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19話「スタート!」




「ごめん!今日用事あって遊べない」

 私と梓が帰る準備をしていると、モモと朱音が話し掛けてきた。

「別に大丈夫だよ」

「うん、モモと朱音は同じ用事なの?」

「うん、図書委員の当番なんだ。…ホンットにごめん!」

 モモの言葉に私と梓は見詰め合う。

「大丈夫だよ、あたし達も一緒に行くから」

「うん、図書室行ってみたい」




 図書室来たの始めてだ。

 入ってすぐに紙芝居を見つけた。蛙の絵が描かれている。こういうのも図書委員がやるのか、と感心しながら奥の方を見てみると、本がジャンル別に分かれている。

「あたし達こっちにいるから。そこからこっちには図書委員以外は来ちゃ駄目だよ!」

「はいはい、モモ達いるだけでいいの?」

「んー?まぁ、大体はここにいて、誰か本を借りたい人がいたら、向こうの準備室にあるパソコンを操作して借りるんだって。でもね?あたしいまいちパソコンの使い方分かんない」

 モモが借りる時の簡単な手続きを身ぶり手振りで話す。最後の一言に笑っているモモに対して、朱音は苦笑いをしながら話す。

「大丈夫だよ、モモ。あたし先生に詳しく教えて貰ったから」

 朱音の言葉に笑っていたモモが「じゃぁ安心だね」と言ってまた笑った。


 ふと、ある扉が目につく。

「モモ、この扉は何?何処に繋がって」

「そこが準備室だよ」

 モモの言葉にへーだけ言って、扉を開けるとパソコンが2台置いてあった。1台はついているが、もう片方はついていなかった。

「入っていい?」


「駄目で~す!」

 モモに聞いた筈が、知らない声に断られてしまった。

「あ、藤田先生!遅いよー」

「ごめんね~、関先生と話してたら忘れちゃってた~」

 声の主は家庭科担当の藤田先生だった。髪の毛がクルクルになっていて、白い肌に簡単なメイクをしている。大人の女性だ、藤田先生を見ての感想はそれだけだった。

「ごめんね~、準備室は図書委員以外は駄目なんだ~」

 笑顔で言ってきた藤田先生を近くで見ると、肌の透明度が分かる。白すぎて逆に心配になる程。


「お友達?」

「うん、梓とゆり」

 藤田先生に質問されたモモは、私達を指差しながら紹介する。

「モモ、先生にタメは駄目だろ」

「えー?別にいいよ?嬉しいし」

 モモが答えるよりも早く藤田先生がサラッと答えた。


「ゆり、雑誌置かれてる」

「ホントだ、へー、アニメ雑誌もあるんだ」

 梓が手にしたのはファッション雑誌。

「あたし、毎月これ読んでる」

「へー、ノンノン?」

「うん、ゆり知ってるの?」

「お姉ちゃんが毎月買ってる。私はいつも嵐の所だけ見てるけど」

 梓の質問に笑いながら答えると、あぁ~とだけ言ってソファに座って読み始めた。


 皆が本を読み始めて数分、未だに何を読むか悩んでいる私。雑誌から遠ざかっていた私はもう一度雑誌のコーナーの前に来る。

 今月のアニメ雑誌は、もう全て読んでしまっている。他に私の興味を沸くものはないだろうか。

 一つ一つ雑誌の表紙を見ていく。すると、ある雑誌の表紙の端の方に嵐の文字を見つける。手に取ってよく見るとピアノの楽譜が載っている雑誌。

 それを手にし、梓の横に座って読み始める。

「…ゆり、ピアノ弾けるの?」

「ちょっとね」

 読み始めてすぐに梓から質問された。それに苦笑いしながら答えた私は、嵐の曲の楽譜を見つけた。


「ゆり、ピアノ弾けるんだ?弾きに行こうよ!」

「いや、今日は図書委員の当番だろ!駄目だろ!」

「えー?ケチー」

「いや、私のせいじゃないからね?!」

「静かにー」

 私と梓の話が聞こえたのか、カウンターに座っていたモモと朱音が近くまで来て話してきた。お陰で小さく話していた筈が、ついつい大きい声になって先生に注意された。


「明日の放課後、音楽室空いてるかな?」

「空いてたとしても私弾かないよ?」

「音楽の先生ってなんて名前だっけ?」

「芸術で音楽取ってる人いたっけ?」

