ターミネーション
21世紀も終わりに差し掛かった頃、世界で最も有能とされるひとりの博士がある画期的な装置を完成させた。
博士は『この装置はタイムマシンである』と発表した。
「しかし、この装置そのものは何もできません。これはタイムマシンではありますが、過去へも未来へも行くことが出来ません。この装置が出来るのはただ受け入れることだけです」
博士は結論を急ぐ群衆にわかりやすく説明した。
「この先、もし未来の人類がタイムマシンを発明したとき、この装置が時間旅行の受け入れ先として機能する。つまりそういうことです。時間移動の転送先としてこの装置が存在することにより、タイムマシンの実現性はぐっと高まります。理論的には明日にも――いえ、今こうして話している瞬間にも未来人類が現れる可能性があるというわけです。私たちの目の前の、この装置の中に」
かくして、ターミナルと名付けられたこの装置は世界の注目を集めた。
この年、博士はノーベル賞をはじめとする数々の物理学賞を総なめにした。
博士には国や大企業からの援助と多くの同業者からの協力の申し出が殺到し、ターミナルの運用はいつしか全地球規模の事業にまで発展していった。
人々はただ待ちわびた。未来の人類が、未来の技術を携えてやってくるその日を。
タイムマシンの研究は誰もしなくなった。
人々は未来を目指すことを止め、向こうからそれがやってくるのをただひたすらに待ち続けている。
2011/10




