20話「分かってないね」
「来週は必ず体操着を持ってくるようにお願いします。それでは帰りましょう!」
先生の言葉に学級委員長が「起立、礼」という。それに合わせてサヨウナラをいうと机を後ろに運び出す。
「さて、ゆり!部活行こ!」
「待ってよ、私掃除あるから!」
今週最後の掃除場所に行く。
「先生、今日は何を?」
「んー今日も向こうからモップ掛け」
またかぁ、と思いながらも体育館内を歩く。
適当にモップを持って歩く。そんな私の横を歩く朱音は掃除担当でもないのに一緒にモップを持って歩いている。
「朱音、今週は掃除担当じゃないでしょ。何で一緒にモップ持ってんの?」
「んーなんとなく?ただ歩くだけじゃつまんないもん」
ちょっとよく分かんない。首を傾げた私に対して、何故か笑っている朱音。
適当にモップを掛けて掃除を終える。
「行こー」
先を歩く朱音に早足で着いていく。
軽音楽部は月曜日、水曜日、金曜日の週に3日が活動日。月曜日は3年生が使い、水曜日は2年生が使っていた。
私達が入るまでは1年生がいなく、金曜日は合同で使っていた。しかし私達が入ると、金曜日は私達が使っていい事になった。
「じゃぁまず、ギターの持ち方からやる?」
「うん、お願いしまーす朱音先生!」
「やぁめぇろぉよぉ!」
部室に着くと、早速ギターの手にする。
ノリで朱音先生というと恥ずかしそうに照れている。可愛いなおい!
「はい、まず構えから!」
「こうだろ?」
よく音楽番組とかで見る構えだから分かる。
「自分にとって楽な体制の方がいいよ、弾きやすくなるし」
「ほうほう」
弾きやすくなる楽な体制を探す。
「まぁ今の所苦ではないよ」
「じゃぁ次!」
そういって出してきたのはギター初心者向けの本だった。
「う~ん、何から教えればいいのかな?」
「朱音は何から知ったの?」
「あたしはまず、ネックの握り方とか、コードとか、あ!ギターの各部の名称教えるよ!」
思い出したように言った朱音は、自らのギターの取り出して説明しだした。
「まず、今ゆりが握っている部活はネックって言う所ね」
朱音にギターの各部名称について教えて貰う。
「あ、そういえばチューナー買った?音を確かめるやつ。それがないと弾いても音がずれてるかもだよ」
「…一応、中学の頃に吹奏楽部で使ってたチューナー持ってきたよ、これでも大丈夫かな?」
朱音の質問に私は答えながらそれを出す。中学の頃に使っていたチューナーは、おまけにメトロノーム機能も付いている。
「へぇー、凄い。こんなの使ってたんだ」
「うん、音確かめた後で、個人練習の時にメトロノーム付けて練習してた」
「へぇー、これメトロノームも付いてんだ」
珍しそうに見つめる朱音にメトロノームの付け方を教えると、「うおぉぉ」と言いながら早速使っている。
「…あのぉー、ギターの事教えてー?」
メトロノーム機能付きのチューナーを返された私は、ギターを構え直す。少し肩が痛くなってきた。
「大丈夫?ゆり、肩痛くなった?」
「うん、若干ね」
苦笑いしながら答えた私に何かを取り出した。
「はい、ここ立てていいよ」
「え?ここ?」
よく分からない私は、恐る恐るギターを立てる。
「これはギタースタンド。その名の通り、ギターを立てて置けるやつね。椅子とか壁に立て掛けるのは危ないから、こうやってギタースタンドに立てて置くといいよ」
よく分かってない私に、詳しく説明してくれる朱音。
「ギターのコードを教えるね」
「いまいちコードがよく分かんないんだよね」
私が言った言葉に朱音が「ん?」と言った。
「何でコードって読むのか分かんないし、CとかDとか、なんかアルファベットで言うじゃん?何でなの?」
最近気になっていた疑問をぶつけてみた。
「ん~、ゆりが中学の頃に弾いてた楽器って何?」
「ホルン」
「じゃぁ、そのホルンと比べるね。ホルンの場合、ドレミファソラシ、でしょ?でもギターの場合、それがCDEFGABになるの」
「ふ~ん?」
「…分かってないね」
「うん」
笑って答えた私に、朱音がガックリする。
「ん~、じゃぁピアノ!ピアノも同じドレミファソラシ、でしょ?そのドとミとソを同士に弾くと、ギターでいうドになるの。でもギターではドって言わないから、Cになるの。一応ギターでもドレミファソラシがあるんだけど、ドを弾いてもコードにはならないの。えっと、単音かな?ギターはドとミとソを同時に弾く事で初めてコードが出来るんだよ!コードってのは和音を意味してるからね」
「…つまり、ギターのドとミとソを同時に弾く事でギター本来の音ってこと?」
「ま、まぁそんな感じ」
その後、コードを少し教えて貰い部活は終了した。
「なんか、説明ヘタでごめんね」
「別にいいよ」
ギターケースを背負って自転車を押しながら歩く。
「てか来週さ、プール掃除あるじゃん?絶対誰かコケてずぶ濡れになるよね」
「うん、絶対なる!特に男子!鈴木くんとか山上なりそう!」
「確かに!」
プール掃除では必ず誰かがコケるのだ。それがたった1人で終わるか、巻き添えでもう1人被害者がでるか。
2人だけで話していると、いつの間にか校門まで着いていた。中学の放課後とは違い、あっという間に部活が終わってしまった。
「まぁ、山上は絶対だと思う!」
「山上は何かしらやらかすからね」
「ゆりは?他に誰がコケると思う?」
「ん~、朱音」
「え!何で?!」
「朱音には笑いの神様がいるんでしょ?」
「あっ、あれは体育の時だけっ!」
「プール掃除は体育の時間にやるんだよ?」
「そうだっけ?!」
「バイバーイ」
「えっ、体育の時間にプール掃除だっけ?」
「来週のプール掃除、楽しみだね~」
言いたい事だけ言った私は朱音の言葉を無視して帰り道を歩き始める。「なんか意味深!」とか「絶対にコケないもん!」とか言っている朱音。
――いやぁ、朱音をからかうのは楽しい……