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チャプター 16:「知子の魔法」

 現実時間で七日目。知子達が魔王を倒した翌日から、四人は新たな計画を着々と進めて

いた。先ず第一に、知子の開催する料理研究協会の活動に洋菓子の研究日が追加された事。

そして第二に、ミンチなどの食肉加工サービスの提供が開始された事。

 洋菓子コースの講師を勤めるのは、製菓では知子すら敵わないと認める茅沙である。

「はーい! 今できたものがメレンゲと言うものです! このメレンゲが上手くできるか

どうかで生地の柔らかさが決まるんです。とってもとっても大事なので、しっかり立てて

下さいね!」

 いつもならば知子が乗っているお立ち台に茅沙が立ち、太陽のような笑みで懸命に指導

する。茅沙にとっては冒険以外で初めての仕事である。

 しかし、脇に立って補助しようと考えていた知子は、茅沙が思いの外指導者としてしっ

かりしている事に驚き、同時に安堵した。茅沙は調子に乗せると非常に高い能力を発揮す

るものの、基本的に自信が無く、物事が中々始められない性格だった。幼少時から付き合

いのある知子達はその性格を熟知していた筈だが、この仮想世界で冒険した事が、茅沙に

とってプラスに働いているのかもしれないと、親友の心が成長した事を頼もしく感じた。

 順調に指導を続ける茅沙へ、隙を見つけて知子が話しかけた。

「ねえ、茅沙。もう私が居なくても大丈夫だよね?」

「え? えっと…………」

 知子が話しかけただけで、先程までの堂々としていた態度はなりをひそめ、あっという

間にいつもの茅沙へと戻ってしまう。

 しかし、知子は茅沙が確実に変わっている事を信じていた。茅沙に近づき、他の誰にも

聞こえないよう耳打ちする。

「私もまだやりたい事があるから、できるだけそっちを進めておきたいの。魔王…………

サターン達の状況改善に有効な手があるかもしれないから」

 サターンの話題を出した瞬間、茅沙は今までにない程真剣な眼差しを知子に向けた。

「…………本当はね。ちいちゃんがサターンくんにした事、私は快く思ってないよ? 彼

も家族を護るのに一生懸命だったのに、私達はひどいことをしたと思う。ずっと心に残る

傷をつけちゃったんじゃないかって、凄く後悔してるよ」

「それは…………」

 あまりに真っ直ぐな心情の吐露に、知子は言葉を失った。

 知子は正直な所、自分の取った手が最良の選択だったと今でも考えていた。しかしそれ

は、予め茅沙が抱いていたイメージと違っていた事もよく理解していた。

 サターンに対して強い苦痛を与えたことは間違いなく、それは茅沙が考える平和的解決

とすれ違っている事は明白だった。

「その…………ごめんなさい」

「それは私に言うことじゃないよ。でも、ね?」

 茅沙の表情が解れると、知子の頭に手を置き、優しく髪を梳く。

「ちいちゃんが、ちいちゃんなりに一生懸命考えた方法、って事も知ってるから。方法は

非道かったかもしれないけど、ちいちゃんは約束通り、誰も死なせずに事を済ませてくれ

たから。だから、えっと…………」

 知子が顔を上げると、鼻先まで近づいた茅沙と目が合う。

「サターンくんの信用を取り戻せるように頑張ってね! 私も、頑張るから!」

