第二十話〜襲われる三姉妹〜
樹海から2時間近く道なりに走ると死神レニーは、ようやく結界の外に出る事が出来た。
今迄、結界のせいで能力が制限されていた為、その効力が届かない場所に出ると全ての神通力が使える事を確認する。
そして、真っ先に使った神通力は“擬態能力”だった。
「やっと、私好みの服が着れるし。あの野郎、次に会ったら絶対、首跳ねてぶっ飛ばしてやるからっ!」
全身を黒と紫が混ざるゴスロリ風の衣装で再びキメた彼女は、刃を収めた死神の鎌を肩に担ぎ、その先にある国道へと急いだ。
すると、移動の途中に一通のメールが彼女のスマホに届く。
「ん、閻魔様だ。ん?これどーいう事!?」
彼女に届いたメールには、行方が分からなかった“石川 輝”の魂が地獄にある閻魔殿に先程到着したとの内容だった。
何故、今になって、急に魂が到着したのか……。
三姉妹達が何かをしたのかもしれないが、彼女達からは連絡が無い。
だが、理由を確かめるには、本人に話を聞いた方が一番手っ取り早い為、真相を確かめるべく彼女は、三姉妹達の助っ人を後回しにして一旦、地獄へと向かうのだった。
一方、三姉妹達は現在、病院の出入口前にて由美に言われた警備をしていたのだが、周辺警備とは名ばかりの井戸端会議的な話をしていた。
「紗穂里ちゃんって、一体何の病気なのかな?」
ポニーテールの髪の毛を自分の手で揺らしながら、神奈子は紗穂里が病院に来た原因を気にしている。
「由美さんが、紗穂里ちゃんは生まれつき身体が弱いって最初に言ってなかった〜?」
猫の様にペロッと舐めた手で顔を洗いながら、彼女の話を聞く彩花。
その横では、いつにも増してブスっとした仏頂面で考え事をする葵が、2人の話は無視して黙って立っていた。
「ねぇ、葵ちゃ〜ん。さっきから何で黙ってるの〜?お顔が怖いし、圧が半端ないから〜」
「そーだよ!病院に来る人が皆、下向いて私達を避けて歩いてるし!」
黄島サイエンスアカデミーの敷地にある総合病院は、一般の人でも通院が可能な病院だった。
だからなのか、先程から人の往来は多々あるせいか、病院に似つかわしく無いメイド服を着た彼女達は通行人から距離を置かれていた。
「皆、私はどうしても合点がいかないのよ」
突然、葵は隣に居た2人に先程から自分が考えていた事を話し出すのだが、それは紗穂里の身体の事であった。
彼女はどう考えても、腑に落ちない部分が納得いかない。
心肺停止状態があんなに長く続いていた子供が、蘇生術や医学治療も無しに簡単に生き返る事はあり得ないと思っている。
仮に、もし偶然生き返ったとした場合、自分達が使った“治癒札”は何かしら必ず反応するハズ。
そう考えても、やはり合点がいかないとの事だった。
「でもさ?本当に治癒札が不良品だったのかもしんないじゃん」
「私と彩花が持ってる全部の札が不良品の可能性は極めて低いし、それに不良品じゃなかったわ。さっき勘太郎の深爪治療に試したら、普通に反応があって治ったもの」
「また、勘太郎ってば深爪したの?!本当に学習しない奴だなーっ!」
「へ〜?勘太郎ちゃん達来てたんだ〜。何でこっち来ないの〜?」
「あちらさんも、色々あったらしく由美さんの事を詳しく調べるからって、自宅を捜索に行ったわ」
治癒札が不良品で無い事が分かり、益々、紗穂里の事が気になって仕方がない葵は病院警護を止め、潜入調査に切り替えようと言い出した。
「えー!警護放ったらかして良いのー?」
