プロローグ
この制服で3年間を過ごすのか。
姿見の前で軽く回ってみた。
大きめの制服は今しがた不恰好。
掌を隠すように長い袖。膝下丈のスカート。
ボタンが大きく感じた。
「遅刻するわよー」
リビングから聞こえてきたお母さんの言葉に返事をすると、鞄を手にして家を出た。
校門に入る前から見えていた大きな桜の木。
間近で見ると少々花びらが散っていて、それでも未だに綺麗だ。
強い風に靡かれるように、落ちてくる花びらを掴もうと手を伸ばすが、思う通りに掴めず地面に落ちてしまう。
「……」
少し見とれた後に校舎に向かって歩く。
初めましての赤色のシューズ。履き慣れていないそれは少し大きめになっている。
静かな階段を上がっていくと、各階毎にはしゃぐ声が聞こえてきた。
4階まで上がると、歓迎の言葉を目にする。私の教室はここから結構歩くらしい。
教室には殆どの生徒が登校していた。早くも取り残された感が否めない。
黒板に貼り出されている出席番号。私の席は窓側から3列目の1番後ろの席だった。
友達が出来るか不安になりながら、担任の先生が来るのを待つ。
無事に入学式も終えて一段落。
教室に戻ってすぐさま席に着くと、意識して伸ばしていた背中を丸めるように伸びをする。
初日から好調だ。このまま、友達を作れれば最高だ。
その後、担任の先生に配られた紙を目にする。
『仮入部届け』
出来ればもう部活はこりごりだ。
恐る恐る“帰宅部”と記入した仮入部届けを提出すると、先生は少し考える仕草をした後にとんでもない発言を放った。
「茅野さんは吹奏楽部入りなさいよ! ね?」
……は?
吹奏楽部に仮入部させられるという、初日から最悪だ。