 あまりに純粋な茅沙の笑みに知子は気恥ずかしくなり、目を逸らしながら茅沙におとな

しく撫でられた。

 そして、その空気が落ち着くと、手を振って調理場を後にする。

 知子が真っ直ぐ向かったのは、千歳の工房だった。

 鉄と油の臭いが立ちこめる部屋には、ベガと千歳が居た。二人は何やら、部屋の端の作

業机に背負い籠を乗せ、中をまさぐっている。

「主様!」

 静かに扉を開けた知子だが、ベガには直ぐに気づかれた。邪魔をしては悪いと中をうか

がっていた知子だが、気づかれた事で二人へ歩み寄る。

 そして、その籠に何が入っているのか直ぐに気づき笑みを浮かべた。

「こんなに…………凄いじゃないの!」

 籠の中には、ポポコの畑では採れない、いくつもの野菜が入っていた。

根菜や穀物、キノコなど、今まで使いたくても使えない食材である。

 そして知子は、その中でも自分が最も求めていたものを見つけて、ベガを見る。

「ベガ、貴女…………良くやってくれたわ!」

 知子が取り出したのは甘藷。

 荒れ地や痩せた土地でもすくすく育つ、救荒作物の代名詞とも言える野菜である。

「これは大収穫だった。早速魔王の島へ?」

 千歳に問われ、知子は力強く頷いた。

「うん。一つ、サターンならできるかもしれない妙案があるの。これが成功すれば、私達

の計画も大躍進するし、魔王の島の食糧事情も解決する筈よ」

 千歳が頷き返した。

「わかった。私は引き続き農場運営に必要な設備と、それらの設計及び建設を進めておく

「私も予定通り、主様からお預かりした資料を元に、別の地域で野菜の収集を続けます」

「うん。それじゃあ…………行ってくるわ」

 知子が振った手に頷き返す千歳と、丁寧に頭を垂れるベガ。

 二人に見送られ工房を出た知子は、館の地下に進む階段のある小部屋へと向かう。そこ

は、囚人を捕らえておく設備が揃う場所で、ベガを捕らえていた部屋もある場所。知子は

その空間があまり好きではなかったが、移動のために仕方がないと堪えた。

 石造りの長い通路を進んだ知子は、通路の突き当たりから数えて二番目の部屋の前に止

まり、その扉を開ける。部屋は、知子達ダイバーズしか開けることのできない特殊な魔法

鍵で、見かけ以上にセキュリティの高い部屋である。

 そして、入った部屋の中心には、桃色に輝く楕円形の転送ゲートが浮かんでいた。茅沙

が発見した魔法器の中に偶然紛れていたそのアイテムによって、魔王の島と英雄の館を繋

ぐ直通のゲートが開いていたのである。

「ポポコの人達が知ったら卒倒ものよね……」

 実際に魔族と会った自分達とは違い、魔族を単なる化け物だと認識している民達にとっ

て、それは暴動が起きても不思議ではない大事件である。その感覚が薄れている自身の変

化に苦笑しつつ、知子はゲートの中に足を踏み入れた。

 一瞬、光の海を泳ぐような感覚の後、知子の身体は暗い部屋へと転送された。窓のない

密閉された空間で、光源は転移ゲートの光のみ。少しだけその場に立ち、暗い部屋に目を

慣らした知子は、ゆっくりと扉に近づき、それを開ける。

「ハッ…………?!」

 知子は思わず息を呑む。扉を出た先は、螺旋階段に続く大広間で、そこには再生した石

造りの巨人が四体詰めていたのである。そして、知子を認識するや否や、それらが地響き

