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森川君観察日記  作者: 井上ぴこ
森川君本編
8/47

8.安藤、思いつく

 

 

 『森川君がこんなに寝ているはずがないでしょう……』


 いつもノート1頁分ぎっちり書いてくる返事がたった1行。これだけだった。

 ひぃぃぃっ。

 これはお怒りだ。怒っていらっしゃる。特に……がかなりのお怒りを表している。

 事実しか書いていないのに、怒られるとはなんということだと思う反面、やっぱり少し嘘を混ぜておくべきだったかと舌打ちしたくなった。


 そうそうに何とかしないと先輩が教室にやってくる。黒いオーラを纏いつつ笑顔で「安藤さん、あなた彼のこと馬鹿にしてるの?彼はそんな人じゃないわ」と森川君の素晴らしさを延々と語るに違いない。

 森川君は純粋にお馬鹿さんなんだけど、私が言うことは信じてくれない。森川君が正義なのだ、あの人にとって。

 実際はお馬鹿さんなのに……。お馬鹿さんなんて可愛いものじゃないな、馬鹿なのに。



 「よっ!安藤。朝から不細工な面して。さては先輩に怒られたか」

 朝からテンションの高い佐伯に肩を思い切り叩かれた。痛い。

 無言で睨んでも佐伯には効果がないようで、「何だよ、図星か?不細工って言われたくらい気にするなよ」と慰めてきた。

 うん。不細工って言ったのは佐伯だよ。

 先輩は不細工とは言っていないよ。

 朝から涙が出そう。帰りたいな。

 「何だよー。そんなに不細工って言われて凹んでんのか。大丈夫だって。安藤は中の中だから」

 「……佐伯、一発殴っていい?」

 「もう殴ってるじゃん」

 許可を取る前に佐伯の右腕を思いっきり叩いていた。

 相当ストレスが溜まっているんだとそれで気づいた。



 「で、どうしたの?」

 佐伯が安藤の前の席に座り安藤の顔を覗き込む。安藤の前の席は田中だが、佐伯が邪魔と追い払った。

 田中は自分の席に座っていただけなのに可哀想だ。

 「いや、どうやら寝てばっかなのが気に入らないらしくてさ……」

 「はぁ!?あいつはいつも寝てばっかだろう」

 「それが先輩には信じられないみたい」

 「幻想抱き過ぎだな。実際は寝てばっかのただの馬鹿だろう」

 佐伯が鼻で笑う。先輩も森川君も馬鹿にしているに違いない。森川君はともかく先輩も馬鹿にできるってすごい。

 私が馬鹿にしたら第六感で気づいてお説教されると思う。

 「で、どうしようかと思って」

 「いいじゃん、そのままで」

 「え?」

 思わず佐伯を見る。

 佐伯はきょとんとした顔で「だって寝てるのが事実じゃん。観察日記だし、見たまま書けばよくね?」とのたまった。

 「それでいいなら悩まないんだって」

 何だかガクッと体の力が抜けてしまった。

 佐伯が先輩と交換日記やればいいのに……。



 授業が始まってからも安藤は考える。

 このまま観察しても森川君は寝ているだけだ。今日もそのまま書いたら完全に怒られる。

 どうしよう。あーすげぇ面倒くさい。

 もういっそ先輩と森川君がさっさとくっついてくれたらいいのに……。


 ん?

 そっか!これだ!!

 「どうした、安藤?」

 ガタンと思わず席を立ってしまって先生に声を掛けられた。

 「い、いえ、何でもありません」

 慌てて座りなおしたが、クラス中に笑われてしまった。

 森川君じゃあるまいし、超恥ずかしい。


 でもこれで何とかなるかもしれない。






読んでいただきありがとうございます。

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