第十二話〜“元”死神と鬼畜な奴〜
「し、死神レニー?!」
「チャオ♪」
屋根の上に跳び上がった2人は、そこに死神レニーが居る事に驚く。
普段、三姉妹がどんなにピンチに陥っても助けに来る事が無かったからだ。
「どういう風の吹き回し?」
葵は鼻をフンと鳴らし、死神レニーに話しかけると、その態度が気に入らなかったのか「助けてもらっといて、何?その態度」と、引きつった笑顔で葵を睨み返していた。
険悪な雰囲気になろうとしてきたので、彩花がさっさと頭を下げて、御礼を言うのと同時に彼女が何故、助けに来たのかを訪ねる。
すると、彼女の口からとんでもない事を知らされた。
「はぁっ?!ちょっと!そんなん相手に、私達が勝てる訳ないじゃないよっ!」
「だから、助けに来たんでしょうがっ!」
「ねぇ、何の話し?」
「お茶が入ったよ〜♪」
今回の経緯を家の中で説明したいと言った死神レニーの意向で、一同は紗穂里の相手をしていた神奈子を交えてリビングで話しを聞いていた。
キッチンから淹れたての紅茶を運んで来た彩花はテーブルの上にある花柄のティーカップに次々と注ぐ。
「脱獄した“元”死神が黒幕だなんて、何で今迄、知らなかったのよ?!」
紅茶を一口飲みながら、まだ額に少しばかり角を生やしていた葵が文句を言う。
「地獄にある無限牢獄から脱出出来るなんて、普通、誰も思わないからよ!実際、報告聞いた閻魔大王様だって、目ん玉飛び出て椅子からひっくり返って腰やって大騒ぎだったんだから!」
同じく紅茶が注がれたカップに手をかけ、葵の文句に答える死神レニー。
すると、何の事か分からな神奈子が話しに割って入る。
「ねぇ、私にも分かる様に説明してよ?こっちはずっと、あの子の御守りしてたんだからさ!」
紅茶のお供に出されたチョコチップクッキーを数枚口に入れながら、窓辺にあるロッキングチェアーで静かに眠る紗穂里を指差して神奈子は2人にせっついた。
「でもさ〜?神奈子ちゃん。どうして気づかなかったの〜?私達、半妖モードになってたんだよ〜?」
彩花は半妖レベルを“伍”にまで上げたにも関わらず、外での戦いに全く気づかなかったと言う神奈子に疑問を投げかけるのだが「その件については私が答えるわ」と言って、死神レニーが口を開く。
彼女の説明では、この家を構成する木材やコンクリートには妖気を遮断する特殊な建築がされていると話す。
当然、それを聞いた3人は「何故?」と質問してきた。
「正確な理由までは分からないけど、脱獄した“元”死神と、由美が関係してるって事は確かよ」
「じゃあさ?死神ちゃん。葵ちゃんと彩花ちゃんが戦ってたっていう相手は、その“元”死神だったの?」
「残念。それは違うわ」
死神レニーは、肩からかけていたポーチから徐に、金属の破片を取り出してテーブルに置く。
「これが、2人が戦ってた奴の正体よ」
「何、これ?」と首を捻る神奈子。
しかし、その金属片を見た葵と彩花は顔を合わせて同時に「ロボット」と答えたのだった。
「御名答♪」と、にこりと微笑む死神レニーは、チョコチップクッキーを一枚口に入れると更に説明を続ける。
「ロボットを操ってたのが“元”死神。大方、最初はホログラフィーで様子見してたんじゃないかしら?」
「だから妖気が桁違いの反応だったし、実体が曖昧だったのね〜?」
それを聞いて彩花は納得していた様だが、葵はまだイマイチ納得出来ずに死神レニーに質問した。
「相手がロボットの必要ってあったのかな?元死神でも、今だって神様には変わらないんだから直接、私達を手にかければ早かったんじゃない?」
確かに彼女の言う通りで、死神レニーもそれには首を横に振ってしまう。
「そこなのよね?」
釈然としないが彼女の考えた仮説では、無限牢獄を脱獄するに辺り、自分の持つ神の力を出し尽くし疲弊していた。
だから、自分が出向くのではなく妖怪を使ったり、力の消耗が無い“遠隔術”を使ってロボットに襲わせたのではないかと話す。
だが、その考えには多々、疑問が浮かび上がると葵は言った。
先程、自分達を襲う時に妖怪では無く、ロボットであったのかという事。
それに、どうして黄島家に現れたのか。
また、最初から襲わずに暫く様子見をする素振りをしていたのは何故かと。
“何故”と考える事は山程あり、頭を悩ませる一同に「はい、はい、はーい!」と、元気よく手を上げて質問する神奈子。
「その“元”死神って、何が目的で捕まったの?何で脱獄したの?私達が狙われる理由って、もしかしたらそこにあんじゃない?」
ぽやーんとした顔でクッキーの粉が付いた指を、腰に付けていた白いフリフリの前掛けで拭く姿は、いかにもバカっぽい感じではある。
だが、たまに核心に触れる所が凄いと一同は思っていた。
その質問に答える死神レニー。
だが、話しを聞いていく内に、それは三姉妹が過去に少し関わっていた事柄だと思い出すのであった。
一方、ここは富士の樹海の中にある寂れた山小屋。