「神奈子ちゃ〜ん。もう忘れちゃってるの〜?私達は別に警護するだけがお仕事じゃないのよ〜。私達の本来の目的は、紗穂里ちゃんに近付いて、死神ちゃんが探してる旦那さんの魂の在処を探す手伝いをする事なんだよ〜」
「そーだっけ?」
「も〜ぅ。神奈子ちゃんの頭の中は、脳みそじゃなくて八丁味噌とか入ってるんじゃな〜い?」
「とにかく。旦那さんの魂が何処とか、由美さんが怪しいとかは、どーでも良いわ。私は、あの子が気になって仕方ないの。だから、他は勘太郎や死神に任せて私達はあの子を調べるよ!」
このまま、病院前で立ち話をしていても何が解決する訳でもない。
ならば“行動あるのみ”と葵は2人にはっぱをかけた。
そして、潜入捜査をしようと病院内に入ろうとした葵は何か感じた事がある気配を察知する。
「彩花!」
「分かってる〜。この前の相手だよね〜?」
「へ?何、2人共、この前の相手って?」
神奈子以外は、その気配の正体が何かは分かっていた。
振り返る彼女達の目の前には茶色いフードを被ったマントの輩が、揺ら揺らと立っているのが見える。
「性懲りも無く現れたわね?神奈子!あいつに一発かましなさい」
三姉妹の中で一番足が速い神奈子に、目の前の怪しい輩を狙わせた葵。
言われた通りに神奈子は、持ち前の瞬発力を活かして怪しい輩に一瞬で近づく。
「よーし!一発かましてー……。あれ?当たんない!」
神奈子は自分の攻撃範囲に入っのが分かると怪しい輩に目掛け、コンクリートくらいなら簡単に砕く事が出来る“神奈子ちゃんチョップ”をかまそうとしたが、それは何故か空を切ってしまった。
「やっぱり幻影か…。行くよ、彩花!」
「ガッテン承知の助〜♪」
豪快な空振りをする神奈子を見て、前回襲ってきた相手と同じパターンと確信すると、彩花は直ぐに半妖レベルを上げる。
そして、姿が人間から妖怪へ変態していくと両頬から生えてくる長いヒゲをピンと伸ばして妖感センサーを張った。
「ムムムッ!葵ちゃ〜ん!敵は私達の真上に居るよ〜♪」
「オッケー!」
全身の皮膚が肌色から薄い青色に変わり、体の筋肉がどんどん盛り上がっていく葵は、深くしゃがみ込んだ反動で一気に垂直ジャンプする。
そして、予め、時計の転送システムを使い用意した武器の黒い金棒を握りしめ、目標を定めた。
彩花の情報通り、敵は頭上で幻影を操っていた様子。
葵は目標を物凄い勢いで敵を追い越してしまうのだが、足を抱え込んでグルりと体を回転させる。
そして、今度は真下に向かい下降すると握りしめていた金棒を振りかぶり、フルスイングして相手に叩きつけた。
鈍い金属音が響き、彼女の金棒による攻撃によってひしゃげられた敵の体が“くの字”に曲がると地面目掛けて急速下降する。
落ちてきた敵をひょいと避けた彩花は葵と同じく、時計の転送システムを使って準備したボーガンで落下直後に狙い撃ちした。
「今度もどうせ機械なんでしょ〜?なら、金属にはコレ〜♪ビリビリしちゃいなさ〜い!」
彼女は“雷”の力を宿した矢を、地面に叩きつけられたばかりの相手に向かって放つと、それは金色の光跡を残しながら突き進む。
そして、敵の体に突き刺さると同時に雷鳴の術が発動し、雲一つ無い空から落雷が落ちたのだった。
落雷音の影響で辺り一面が吹き飛ぶのだが、彩花が事前に張っておいた“結界壁の札”のおかげで病院への被害は最小で済む。
一方、その落雷の凄まじい音に釣られ、病院内にいた数人の人々が慌てて外に出てきてしまった。
「あんた達、裏口からさっさと逃げな!でないと早死にするよ!」
強打撃や落雷攻撃を受けても消えない敵の気配。
