プロローグ 呪われ少女
私を見ると、例外なく全ての人間が罵倒や非難の言葉を投げ掛け、負の感情を露にした。
化け物と罵り、近付くなと石を投げつけ、私を邪険に扱う。
不思議と悲しみはなかった。
怒りも憎しみも悔しさもなかった。
さすがに、最初からそう何も感じなかった訳ではない。
最初は酷く悲しみ、毎日涙を流した。
ーどうして、私はこんな目に遇わなきゃいけないの?
何も悪い事なんてしていない、誰にも迷惑を掛けず、静かに暮らしていただけだった。
その時は皆優しかった、隣の家に住んでいる親切なおばあさんは私を見掛けると、にっこり微笑んでお菓子をくれたし、友達もいつも一緒に遊んでくれた、幼なじみもいた。
何より、両親は毎日私に愛を注いでくれた。
ーだけど、今は違う
これは、突然の出来事で、切っ掛けでもあった。
この日を境に全てが狂っていったのだ。
親切だったおばあさんは私を見ると、今まで見た事もない、幽鬼のような表情で、
「近付くな、呪いが写る」
そう言って私を突き飛ばした。
よろめいた拍子に誰かにぶつかる。
いつも一緒に遊んでくれていた友達、優しかった幼なじみ。
「来ないで」
その一言だけ残し、去って行く。
私は走った、きっとこれは何かの間違いだ、家に帰れば両親が暖かい笑顔で迎えてくれる。
そして、全ては悪い夢だと、柔らかいベッドの中で抱き締められ眠る。
次の日には全てが元通りになっているのだ。
そんな都合の良い話があるはずない。これは現実だ、現に先程突き飛ばされ、転んだ拍子に擦りむいた膝は今も確かに熱を持ち、鈍い痛みを訴えてくる。
だが、そんな事を考えている余裕なんてない、考えたくもない。
走り続けて数分、家に着いた。
自然と笑みが浮かび、扉を開ける。
初めて嗅いだ、独特の異臭。
静か過ぎる妙に薄暗い部屋。
真っ赤な液体で床を濡らし、壊れた人形のように横たわる男女。
私は、その体に触れる。手のひらを見ると、赤い液体が付着していた。
その液体···、血は手のひらを濡らし、腕を伝い、肘の所で流れを止め床に落ちる。
とても眠かった。
血と涙で濡れている床に、男女と···、両親と同じように横たわった。
両親は愛の言葉も、暖かい抱擁もくれない。
でも今は、それで良かった。
眠りから覚めれば、全て元通り、全て嘘だと、これは、夢なのだからー
そして、少女は意識を手放した。