15話「何してん、あいつ」
今日は現代文と保健体育。現代文は、まぁ漢字を覚えれば大体行けるだろう。 保健体育は……まぁなんとかなるだろう。それなりに勉強したし、少し単語覚えれば大丈夫だろう。
「聞いて!私昨日勉強したの!」
「「それが普通」」
モモの勉強したよ報告に私と梓が重ねて言った言葉は可笑しくない筈。なんで笑ってんの?朱音
「どれくらい勉強したの?」
「ん、っと、家帰ったじゃん?夜ご飯食べるじゃん?でお風呂入って、髪乾かして、それから勉強したの!ん~、9時ぐらいに始めて、12時過ぎ頃に寝た。早いと思わない?」
「へ~、結構やったじゃん」
「えっへっへ、あたし偉い?」
「うん、偉い偉い」
「偉いね~、モモ」
「モモだけじゃないよ!あたしも勉強したよ!」
「「お疲れー」」
「それだけ?!」
「机の中何もないなー?」
先生の言葉に私達は一斉に机の中を調べる。机の中に手を突っ込んでバンバン叩くのは、ある意味テスト前の恒例行事みたいになっている。
「山上、カンニングすんなよ~?」
「しないっすよ!」
チャイムによってテスト用紙が配られると、笑っていた私達が静かになる。
現代文といっても小学校や中学校と同じで『文の中から探して答えよ』的な問題が殆どだし、最後にある漢字の読み書き問題も文章問題の中に答えがあったりする。 だから、あまり勉強しなくても結構点数行くんだよ。知ってた?
出たよ!『10文字以内で答えなさい』
この問題って文の中から探した時に候補が2つ出てきて、10文字丁度と7文字程度の2択で迷う事があるんだよね。 先生は切りの良い数字が好きだから、例え答えが7文字の言葉でも10文字に設定しちゃうんだよ。この場合、答えは前者。
大体全ての問題に目を通すと、寝る人や机や問題用紙に落書きする人がいるけど気を付けて。
特に落書きする人! 落書きしてるとは楽しくなっちゃって前傾姿勢になるけど、先生は一生懸命解いてると思って後ろから突然見てくるよ! 机ならまだ隠せるけど、問題用紙に描いちゃった人はもう遅い。
先生が小さく言うだろう。「後で職員室来なさい」って、周りに聞こえないように。 そうなったらその後の高校生活で先生達から変な目で見られるだろう。
そうなりたくないそこの貴方! テスト中の落書きは危険と隣り合わせ、常に周りに気を配り、先生が何処にいるか確認した上で落書きするように。
以上、テスト中の落書きマナー講座でした。
「ゆりー、化学のノート、貸ーしてっ!」
約2時間のテストを終えて帰る準備をしていると、中庭さんが駆け寄ってきた。
前に、化学のノート貸してねって言われてたのを思い出す。
「うん、どーぞ」
それを手にした中庭さんは礼を言って谷さんの所に戻っていった。
「まどか、例の物は持ってきたか?」
「あぁ、彩加、先に使うか?」
「いや、まどかが先に使え、俺はその後でいい」
「へっへ、ありがとよ。じゃあ明日、報酬を持ってここに来るぜ」
「あぁ、飛び切りいいのを頼むぜ」
……中庭さんと谷さん、それなんていうコント?
放課後、誰かの家で勉強会する事もなく、無事帰路に着いた。
今日の天気は予報通りの晴れ、自転車で登下校する私にとってそれは地獄のように汗を掻く。
家に着いた頃には喉が渇ききっている。リビングに入って、冷蔵庫から麦茶を取り出す。 やっとの水分に私はグビグビ飲む。
その時だった。スマホがなる。
『本日に落書きコーナー』
そんな題名で送られてきた画像を片手で表示させる。
「ぶぉっ、コホッコホッ!何してん、あいつ」
朱音から送られてきた画像は今日の監視役先生の似顔絵だった。
1時間目の監視役先生は藤成先生だった。私達のクラスの副担任でもある藤成先生は、情報の先生でもあり、面白可笑しく授業する先生の一人だ。 時々眼鏡を掛けてる時を見るが、その時だけ格好いい雰囲気を醸し出す。 喋ってしまうと雰囲気がなくなるのが勿体ない。
2時間目の監視役先生は岩木先生だった。じゃがいも体型のイワッキーは、普段はあまり笑わないが、思わぬアクシデントで笑って誤魔化す事がある。 この間も、授業中に先生の携帯がなった際に、笑って誤魔化していた。 特徴があるが故に凄く描きやすいだろう。
今日の藤成先生は眼鏡を掛けていた。朱音の絵はそれも描かれていた。 おまけに、岩木先生の顔はニコニコで、周りには小さく星が描かれている。
ブラザーを脱いでいて良かった。お陰で濡れたのはブラウスだけだった。
麦茶の匂いがするブラウスから部屋着に着替えて、脱いだブラウスを洗濯機に放り込んで部屋に戻る。
朱音からの画像を保存すると、明日のテストを確認してテスト勉強を始める。
テスト勉強を始めて30分した頃、上から物音がした。最初、お化けかと思ったが違う。 お兄ちゃんが夜勤明けで帰ってきてるのを思い出した。
お兄ちゃんが起きたんだ。そう思って勉強を再開する。
勉強していると、先程より大きい物音がした。ビックリした私は、様子を伺うように天井を向いた。
ドタドタと廊下を走る音を確認すると、私の部屋が豪快に開かれる。
「ゆり、帰ってたのか!」
「うん、てか大丈夫?なんか凄い大きい音したけど?」
「あぁ、大丈夫、ベットから落ちただけ」
「そっ、で?何、帰って来たと知った途端に」
「あ、久しぶりにゆりとゲームで遊ぼうかなー、なんて思ったけどテスト中だったな。ごめん、勉強頑張れ」
私がテスト勉強中だと知ると、お兄ちゃんはしどろもどろになりながら訂正と応援を言って戻っていった。
お兄ちゃんはいつもそうやって自分の意見を貫こうとしない。お兄ちゃんが故の事とは思うけど、自分の意見を誰かの為に曲げるのは出来ればしないで欲しい。
テスト勉強をそのままに、お兄ちゃんの後を追う。
「ちょっと!」
お兄ちゃんのパジャマの端を掴む。するとお兄ちゃんが振り向く。
「しょうがないから、ゲーム付き合ってあげる。やりたいんでしょ!」
固まって私を見ていたお兄ちゃんは、思い切り抱き付いてきた。
「ゆり!ありがとう!優しいなぁ!可愛いなぁ! ゆりありがとなぁ~!」
「お兄ちゃん、苦しいし早くしないとお母さん帰ってくるよ」
お兄ちゃんに対してそんな事を言うと、お兄ちゃんは私の手を握って急いでリビングに向かう。
ソファに私を座らせ、ゲームの準備をしだすお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんは、今だけ私より子供に見えた。