それはこれから、長く激しい戦闘を予想がされて、この場所は危ないからという葵の忠告だったのだが、彼女の変態した青鬼の姿を見れば、そんな言葉に従うよりもパニックを起こすのが当然だった。
「私を見て悲鳴をあげるな!失礼だぞ!」
「それは無理だって〜。今は悪鬼だも〜ん」
「悪は余分だよ。って、神奈子ーっ!頼んだ!」
変態した2人がいくら誘導に回った所で騒ぎは大きくなるばかり、ここはまだ変態していない神奈子に任せるしかない。
そう思った葵は、彼女を呼び戻す。
すると「お任せー♪」とばかりに、彼女はダッシュて病院の入口まで戻ると、走りながら服の中に手を入れモゾモゾしはじめた。
そして、服の間から黒岩から支給されていた警察手帳を出して騒ぎを収めようとした。
「あの子、どっから出してんのよ」
「毎回、出動時には“落とさない様に”って、首からぶら下げてるのよ〜」
「鍵っ子かっ!」
少し呆れる2人。
しかし、そんな事は気にせず、バカデカイ声で神奈子はパニックを起こし慌てふためく人々を安全に裏口から逃げる様に誘導する。
「はい、はーいっ!警察でーす!私の話を聞いて下さーい!今、外は危険だから、裏口から逃げますよーっ!」
彼女の見た目は中学生くらいの幼い容姿。
そして、今はメイド服を着用している。
その場に居た者全てが“この子、本当に警察官?”と思っていたのだが、外では鬼と狐の化物が確かに居たので、人々は彼女の指示に従い病院スタッフと連動しながら避難するのだった。
また、外では彩花がスマホを使って黒岩に連絡を取る。
流石に神奈子1人で大きな病院に居る全ての人を誘導するのは厳しい。
それに、彼女の戦力も加えないと目の前の敵に勝てる気もしない。
そして、連絡を受けた黒岩は直ぐに応援に駆けつけるからと言うと電話を切るのだった。
すると、茶色いフードを被った機械仕掛けの敵がバチバチと火花を鳴らしながら起き上がる。
「ヤッバイね〜?あいつ、火花バチバチ散らしながら、こっちに近付いてくるよ〜」
「次は粉砕してやるっ!」
拳をバキバキ鳴らし、ヤル気満々の葵は半妖レベルを“参”から“伍”まで上げる。
前回は“参”まで上げて戦い挑んだが、全く歯が立たなかった。
だから、今回は更にレベルを二つ上げて戦い挑むが油断は出来ない。
表情は既に少女の面影は無く完全に女性の鬼面と化した葵。
額からは角が太く長く伸び、口から生える牙は鋭くなっていた。
身体つきも、二回り大きくなってより筋肉質になるのだが、女性特有のくびれたフォルムはちゃんと残っている。
ただ、着ていたメイド服はビリビリに破れてしまっているので、変態途中で彼女は時計の転送システムを使って服を、半妖レベルに応じて伸縮する素材で出来たいつもの和服タイプの戦闘服に着替えていたのだった。
バチバチと火花を鳴らす敵に向かって、葵は金棒を振り回しながら突っ込む。
だが、相手も半壊はしていても彼女の打撃は的確に受け流し、更には反撃もしていた。
半妖レベルを“伍”に上げて、ようやく互角といった所に見える。
「うぅりゃぁぁっ!」
それから長い間、ガンガンと鈍い金属音が鳴り響く。
幾ら打撃を受け流す事が出来ていても、相手の体は全て金属。
力任せに打突されれば、色々な部位は次第に脆くなっていくもの。
また、葵も重そうな身体に見える割りには、軽やかに身体を動かしては様々な角度から金棒を連打していた。
その動きは素人では無く、武道の達人の様に理に叶った足捌き、体捌きで無駄が無い。
どんどんと追い詰められていく敵は、最後には彼女の攻撃について行けず、段々と体の部位が破壊されていくのであった。




