殿下の心は複雑っぽい
殿下side
父上は今までで見たこともないほど怖い顔をして出て行った。
父上のような王になりたくて必死に頑張ってきたのになぜ…?
「お父上がなぜあのように怖い顔をしていたかわかりませんか?」
余程不安そうな顔をしていたのだろう。いつの間にか隣にアルエット殿がいて、優しく背中を撫でていでくれた。
「アルエット殿…」
「これは一人の親として考えというか希望なのでご無礼でしたらどうぞお好きに罰を。」
包み込むような微笑みにつられつい、頷いて先をうながしていた。
「怖い顔をしていた原因の1つは、きっと殿下の態度にございます。交流を持とうとする女性に対し罵倒をし、さらには怪我をさせるのは王族というより、男性としてどうかと思いますわ?」
「しかしっ」
「原因のその2、殿下は他人から伝わった私達しか知りません。そしてそれを知ろうともしなかった。これは次期国王としてあるまじき行為です。」
いつの間にか部屋の隅に移動され、侍従たちが用意した椅子に腰をかけた。
柔らかで、しかし芯の持ったアルエット殿の言葉は不思議と背筋を伸ばして聞かないといけない気がする。
「いいですか、たしかに人の言葉を信じることは美徳です。しかし人は悲しくとも嘘をつく生き物です。もしも殿下に進言してきたものが嘘をついていたら?先生自体が嘘をついていたら?信じることと鵜呑みにして思考を止めることは似て非なり、思考は常に止めず、最善と最悪を考えることです。」
先生からもらった言葉より重く、暖かい言葉。
改めて考えるとやはりやり過ぎた気がしてくる。
いや、やり過ぎたのだ。
先程の、姉君に簡単な魔法で作られたうさぎを贈られた時の無邪気な様子が脳裏をすぎる。
たしかにカナリヤ殿やアルエット殿が言った通り俺はアクィラ殿の不正を見ていない。なのに罵倒に暴力…なんて最低なことをしてしまったのだろうか。
「カナリヤ殿は…俺を許したりはしないでしょうな」
「あら、謝る前にそんなにヘタレてどうします殿下。二人にはまだまだ時間があります。これから関係修復をすればいいんですよ。」
ああ、この方が義理の母となる方で良かった。
そっと心でつぶやきながら俺は才能的技能披露の儀に向けて準備を整えた。