を立てながら近づいてくるのである。踏みつけられればひとたまりもなく、それどころか、

軽くはたかれるだけでも致命傷になるような体躯の差。

 知子は部屋に逃げ帰り、巨人が離れるまで待とうと考えた。

 しかし、踵を返そうとした知子の前で、巨人は膝をつき動きを止めたのである。そして、

何が起こったのか理解できずその場に固まる知子の前へ、不機嫌な表情で近づいてきた男

が居た。

 サターンである。

「何を怯えているんだ、貴様は」

 苛立ちを隠そうともしないサターンの態度に、知子は小さな身体を更に縮め、萎縮する。

「あの、その。襲われたらどうしよう、って」

 しどろもどろになりながら理由を話す知子だが、その態度が気に入らなかったのか、サ

ターンは舌打ちした。

「こいつらの創造主は俺だ。その俺の飼い主である貴様が襲われるわけがあるまい。して、

何の用だ…………ああ、待て。ルーシー」

 知子が気が付いたとき、うなじ辺りへ冷たい金属の気配が感じられた。ゆっくりと振り

向くと、薄刃の片手剣の切っ先が、うなじの産毛に触れて止まっている。産毛に触れたそ

の刃を持つのは、眼鏡を掛けた黒髪の青年だった。黒いコートに身を包み、貴族然とした

身なりの男、ルーシーは、サターンの一言によってその手を止めていた。

「あ、ああ…………!」

 自分の首がはね飛ばされる寸前だったと知った知子は、その場に尻餅をつき、身体を強

ばらせる。

 そして、サターンに制止された剣士は、激昂しながら叫んだ。

「何故だサターン! こいつは……こいつらは! 何もできないローラを盾にしたんだぞ

?! 皆同じだ。人間は、生きる価値など無い地上の害悪でしかない!」

 ルーシーの意見に、サターンは苦笑しながら頷いた。

「そうだな。俺達は、そうやって何度も迫害されてきた」

「ならどうして!」

 処断を迫るルーシーだが、サターンの反応は薄い。

「こいつらは、何か違う気がするんだ」

 サターンの零した一言に、ルーシーは嘲笑した。

「血迷ったのかサターン。こいつらを地上から一掃し、俺達が平和に暮らせる世界を作ろ

うと…………強くなろうと誓ったじゃないか! あの誓いは嘘だったのか!」

 怒号を飛ばすルーシーの言葉を呆然と聞いていた知子は、サターンの話していた親友が

ルーシーであると気づき、更に怖じ気づいた。

 魔法的な強化を一切行っていないのにもかかわらず、剣一本だけで魔王に次ぐ強さを持

つと謳われる剣豪が居ると、知子は茅沙から報告を受けていた。

 その男が、自分に敵意を向けている。

 瞬いてる間に自分の首が宙を舞っていてもおかしくない、桁違いの怪物である。知子は

ルーシーを見上げる余裕すらなかった。

 しかし親友であるためか、または実力が上である為か。サターンは静かに首を振り、ル

ーシーに微笑みかける。

「嘘なんかじゃないさ。今でも人間は信用できないし、世界に居るべきではないと思う。

思うが。こいつらの言う事が本当なら、俺達は幸せになれるかもしれないと思い始めたん

だ」

「…………人間の戯言なんかを信用するのか?」

「やられた瞬間は人間への憎悪ばかりで思考する気など微塵もなかったんだがな。ただ…

………時間が立つと冷静に考えてしまう。何故こいつらは、俺を一撃で仕留められる手段

を持ちながら、俺を殺さなかったのか、とな」

