17話「モップじゃ紛らわしいわ!」
「何でこんな…」
暑いのか。今朝の天気予報見とけば良かった、と後悔中。
2時間前の体育後から暑さが続く教室は、暑さにバテたのか皆静かだ。
5時間目と6時間目の間の10分休憩中、私達いつメンは、私と梓の机を中心に陣取るように座っている。後5分したら6時間目の英語が始まるだろう。
「暑すぎない?」
「「言わないで」」
暑さが続く中、我慢ならずモモが言った言葉に、冷静に突っ込む私と梓。
2日前に終わったテストは、まだ全教科のテストが返ってきてない。中間テストの結果は来週水曜日頃になるだろう。
そんな事を考えている間も、開いてる窓からは涼しい風などは来ず、時々来る熱風に打たれて余計にグッタリするだけ。
「しりとりしよー?」
「なんでだよ」
「なんとなくー?少しは暑いの紛れないかなぁと。良い?」
モモのいきなりの提案に、特にやることもない私達は首を縦に降る。
「じゃああたしから、梓、ゆり、朱音の順」
モモは勝手に順番を決めて、丸を描くように私達を指差す。
「りー、リンゴ」
「ゴリラ」
「ラッパ」
「パセリ」
しりとりの始まりは大体こんな感じだろ。本番はここからだ。
「りー、リス」
「スイカ」
「カモメ」
「メダカ」
「カラス」
「スイス」
「スズメ」
「めー、またメ?!め~、っ!ムカデー!!?」
「は?」
「ふぇ?」
「ん?」
メからの言葉の筈がいきなりムカデと言った朱音は物凄い速さで教卓の方に走って言った。
いきなりの事に分からずにいる私達は、朱音の「ムカデっ、ムカデいるって!」の言葉に床を見てみる。 すると、そこにムカデがいた。 反射的に立ち上がった私達に、周りの生徒もさっきまでの静かさがなくなる。
「うわっ、キモッ」
「うっわ、足多すぎだろ」
「きゃーっ!」
私達が思い思いの事を言うと、周りの生徒達もムカデの存在を確認すると慌て出す。
「ちょっ、どうするのっ、殺すの!?」
「おい男子!早く殺せよ」
「ムリムリっ!俺ムリ!」
「ひゃー、マジで足うじゃうじゃ」
「ちょっ、こっち来た!」
「きゃーっ、早く殺せよ男子ぃ!」
「ちょっ、どうするっ?!どうするぅ!?」
「笑い取ってないで早く殺せよ!」
「ぎゃぁー、こっち来たからぁ!男子ぃ!」
「ちょっ、ムリムリ!押すな押すな!」
「フリじゃねぇの?」
「ちげぇわ!」
「どこ行ったっ?!」
ワーワーキャーキャーしていたらムカデが何処か行ってしまった。何処だ!
