の質問に、怖がりながらも答えた朱音。朱音の答えを聞くと、梓は「楽しみだなぁ、朱音で遊ぶの」と言った。
一体朱音を使ってどう遊ぶのか気になる。気になるけど聞けない。
「山上ー!」
壁をブラシで磨いていると、突然先生の声が響いた。振り向くと先生が山上とローマスくんが立たされている。
山上は分かるけど、ローマスくんまで一緒になって怒られるのはおかしい。ローマスくんは普段大人しい方なのに。何があったんだ。
「山上と檜山がふざけて遊んでたら、山上がバランス崩したの。丁度後ろにいたローマスくんの上に乗っかる形でコケた」
山上達の方を見ていると、谷さんが詳しく話してくれた。
ローマスくん可哀想に、山上重かっただろう。てかよく見るとローマスくんマジでずぶ濡れじゃん!本当に可哀想。
ローマスくんに続いて畠山くんと朱音がコケた。畠山くんはコケて体操着がずぶ濡れ、朱音は半ズボンだけでまだセーフだった。
「うっへぇぇ、マジキモチわりぃ」
「ローマスくんや畠山くんよりはいいでしょ」
「そうだけどぉ!」
「はいはい、行きましょうねー」
次の授業遅れるよー、と言いながら朱音の背中を押す。
教室内にフローラルな匂いがあちこちからする。
別に汗も掻いてないのに匂いが増してるのは、プールに浸かっていた足首の臭いを紛らわす為だと思われる。
「どうしようっゆりっ」
強い匂いに顔をしかめながら着替えていると教室の入り口から駆け足で寄ってきた朱音に抱き着かれた。制服には着替え終わっているらしい。
「いってぇな…おいっ肉を摘まむな!」
朱音程ではないが、私だって太ってんだぞ。
「どうしよう、パンツ濡れてて気持ち悪い…」
耳元でコソコソと囁かれた内容はどうでも良いことだった。
「…あっそ」
どうでも良いことに返事しなくてもいいかと思ったが、涙目な朱音に見詰められて適当に相槌を打つ。
「どうしよぉ、ねぇ…」
「ノーパンでいろ」
やめてぇ!と泣き真似をして鬱陶しい朱音を振り切ってトイレに向かう。
「梓、モモ、たすけて…」
トイレ手前で後ろから朱音に抱き着かれた私は、丁度鏡で髪を直していた2人に助けを求める。
「えっどうしたの?」
「どうせパンツが濡れてて気持ち悪いよぉって泣きつかれたんでしょ」
梓はエスパーなのか。
「よぐわがったねっ、気持ち悪いよぉ…ゆり~どうにかして~…」
鬱陶しいし、暑い。
「保健室で借りたら?」
考えていたモモが提案すると、朱音もその手があったかと手を離して直ぐ様保健室に走って行った。
無事に保健室でパンツを変えた後、教科書を机に置いて落ち着くと、ベランダに干されている3人分のジャージに気付く。
今日の天気が晴れで良かったね。放課後までには少し乾くかもしれないよ。
「何これ?!あ、プール掃除で誰か3人コケたな?」
まぁ、先生に見られて恥ずかしい思いをしたのは当然の事。