「お前を使って人間社会の支配者になりたいんだろう。法力の塊であるお前なら、全世界

の掌握も不可能じゃない」

「なら何故、こいつらはお前やローラ達を殺さなかった? 俺がそう考えたなら、直接支

配した相手以外は全員殺してる。何かを謀られても困るからな」

「それは…………ただの気まぐれで――」

 その一言に、サターンが大きな笑い声を上げた。

「カハハハハハ! それこそありえん。ローラを人質にしたのは、俺達の事を相当調べて

いたからだろう。お前だってそうだ。眼鏡を掛けた奇妙な女にやられたと言ったが、お前

が剣に長けている事と魔法を使えない事を知らなければ先ず倒せない。お前の剣は間違い

なく世界一だ。そしてこいつら…………勇者一行は一人を除いて、決して肉体的に強いわ

けじゃない。きまぐれで生かすなどと言う甘い考えは持っていないと思って良いだろう」

 話しながら、サターンの目が知子へと向けられた。一瞬身を縮ませた知子だが、その視

線には冷たさはなく、不思議な穏やかさが添加されていた。

「そして、その計画を立てたのは恐らくこいつだ。ローラや子供達を一切殺めず、本丸で

ある俺を落としたこいつらの意図を、俺は知りたい。何故だ? 何故王国から魔王抹殺を

命じられたお前達が、俺達を生かしておく?」

 サターンに問われ、知子は震える声を懸命に絞り出しながら答えた。

「茅沙と、約束、したから。皆で幸せに……なるって」

 その答えに、サターンは目を皿のように開き、そして、大声を出して笑い飛ばす。

「カ、カカ…………カハハハハハハハ! 馬鹿げた話だ! お前らの指す皆には、俺達の

事まで入っていると言うのか! ハハハハハハ!」

 ルーシーが知子に疑いの視線を向け続ける中、サターンはひとしきり笑うと知子へ手を

差し出した。それを恐る恐る掴むと、驚くほど優しく引かれ、知子は立ち上がる。

「いいだろう。お前らとは停戦だ。暫く…………その行く末を眺めようではないか」

 サターンの宣言に、ルーシーは身を乗り出して抗議した。

「考え直せ! どうせ人間は――」

「ただし」

 魔王の威厳が凝縮されたような声に、ルーシーは言葉を呑む。そして相対する知子も、

心臓の興奮を必死に抑え、吸い込まれそうなサターンの双眸に釘付けになっていた。

「ローラや子供達に手を出してみろ。例えこの身が崩壊しようとも、服従の術式をこじ開

けて貴様らを一人残らず殺してやる」

 サターンの発する迫力に気圧される知子だが、そもそも自分達には魔族を害す理由がな

い。

 茅沙と改めて約束した事もあり、知子はなけなしの勇気を振り絞って虚勢を張った。

「い、いいわ。そのかわり、私達の事業にも協力してもらうんだから!」

 言葉を曲解したらしいルーシーは口を歪めて知子を睨んだ。

「やはり貴様ら人間は、俺達を利用しようと」

「それだけじゃないわ」

 知子は即座に答え、脇の袋へ納めていた甘藷を取り出した。そして、それを二人の舞え

に掲げる。

「これが、貴方達を救う救世主になる」

「なんだ。これは」

 サターンが甘藷を不思議そうに見つめる中、知子は微笑する。

「…………これを栽培するの。農園があるなら、案内して?」

 一通り甘藷を観察したサターンが、知子へ向かって訝しげに頷く。

「確かに、農園はある。しかし、ここの土で今までまともな作物ができた事はないぞ? 

