12話「じゃぁデートしますか」
私にとって日曜日は、家族皆が集まる事が出来る特別な日だった。
お父さんの仕事は、日曜日だけが休みだったので、日曜日だけは皆が家でまったり過ごしたり、時に楽しく何処かに遊びに行ったりした。
しかし、お兄ちゃんが就職して少し難しくなった。3週間に1回のペースで集まる事は出来た。
4年後、お姉ちゃんが就職すると、もっと難しくなった。2ヵ月に1回のペースで集まる事は出来た。
今日は日曜日、しかし、今家にいるのは私とお父さんだけ。お父さんは未だに夢の中だ。 お兄ちゃんとお姉ちゃんはそれぞれ出勤した。 お母さんはママ友の家でお茶をご馳走されている。
最近、リビングにいても1人の時が増えたと思う。別に寂しくないが、何か不安になる。 もしかしたら、私捨てられた?って。
笑顔で玄関から帰ってくると、その不安は何処かに行って、無表情の顔が微かに動くのを感じる。
「お帰り」と言うと「ただいま」と帰ってくるのが好きだ。
お母さんの帰りを待ちながらテレビを見ていると、ガチャと音がなった。ようやくお父さんが起きたか、お母さんが帰って来たか。
ソファに横になりながらリビングのドアを見つめる。すると、小さく開いた所からみいちゃんが入ってきた。 そのすぐ後ろからお父さんとお母さんがイチャイチャしながら入ってきた。
よくもまぁ、娘がいる前でキス出来るね。 手なんか繋いじゃって、仲良い事はいいけど、出来れば2人の時にお願いしますよ。
「なんだ、ゆりいたのか」
「いたよ!2人がキスした所も見たよ!」
「あ、あはは、俺達仲良しだからなぁ~」
「良かったですねー」
「ゆりー、お昼ご飯手伝ってー」
私とお父さんが話していると、お母さんから声が掛かった。1つ返事をしながらキッチンに駆け寄る。
お父さんは私がいた所に腰を下ろしながら、テレビを見始める。
「はい、これでテーブル拭いてね。その後に、お箸とお皿もお願いね」
「はーい」
テーブルを拭いていると、追加で「みいちゃんのご飯お願いね」と言われた。お箸とお皿を出し終えた後に、みいちゃんにご飯をあげる。
ニャーニャー鳴きながら私に何か訴えてくるみいちゃん。
どーちたんでちゅかぁ?ニャー。ほぉら、ご飯でちゅよー。みいちゃん、たんとお食べ。
みいちゃんと一緒に私とお父さんとお母さんもお昼ご飯を食べる。
最近、みいちゃん結構食べるから少し太った。みいちゃん自身はそんなのお構い無しに、なくなった皿を私の足に当ててくる。
沢山食べるみいちゃんは可愛いから好きだけど、太ったみいちゃんは出来れば見たくないのよ。 みいちゃん、分かって?
「みいちゃん鳴いてるぞ?ご飯もっと欲しいんじゃないか?」
「駄目だよ、みいちゃん太っちゃう」
「お母さんは太ったみいちゃんも好きだけどなぁ」
確かに太った猫はブサカワとかでまた違った愛嬌があるけど、私は嫌だなぁ。 見る分にはいいよ?いいけど抱っこすると重いじゃん?
「そうだ、今日買い物行かない?」
「…それは俺とデートしたいって遠回しに言ってる?」
「私は別に買うものないなぁ」
「ゆり、行かない?」
「うん、私は行かないかな」
「そっかぁ…じゃぁデートしますか」
無視されていたお父さんが物凄い笑顔になった。
マジでお父さんはお母さんラブだな。
マジで行ったよ、あの人達。
お昼ご飯食べてすぐにお父さんは着替えて髪セットしたり、お母さんも食器荒いを私に任してメイクをした。30分で準備を終えた2人は手を繋いで出掛けていった。
今家にいるのは私とみいちゃんだけ。みいちゃんは日向ぼっこしながら寝ているからつまらない。 テレビもあまり面白いのやってないしやることもない。
ソファに寝転びながら、適当にテレビを見る。
つまらなすぎるテレビを止めて、自室から持ってきたウォークマンとヘッドホンを手にソファに横になる。
最近転送したアルバムからダンスナンバーを選曲する。始まると軽く体が動いてテンポを刻む。
終わったと思ったら続けてバラード曲が始まる。こういうのを聞いてるといつも眠くなってきてしまう。
違和感に目を開けると寝ていた事に気付く。
うわ、手ぇ赤っ!ヨダレやべぇ、べたべたする。
ティッシュで頬と手の甲のヨダレを拭きながら、リビングを見渡す。
違和感はヘッドホンだった。
ヘッドホンを外してリビングを見渡すとみいちゃんがいない。
みいちゃんを探すべく、リビングを出る。
「ニャーァ、ニャーァ」
鳴き真似をしながら廊下を歩くと、何処からかみいちゃんの鳴き声が聞こえる。
場所は私の部屋だった。
「みいちゃーん、出ておいでー」
みいちゃんがいたのは私のベットの下。暗い所だからみいちゃんの目が光って見える。
「ルールルルル…ちげぇな、ニャーおいでーニャー」
駄目だ、出てこない。どうしたというんだ、みいちゃん。
ニャーじゃないよ、みいちゃん。出てきてーお願ーい。
……猫は気紛れ。しょうがない、リビング戻ろ。
「マジで何もないんですけど。競馬は見ないし!」
変なサスペンスドラマやってるし、ドキュメンタリーも見ない。何かゴルフもやってる。
どれも見ないよ!
欠伸をしながらテレビを見ていると音がなった。ようやくお父さん達がデートから帰って来たようだ。
そんなお父さんの手には私へのお土産。
「ゆり、お留守番ありがとね」
渡してきたそれはお寿司だった。
「え、これ、何で?」
「陸と理沙には内緒ね?」
「あれ?ゆり、寝た?頬が若干赤くなってる」
「やったー!お寿司だー!これワサビ入ってないよね?!」
お父さんの言葉を無視しながら大喜びの私。
「おいし~!さすがマグロ!ん~!」
お兄ちゃんとお姉ちゃんには内緒で食べるお寿司は違う美味しさがある。
「ん~、うめ~」
「ん~!うめ~!」
「あ~、おいしー」
「あ~!おいしー!」
お父さんの言う言葉を真似て私も感想を述べる。
「なんだ?お父さんと同じ事言うほど、お父さんの事好きなのか?嬉しいな~、コンニャロー」
何を勘違いしたのかよく分からないが、いきなりお父さんに頭を強く撫でられた。お陰で髪の毛グシャグシャになった。
「何?!髪の毛グシャグシャになっちゃったじゃん!」
手を止めて髪の毛を整える。
「何だよ何だよ!可愛いなぁ~」
また撫でようとしてくるお父さんの手を取って抗議する。
「やめてよ!また髪の毛グシャグシャになる!」
お父さんとのやり取りを食べながら見ているお母さんは何も言ってこない。
「お母さんからも言ってよ!お父さんが邪魔してくる!」
「んふふ、いいんじゃない?楽しそうね~」
駄目だ、お母さんは天然なんだっけ。
お父さんの邪魔が入りながらも、なんとか満足出来る程に食べれた。
お兄ちゃんとお姉ちゃんが帰って来たのはそれから2時間後で、お寿司を食べた事を内緒にして、お兄ちゃんとお姉ちゃんは普通のご飯を食べていた。
普段お兄ちゃんとお姉ちゃんに内緒にする事がない私は、ちょっとだけ気分が良い。