その小屋の中では、銀色のアタッシュケースを持った由美が椅子に座りながら誰かを待っていた。
「そろそろ時間ね」
山小屋の中は、椅子とテーブルだけではなく、暖炉や置き時計という様な家具があった。
また、奥には冷蔵庫や調理が出来るキッチンスペースも完備されている。
樹海の中であっても、そこで数日は普通に過ごせる様な小屋であった。
由美は置き時計の針が17時を指すのが分かると、奥のキッチンから小学生くらいの男の子がやって来た。
「さぁ、ミセス黄島。取引の時間です」
そばかすが頬に残り、若干田舎臭さを醸し出す少年は大きく口を開き歯を見せて子供らしく笑うと由美の正面にある椅子に座る。
そして、彼女が差し出したアタッシュケースを受け取り中を開けた。
「これが“超柔軟性金属”の精製資料と“バイオロイド”の設計図?」
ケースの中には二冊の古びたノートが入っており、それを手に取ってパラパラとめくると、少年は再びニッコリ笑って指をパチンと鳴らした。
すると机の上には“一億円”は、あるだろう札束が現れる。
「今回の取引きで最後。これで私は罪人として死神から命を狙われる事は無いのよね?」
お金を中身が無くなったアタッシュケースに詰めながら、彼女は少年に訪ねると少年は手を叩いて誰かを招き入れた。
すると床に突如、黒い魔法陣が浮かび上がり陣の中からは、背中に黒い羽根を生やした体は人間、顔は烏のモノノケ。
即ち妖怪が現れる。
「ミセス黄島。貴女に最後のお願いがあります。彼の身体は傷だらけでボロボロだ。だから、この壊れた“器”から魂を取り出して貴方方夫婦の傑作である“バイオロイド”に魂を移植して下さい。そうすれば、貴女の願いをもう一つ叶えます」
その話を聞いた由美はニヤリとした薄笑いを浮かべ、鞄からコンパクトノートPCを取り出し起動させると画面には“バイオロイド生産工場”の予定表が映し出される。
彼女は現在、稼働できるバイオロイドの素体の空きを調べており、少年からの依頼がこなせるかどうかを調べていた。
「今、組み上がってる素体なら空きが3つはあるわ」
そう少年に伝えると、少年は「ならば、3つ全部、使わせて欲しい」と、新たなに2体、傷だらけの妖怪を召喚した。
そして、少年は由美のもう一つの願いを聞きいれた後、サービスとばかりに研究室へ瞬時に移送する為の新たな魔法陣を出現させた。
「ふふふ♪確かに、もう1億は頂いたわ。それじゃ、私は言われた通りにするからね神様♪」
由美は怪我をした烏妖怪に加え、新たに召喚された“蛸”妖怪に“牛”妖怪を連れて魔法陣を潜って行く。
そして、暫くして小屋は少年だけになると、由美から貰ったノートを少年は開いた。
「………。ふーん、人間風情が神々の中でもトップクラスしか知らない“魂と器”の関係式をよく調べあげたものだ。人間が持つ探究欲には感服するよ」
少年はページを捲る度に書かれる人体実験データの結果を見て関心しながら呟く。
しかし、そのデータは実際の人間を使って得たとても残酷なものであり本来、そんな内容を見るだけで吐き気を催すのであろうが、少年は涼しい顔をしてどんどん次のページを捲っていく。
すると、あるページを見るなり目を疑う様な内容が記されているのに気付いた。
被験体101号〜200号
乳児期の魂の移し替えが成功する確率は極めて低い。
クローンとして造られた娘のデータに異常は無い。年齢の問題なのかもしれない。
被験体201号〜300号
幼児期に入り、ようやく魂の移し替えの成功率が上がる。
しかし、成功した中には感情の起伏が激しくなり、暴れる為に商品価値は無い。
被験体301号〜400号
感情の起伏問題はバイオロイドと魂が拒絶する事が原因と判明。
メンテナンスと称し、新たなバイオロイドの素体に魂の移し替えを定期的に行う様にすれば問題は解消された。
今後、実験には素体が倍以上に必要である。
生産ラインの速度を上げる為に……。
「へぇ。実験をする為に、あの女は子を産み、それを大量クローン化して人体実験を繰り返していたとは……。これは鬼畜を越えた存在だな」
ノートを捲りながら、そんな事を独り呟く少年。
また、ノートを読み進めていくと自分の夫である輝から生きたままの脳を取り出し、コンピューターに繋いでバイオロイドの素体組み上げに使っていたのも分かる。
「ここまでやると、閻魔大王の采配は輪廻転生が不可能な冥界行きか、僕みたいに無限牢獄行きかな?」
そんな事を言いながら全てのページに目を通した少年は静かに目を瞑ると、暫く何かを考えていた。
(10年前、僕の計画を邪魔した半妖の連中は死神レニーの加勢によって始末し損ねてしまった。バイオロイドが如何に頑丈とはいえ死神の鎌には絶対に勝てぬ。ならば、ここは僕自身が動くべきか……。)
少年は目を瞑ったまま指をパチンと鳴らすと二冊のノートが勢い良く燃える。
その火は山小屋に燃え移ると、少年は小屋を後にし樹海の闇に消えて行くのであった。