土が痩せすぎて植物がまともに育たず、何とか収穫できたものも小ぶりなものばかりなん

だ。ただ、そのお陰で俺達は辛うじて生きながらえて来られた訳だが」

 知子は数度頷くと、自信に満ちた表情で親指を立てる。

「大丈夫。貴方にしかできない栽培方法を思いついたの。これが成功すれば、貴方達の食

糧事情は解決するわ。だから、案内して?」

「…………ああ、わかった。付いてこい」

 踵を返し大広間の正面出入り口へ向かうサターンの背中を追う知子。自分の背後へルー

シーが追ってきている事に緊張しながらも、かなり足の速いサターンを見失わないよう歩

を進めた。

 大広間から伸びる通路はエントランスへ繋がっており、それを経由して横手の扉から中

庭へ出る。

 そこには、城壁で囲まれた広い畑が広がっていた。立派な畝が幾本も伸び、丁寧に手入

れされているその場所に、知子は酷く感動した。

 しかし、現実世界の農家と遜色のないレベルで整理されている畑の土は、歩くだけで痩

せているとわかる。それだけに、自分の手にする甘藷に適した土壌だと確信した。

 サターンが足を止めると、知子は直ぐに畝の端を手で解し、甘藷を埋める。そして、サ

ターンへ視線を移した。

「これで準備完了。サターン。このお芋に、回復魔法を掛けて(・・・・・・・・)」

「ハア? それに何の意味が――」

「いいからいいから」

 眉をひそめたサターンが回復の魔法を芋に掛ける。

 すると、瞬く間に蔓が伸び、数カ所に土の盛り上がりができた。それはつまり、芋が瞬

時に成長した事を示していた。

 知子は元々、細胞を活性化させるという回復魔法、回復道具のメカニズムが非常に興味

深いものであると考えており、それを応用する事で、革新的な促成栽培が可能なのではな

いかと予想していた。

 そして、サターンの魔法により、その仮説が見事証明されたのである。

「これは…………なるほど!」

 知子の意図に気づいたサターンの声を聞きながら、知子は早速育った芋を掘り返してい

た。土を掘ると、大きく太い芋が三本収穫できた。

 時間にして僅か十数秒の超促成栽培だが、その芋は通常栽培されたものと遜色のない育

ちである。

「ほら。これと同じ手順で、一杯作れるよ?」

 芋を見たサターンとルーシーは、顔を見合わせた後、知子を見つめた。

「こんな方法があるとは思わなかった…………しかし、この野菜はどうやって食べるもの

なんだ? 初めて見るんだが」

 知子はそれの調理方法を考えるも、つい先日、千歳がアルミニウム泊を作った事を思い

出し、コンソールブック経由でアルミニウム泊のロールを取り出した。

 そして、近くに引かれた水場で芋を洗うと、それをアルミニウム泊で包み、畑の整理課

程で避けられたであろう石を集め、サターンを手招きする。

「サターン。この石に炎の魔法を掛けて熱くして頂戴?」

 いよいよ何を考えているのかわからない、とでも言いたげなサターンだが、知子の指示

に従い、石を暖める。

 そして、十分に加熱された石の中に芋を放り込み、そして、枯れ木の枝を使ってそれに

石を被せる。

 それからたっぷり一時間。知子は黙って芋の調理を続けた。サターンに何度も話しかけ

られるが、知子はそれを手で制止し、真剣に芋の状態を見つめる。真剣に料理している知

子は話しかけづらい雰囲気が漂っていたのか、サターンも遂には話しかける事を止め、知

子の動きを注視する。

 そして、知子が遂に動いた。

「…………よし! 完成よ」

 知子が石の中から芋を取り出すと、グローブをはめた両手でアルミホイル泊を剥いた。

そして、包みから顔を出した芋を手で示すと、二人へ視線を移す。

「さあ、食べて!」

 サターンは首を傾げてそれを見下ろしていたが、知子に促され、焼き芋を手にする。魔

王の手は熱さに強いのか、火傷しそうな温度の芋を苦もなく握り、それにかじり付いた。

ルーシーも同じように手にし、恐る恐るかじり付く。

 そして、幾度か租借した瞬間、二人は目を見開き知子を見た。

「何だ、これは…………?! ただ焼いただけなのに」

 知子が親指を立て、不敵に笑む。

「甘藷はシンプルに料理してもおいしいのよ。おまけに痩せた土地でもすくすく育つから、

サターンの法力があれば一杯作れるよ」

 知子から視線を移したサターンは、自分の手に持つ芋を見つめ、何度も頷いて見せた。

「ああ………………ああ! こいつはすげえ! すげえよお前は!」

「その魔法を沢山使えるサターンだからできる方法ね。野菜の品種改良…………野菜をも

っと良くする仕事をお願いしたいと思ってるから、協力して欲しいの。そのかわり、この

島でも育つ野菜を優先的に開発するから」

 力強く頷き喜ぶサターンだが、一方ルーシーは一口食べたきり、焼き芋を手にしたまま

サターンを見ていた。それを不思議に思った知子が、ルーシーへ問う。

「どうしたの? おいしくない?」

 ルーシーは知子へ、複雑な感情の入り交じる視線を向けた。

「いや。こんなにおいしいなら、ローラや他の皆にも食べさせてやりたいから」

「いいよそんなの。いいから食べて?」

 ルーシーの目が鋭く細められるが、知子は臆することなく、満面の笑みで続きを口にす

る。

「これから、みんながお腹一杯食べられるんだから」


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