「朱音とゆりが美術、うちと梓が書道。あたしら、音楽の先生の名前知らないんだね」

「藤田先生、音楽の先生って名前何ですか?」

「朝日先生だよ」

「朝日先生?その朝日先生って吹奏楽部の顧問ですか?」

「うん、そうだよ」

 話の末、朝日先生に聞いて部活がない日を教えて貰う、という事で話は終わった。


「あれ、消しゴムない…」

 突然聞こえてきた藤田先生の言葉に、話していた私達は顔を振り向かせる。大きい机に色々な書類が置かれている中、1枚の紙になにやら書いている藤田先生。

「藤田先生、どうしたの?消しゴム、あたしの貸そうか?」

 藤田先生の言った言葉を聞いていたモモがタメ口で聞く。

「あ、いい?ありがとー」


「職員室に消しゴム忘れたのかな?筆箱に入ってなかった」

 恥ずかしそうに笑う藤田先生の顔は、メイクをしていても分かるぐらいに赤くなっている。

「藤田先生ドジー」

「モモに言われたくないと思う」

 赤くなっている藤田先生にモモが言った言葉は、モモが言えるようなことじゃない。それは多分、皆が思ったことだろう。

「まぁ、3日に1回転んで足に傷を作る人が言えることじゃないとは思う」

「えー?」

「昨日転んで足に絆創膏貼ってる人だーれだー?」

「ぅ、…あたしです」

「自白したね」


「うふふ、私、職員室に行って消しゴム探してくるね。おまけに、私の借りてた本も持ってくるから、モモちゃんと朱音ちゃん、図書委員の仕事お願いね?」

「はーい!」

「静かにね?静かに待ってなさいよ?」

「はーい!」

 モモと朱音の良い返事を聞くと、藤田先生は駆け足で職員室に向かった。



 藤田先生が職員室に向かってから15分が経つ。

「藤田先生遅いね」

「ね、消しゴム見つからないのかな?」

「逆に借りてた本が見つからないとか?」

「先生に限ってそれはないでしょ~」

 私達は、朱音が持っていたルーズリーフを使って絵しりとりをやっていた。

 世の中の皆は1枚の紙を使って遊ぶだろうそれを、私達は1人1枚使って遊ぶ。

 それぞれに自分の名前の最後の文字から始めて、決めた順番に紙を回して1人1分で絵を描いていく。


「っ!何これ!これ何っ梓!これ何よ!」

「言っちゃったら絵しりとりにならないよ、汲み取って」

「無理あるよ!何だよこれ…」

「はい、1分始めるよ」

「よーい、スタート!」

 これはバスケを伝えたいのか、バレーを伝えたいのか。どっちだ?バレーならネットがあるけどない、バスケならゴールがあるけどない。



 1枚の紙にやっていた絵しりとりが6周して、描く場所がなくなった頃に先生が戻ってきた。

「ごめんねっ、遅く、なっちゃったねっ」

「もー、藤田先生おそーい」

「ごめんねごめんね、いやぁー消しゴムが見つからない見つからない」

 言い訳を話すように言う藤田先生は走ってきたのか息が上がっている。


「何やってたの?」

 息を整えてから聞いてきた藤田先生にモモが代表して答えた。

「絵しりとりやってたの。1人1枚取って、名前の最後の文字から始めて絵しりとりしていくの、ほら!見て!」

「アハハ、へぇー面白い事やってたね」

 モモから始めた絵しりとりの紙を藤田先生に見せると、藤田先生は笑いながらも一つ一つの絵を見ていく。

「ん~、っ!これ誰が描いたの?何を描いたの?んふふふ」

 藤田先生が指差して見せてきたのを私達は見つめる。

「っ!これ確か、梓だよねっ?」

「うん、そんな笑う?」

「笑うだろぉ!これは!」

「ふ~ん」

「これは、何を描いたの?梓ちゃん」

「キツネですけど…」

「へ、へぇー梓ちゃんはキツネをこう描くんだ」


 その後、図書委員の仕事をやり終えて、皆の描いた絵を見て笑いながら廊下を歩く。

「暗いからちゃんと前見ながら歩いてねー?」

 藤田先生の言葉に軽く返事をしながら、皆の絵を見て笑う。その笑い声は真っ暗な廊下に響く。




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