失われた鳥たちの声にみる神の存在証明
夢の中で、少女は神々のお茶会に迷い込みました。
おやおや、まぁまぁ。
唐突に現れた闖入者に神様たちは大変びっくりして、だけれども、大喜びで歓迎しました。
学校に迷い込んできた犬猫に対して我々がとる態度と、だいたい似ていると言えます。
夢寐なる飲み物に彼女はのどを潤し、幻想の茶菓子に舌鼓を打ちます。
そして、優しい神様たちとの楽しい語らい。
聖書の中に登場する、厳格で公正な存在とは正反対。
本当の神様とは、親切で気さくなエゴイストだったのです。
あ、そろそろ朝だもの、起きなくちゃ。
はっとして、お別れの挨拶をはじめた彼女に、神様たちは順番に、楽しかったよ、またいらっしゃいね、と握手を求めます。
それから一人の神様が、そうだ! と何かを思いつき、ひそひそと他の神様たちに耳打ちをします。
折角遊びに来てくれた記念に、私たちがあなたの願い事をなんでもひとつ叶えてあげましょう。
神様達はニコニコして言いました。
彼女は、うーん、と腕を組んで悩み、そして、それじゃぁ、とお願いしました。
【世界中の鳥の声を、電子音にしてください】
ボーン、ボーン、という時報の音で、彼女は目を覚ましました。
なんだか不思議な夢を見てしまったわ。
彼女は思います。でも、素敵な夢だったわ。
それから、あれれ、なんだかおかしいな? と気づきます。
この時報はどこから聞こえるのかしら?
ボーン、ボーン。窓をあけた彼女は、あっ、と、びっくりして声をあげました。
電柱の上には、5,6羽のありふれた小鳥たち。
まぁなんてこと! 時報の発生源は、あの小鳥たちだわ!
『ああ、皆様! これは世界滅亡の兆しでしょうか!
ある夜を堺に、小さな鳥から大きな鳥まで、かごの中のカナリヤから大空に舞う猛禽まで、すべての鳥類の声が電子音に変わってしまいました!
ダイヤルトーンで鳴き交わすスズメたち!
カナリヤの声はシンセサイザー!
真夜中の闇から聞こえる、放送終了後のテレビの発信音。あれは、そう、フクロウの鳴き声です!』
いまや世界は無機質過ぎて、いまやお空もモノクロです。
撮影されたビデオや録音されたテープに至るまで、鳥たちの声は一切がデジタル化されていました。
人々は最新機器を駆使して、擬似的に鳥の声を蘇らせようとしました。そして、そうやって作り出されたCDや音声ファイルは飛ぶように売れました。
スーパーマーケットでは鶏肉が全然売れなくなり、一年以内にすべての養鶏家が廃業しました。
きっと、調子に乗りすぎた人類に神はお怒りになったのだ!
世界中の人々の意見は、そんな感じでピッタリと一致しました。
でも、彼女だけは違います。
歪みきった世界で唯一彼女だけが、神の権能の実在を知り、その優しさの手触りを知っていました。
誰しもが希望を見失った時代に、ただ一人彼女だけは神々の加護を身近に感じていたのです。




