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死神天使と呪われ少女  作者: 天音詩音
第一章 死神天使と呪われ少女
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第一話 眠りから覚めて

「ルーチェ!ルーチェってば!!」


小鳥のさえずりが聞こえ、天気は晴天、とても良い朝である。


それを台無しにするのは、先程から思わず顔をしかめてしまう程の大きな声で、すやすやと何事もないかのように、気持ち良さそうに寝息を立てる少女の名を呼び続けている、黒髪に、紫色のややつり目気味の少女、ソフィア。


彼女は30分はずっとこの調子で、眠る少女を起こそうと躍起になっているのだが、一向に目覚める気配のない少女に、青筋を浮かべ頬をひくつかせていた。


「アンタが男だったら、ぶん殴って叩き起こせたんだけどねー···」


さすがに目の前の儚げな少女を思いのまま殴るのは、少し···、いや、かなり躊躇いがある。


溜め息を一つ。ソフィアは少女の頬をむにむにとつねる。


(冷たい···)


息は正常にしている、だが、何故か酷く狼狽してしまう。


死人のような冷たさなのだ。


(い、いや、それはこの子の、体質、のせいってだけだし···)


頭では解っているのに、体は震え、焦燥感に駆けられる。


銀色に輝く、長く美しい髪。


今は閉じられているが、その瞳は澄んだ湖のような、綺麗な水色。


真っ白い肌。


朝の心地好い風に揺られて、銀髪が優しく揺れる。


少女の周りだけ、この世界と隔離されているような、そんな錯覚を感じてしまう。


その様子は、まるで本当に死人の様で···、


「死んじゃ駄目えええええええええ!!!」


ソフィアは思わず、その美しい少女の右頬に思い切りビンタしていた。





「本当にごめんなさい、私は最低だわ」


「ふふふっ、そんな事ないよ、とっても効果的な起こし方に感激だよ」


場所は変わり、食卓の場にて。


椅子に座る少女、ルーチェの目の前でソフィアは、土下座していた。


ルーチェの右頬には、赤い手形がくっきりと残っている。


「息だってちゃんとしてるのに、死んじゃ駄目···だなんて、馬鹿な事まで言ってしまって、気を悪くしたわよね、本当にごめんなさい」


「全然気にしてないって、元はと言えば起きなかった私が悪いんだし!それより、このサラダ美味しいねー!朝にはピッタリだよ」


にこにこと笑いながら、ルーチェはソフィアを咎める事など全くなく、それどころかソフィアが作った料理を美味しいと、喜んで食べている。


ソフィア自身はせめて、目には目を腕には腕をと、自らの頬も同じようにしようとしたが、ルーチェに全力で阻止されたため、渋々やめた。


逆にルーチェに罪悪感を持たせてしまっては意味がない。


だから、お詫びと言っては何だが、朝食はルーチェの好きな物ばかり選んで出したのだ。


彼女が嬉しいと言えば、ソフィアも嬉しい。逆に悲しいと言えば、ソフィアも悲しむ。


ソフィアにとってルーチェは、大事な家族、妹のような存在だった。






朝食を終え身支度を済ませると、ルーチェはとある場所へと足を運んでいた。


ソフィアには複雑な表情をされたが、それを押しきってでも行かなければいけない場所。


毎日毎日訪れるその場所は、森の奥深くにある小さな湖である。


森の奥深くと言っても、遠くはない。ルーチェとソフィアが暮らしている家自体が、誰も知らないような深い森の中にあるからだ。


しばらく歩き続けると、少し広い空間に出る。


見慣れた綺麗な湖。


彼女の瞳と同じ色をした、澄んだ水色が目前に広がっていた。


毎日訪れても、ルーチェの行うことは変わらずこの湖を瞳に写すだけ。


満足するまで、自身の瞳と同質の色を眺めてから、帰る。


ただそれだけのために、ルーチェはここまで足を運ぶのだ。


「違う、そうじゃない」


不意に、ルーチェの小さな口が開き、か細い声で呟いた。


「私は、そんな事のためにここに来てるんじゃないよ・・・」


もっと、大事な何か。


いくら考えても、わからない。いや、


―思い出せない?



ドサッ



何かを思った時、すぐ近くで大きな音がした。物が落ちたような、そんな音だ。


そこそこ重さがあるものなのだろう。音から察するに。


何故か、ルーチェは音の原因を知りたいと強く思い、走っていた。


茂みを掻き分け、音の発生地点へ向かう。


そして、


「っ!?」


思わず小さな悲鳴を上げてしまう。


落ちてきたものの正体は、人だった。


余程高い場所から落ちたのだろう、その者の体からは既に赤い血が流れ出していた。


ルーチェはすぐに駆け寄り、動脈を確認した。生きている。


呼吸も、荒いがちゃんとしている。


だが、安心は出来ない。少しでも治療が遅れれば手遅れになるだろう。


ルーチェは慎重にその者を担ぐ。


15歳の娘とは思えない力だが、ルーチェは「普通」の娘ではない。


その事を再認識し、自嘲的な感情が沸き立つが、今はそれどころではないと気付かぬふりをして、先を急いだ。

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