18話「男日か!」
『今日は風が強いようですね。女性の方はスカートは控え、パンツに着替えてお出かけ下さい』
『今日は髪を纏めた方が良いですね。折角セットした髪が風で崩れてしまいます』
今朝、テレビでそういって笑っていたニュースキャスターを思い出す。起きてすぐの回ってない頭では関心がなかったが、あの時もっと詳しく見てれば良かった、と今になってしみじみ思う。
放課後、皆で近くのスーパーマーケットでお菓子を買うために校舎を出た。
しかし、風が強い。とにかく風が強い。今朝はそんなに風なかったぞ。黒パン履いてくれば良かった、と今になって思う。
強い風が吹く中、私達にはミッションがある。
私の場合は、まず昇降口から駐輪場に行かなくちゃならない。昇降口から駐輪場までの距離は3メートル位だ。
走り出す前に自転車の鍵を用意して、全速力で駐輪場に向かう。自転車を準備して皆の所に向かう。
そこで私は気付いてしまった。スカートを両手で抑えられる皆に対して、私は自転車を押さなければならない。その為、スカートが無防備状態。いつ強い風が吹いてパンツがチラリするか気が気じゃない。
「風強くねぇ?」
「やぁーパンツ見えるー」
「黒パン履いてくれば良かった…」
「ゆり、自転車押すのに両手使ってるからスカート抑えられないじゃん!」
「まじか!大丈夫?!」
「ゆり、がんばー」
心配してくれるモモと朱音に対して、他人事のように対応する梓。風の神様、梓のパンチラを所望します。
乗っちゃえばいいのか!と乗った途端にスカートが捲れ、私の黒水玉柄のパンツが目視される。
「――っ!」
すぐに直して、周りを見てみると、幸いな事に皆見てないし、周りにも私達以外いない。
良かった。て、おい神!誰も私のパンチラなんか希望しねぇんだよ!するならモモと梓にしろ!
空に向かって片手を振りかざし、吹いてくる風に私の願いを預ける。
「どうする?やっぱりあっちのコンビニにする?あっちの方が近いよね?」
「あー、強すぎて息出来ねぇ」
「コンビニ行こ!コンビニ!」
「うぅー強ー、風強いよー」
皆で「風がー!」と言いながらなんとかコンビニまで着いた。その間に朱音のパンツがこんにちはをした。別に見たくなかった。何気可愛いパンツ履いてた。
「あーもー!髪ぐちゃぐちゃなんだけど!」
着いてそうそうにモモがイラついている。私は髪縛ってるからあまり気にしない。でも、他3人は違う。3人して櫛を出して髪をとかしている。
3人を無視して私はお菓子コーナーに向かう。
何で今日、こんな強い風の中コンビニに寄ってるかというと、それはテスト結果が出たからだ。この間のテストが全教科返されて、今日のお昼に順位が出た。
美術科である5組の横の掲示板に張り出されたそれは、私にとっては良い物になった。
私達、――私と朱音と梓とモモ――は、テスト前にある約束を交わした。
『テストの総合点で一番下だった人は皆の好きなお菓子一つを自腹で払う』
確かにモモはそう言っていた。それを糧にモモと朱音はやる気を出した。
結果、1位は私!2位は梓!さぁ、最下位はどっちだ!3位は……朱音!おめでとう!自腹はないよ!