「お前は完全に包囲されている!」
「は?」
声に出してしまった事に梓が変な顔して私を見る。
「そっ、そうだぞ! お前は完全に包囲されている!出てこい!」
なんて事を言っているのは檜山君。机を盾にして床に片膝ついて周りを見渡している。
まったく、ムカデは何処に行ったんだ? そんな事を考えていたらチャイムがなった。と同時に先生が入ってきた。
「どうしたの?来る途中、大きい音したけど?」
「先生!ムカデが出ました!奴を殺して下さい!じゃないと、授業に集中出来ません!」
先生にあった事を話そうとするよりも早く、近くにいた朱音が先生に懇願する。
しかし、朱音の思いは届かずに授業が始まる。
授業が始まって、まだ20分しか経っていない。後ろをチラチラ見てくる朱音がそろそろうざくなってきた。 そんなに怖いのなら、見つけた時に殺せば良かったのに。怖すぎて逆に殺せないのかな。
「じゃぁ、この文を~、今日は4日、で6月だから、足して10番!鈴木君!」
「うぇー」
「うぇー、じゃないよ!ここ!この文の訳を!」
「えっとー、メアリー!は、日本に?来る?ない!」
「つ、つまり?」
「メアリーは日本に来る事がない!」
「じゃぁ、4番!大塚君! 鈴木君の言ったのを分かりやすく!」
「……メアリーは日本に来た事がない」
「そう!この場合、“来る事”じゃなくて、“来た事”だね」
先生が鈴木君と大塚君を指し、訳文する間も朱音はチラチラと後ろを見てくる。
「じゃぁ、大塚君の後ろの朱音!次の文の訳分かる?」
突然の質問に朱音はビックリしたようで、キョドりながらも頭を働かせる。
「えっと、今週末、日本に帰って手紙と写真を送る」
「そう!ムカデに怖がりながらも凄いね!」
痛い所を突かれた朱音は笑って誤魔化す。
英語の授業はムカデが出てくることなく終わった。
モモと私は、教室の掃除が終わるのを廊下で待っていた。
「出た!奴だ!おい佐藤!そっち囲め!ほうき!ほうき!」
「まっ、待って!菅谷!モップ!」
「馬鹿っ!モップじゃ紛らわしいわ!」
「あぁっ!待って!硬いもの!硬いもの!ちりとりでっ!」
「丹波ー!潰してー!」
「え、嫌だよ!」
「これで潰すわ」
「坂本ぉぉ!それ俺の!筆箱ぉぉぎゃぁぁ!」
突然、男子達が騒ぎだした。 丁度、朱音はトイレに行ったから良かったものの、そんなに騒いだら先生に怒られるぞ。
最終的に、坂本君が持ち出した鈴木君の筆箱で潰した。缶の筆箱は潰すのに最適だったようだ。
梓の掃除場所が長引いているのか、帰ってこない。その間も、朱音は周りをキョロキョロ見ている。
「朱音ー、もうムカデいないよー?」
「いぃや!油断は出来ない!」
「いや、もう殺したから」
「えぇ?」
「朱音さ?掃除の途中でトイレ行ったじゃん?その時にムカデ出てきて男子達が殺してたよ、ね」
「うん、坂本君が鈴木君の筆箱で潰してたよ」
「……ぎゃぁぁ」
事の説明を詳しく言ったら、朱音が騒ぎだした。想像しただけで気持ち悪いぃ、と言っている朱音をモモが宥めている。
モモのお陰で朱音が落ち着きを戻した頃に梓が帰ってきた。
「ごめんっ、遅くなったっ」
「大丈夫だよー」
「ではでは、帰りますかー」
今日は特に教室に残る理由はない。モモは課題を忘れてないし、他に残るように言われてもいない。
中間テストが終わり、殆どの生徒は教室に残る事もなく、学校終了後すぐに遊びに行ったのだろう。 教室が全部閉まっていて、廊下には私達だけの声が響く。
「そういえば梓!面白い話してあげる!」
「何?」
「教室掃除中にね、ムカデがで」
「言うなぁぁ!!」
「いったいなぁ!」
「言うな!」
「はいはい、朱音は私と話そうねー」
折角モモが面白い話を梓にするのに、何故朱音が遮るのか。 そんな朱音を連れて歩く私は、話題を変える為、朱音だけに話を振る。
「朱音、数学のテスト何点だった?」
「言うなよぉ!…なんて?」
「数学のテスト、何点?」
「確かねぇ、64点」
「やった勝った、私98点」
「すごっ!え、何処間違えたの?」
「最後の大きい問題の(1)」
「マジか、惜しかったね」
「うん」
なんとか朱音の気を反らす事が出来て、後ろを歩いているモモと梓を見てみると、モモの話したい事は終わっていた。
「あ、朱音!ムカデ!」
「いぃやぁあぁ!!」
「朱音!靴!靴!!」
梓の一言に、シューズのまま外に出ていってしまった朱音。梓の方を見てみると、梓とモモが笑って見ていた。