結果を知った途端に、朱音は大喜び、モモはずっと浮かない顔。さぁ、モモのお財布の中身はどれ程なくなるのかが見物ですなぁ。
「どーしよーか、高いのを各々選ぶ?」
「それじゃぁ、罰ゲームにならないよ。自分が本当に好きなお菓子にしよう、その方が罰ゲームっぽい」
「あ、あたしこれ好きー。これにしよ。モモ、あたしこれね」
「はーい…あたしも買おうかな…」
「いいの?モモの財布の中スッカスカになるよ?」
「スッカスカにならないよ!一応、今日の朝、お母さんにお小遣いもらったし?少し減るぐらいだろうから自分の分も買うんだもん」
「…そういって、本当は私達が選んでるの見て、自分も買いたい、とか思ったんでしょ?」
「ち、……そうだす…」
「「あはは」」
朱音と一緒にモモの顔を凝視しながら問うと、少し黙ってから白状した。モモの性格上、そうだと思った。
そんな私達3人を少し離れた所で見てる梓の顔にはハテナマークが付いていた。
店を出ると、風は同じように強く吹いていた。
なんとか近くのベンチに移動して、風が弱くなるまでダベりながら待つ。
「今日は…風がさわがし――ぅおっほぉ!ケホケホッ」
「ブフッ!男日か!」
「でも、この風、少し…泣いてます…」
「梓、男日知ってんの?」
「妹が読んでるの、文学少女のやつでしょ?」
「何ー?何の話ー?アニメー?」
「男子高校生のいろんな日常を描いてる漫画、読んだことある?」
「…面白いのー?」
「面白いよ!特に、さっきうちと梓でやってた文学少女シリーズはめちゃくちゃ面白いの!」
「どんなどんなー?」
モモにはベンチ前で見ていてもらって、朱音と梓と私であるシーンを演じる。
「“今日は、風が騒がしいな”」
まずはベンチに陣取り朱音がセリフを言う。それに合わせて梓がベンチにちょこんと座る。
「“でもこの風…少し…泣いています”」
梓がセリフを言い切った所で、私がベンチの後ろに立つ。
「“急ぐぞ、どうやら風が街に良くない物を運んで来ちまったようだ”」
私がセリフを言い切ると、ベンチに座っていた朱音が立ち上がりゆっくりと私の側に来る。
笑ってしまうのを耐えながら、最後のセリフを待つ。
「“急ごう、風が止む前に”」
朱音のキメ顔を間近で見てしまった私は笑ってしまった。
「っあー、面白いっ!」
生理的に出てきた涙を手で拭いながら、演じた感想を述べる。
「気になってみたら図書館とかで借りてみたら?黒髪と茶髪と金髪の男子高校生が目印だよ!」
「なんなら妹に借りれるか聞いてみるよ、モモ」
朱音と梓のお勧めにモモも読んでみたそうにする。
「面白そー!」
今気付いたが、強い風が止んでいた。
「うちらがさっきやったのは文学少女シリーズの最初で、梓が演じてたのが文学少女ね!うちとゆりが演じたのが、主人公の友達の男子高校生ね!」
朱音がこれでもかとモモにお勧めしているのを、私と梓が聞きながら頷いていた。
「シチュエーションは今みたいな夕焼け空の河原ね!河原に座っていた所に文学少女が来て、さっきのが始まるの!確か文学少女が初めて出てきたのは4巻の……何話だっけ?」
朱音の熱弁に引いてくる頃に、朱音がこちらを向いてきた。
「そこまで覚えてないよ、朱音みたいに何度も読んでるわけじゃないんだから」
梓は朱音の熱弁に引いていたみたいだ。
私は思いつきで朱音に帰る催促をする。
「てかそろそろ帰ろうぜ、風の知らせで良く無いものがこの近くまで来ているみたいだ」
私のセリフに他の3人が笑い出す。
「ふっ…ふぅっ…そうだな、風が完全に止んでしまう前に、帰路に着くとしよう」
朱音はありったけの頭をフル回転させたのだろう。
「みんな、無事に帰路に着いたら、電話、しろよ」
梓はそのまま駅方面へ歩き出す。つられて朱音も梓の後を付いていく。
私も家方面へと歩き始める。
「えっ……あばよ!」
聞こえてきたモモの言葉に私は笑ってしまう。声が出ないように笑っていたが、朱音達が歩いていった方から誰かの笑い声が微かに聞こえてきた。
風が少しずつ止んできている。
早く、帰らねば――。




