44.家族紹介は遠慮します(2)
新学期が始まって数日はとても平和な日々だった。
森川君に付き纏われ、加藤さんにブスと連呼されても平和と言えるようになったのは私の日常が浸食されているからだろうか?
「安藤、これ」
クラスメイトから1枚の紙切れを渡された。
「何?」
「何か渡してほしいって頼まれた」
「ふーん、ありがと」
クラスメイトは紙切れを渡すとさっさと戻って行った。
2つ折りにされたその紙を広げるとボールペンで『放課後、中庭で待ってます』とだけ書いてあった。
一見すればラブレターのように見えるが、それはない。
筆跡から女子だと思うし。
これは森川君絡みか。
「安藤、遂に修羅場か」
「修羅場って……」
佐伯が紙を覗き込んでにやりと笑った。
放課後、中庭に向かうと誰もいなかった。
昼休みにはベンチに座って談笑している生徒が多いが、放課後はめっきり人がいなくなるのだ。
どうしよう。森川君絡みで暴力振るわれたら。
今まで何故か森川君のことで絡まれることはなかった。(加藤さん以外)
顔はイケメンなのに、中身が残念だから誰も付き合いたいと思わなかったのか、安藤にとって絡まれないのはラッキーだった。
「いないの?」
「います!」
「うわっ!!」
独り言に返事が返ってきて、驚いて振り向くと、少し離れたところに女子生徒が1人立っていた。
黒髪の腰まであるストレートにすらりと伸びた手足。背は安藤よりずっと高いのに顔の大きさは安藤より小さい。
顔も整い過ぎていてはっきり言って先輩よりも美人だった。
「……あなたが呼び出した人?」
「はい」
こっくりと頷く彼女を見ていて、誰かに似ていると思ったが、こんな美人な知り合いはいない。
「ご用件は?」
「あのっ!隼君と別れてください!」
あーやっぱり森川君関係だった。
隼君と呼ぶあたりかなり仲が良いと思われる。
森川君でかした!
目の前で必死に言う彼女を見ていてガッツポーズをしたくなった。したら変な人になるのでやらないけれど。
こんな美人に好かれているなんて良いことだ。未来の彼女決定だよ。
笑いたくなるのをぐっとこらえ、彼女を見た。
「安藤さんが隼君と付き合ってるって知ってたんですけど、我慢できなくて。お願いです!別れてください」
そうしてあげたい。いや、是非ともそうさせてください。
喉まで出かかってふと躊躇う。
彼女は森川君の本性を知っているのだろうか?
確かに見た目はイケメンだ。美人な彼女と並んでも遜色ない。
だが、中身は?
大分改善してきたとはいえ、まだまだ残念だ。
彼女は森川君の中身が残念だと知らなかったら、どうなる?
すぐ別れる2人が浮かんできた。それは駄目だ。
森川君の彼女になってくれる人なのだからすぐに別れられては困る。また自分のとこに戻って来られたらもっと困る。
「そうしてあげたいのはやまやまなんだけど、これは私1人の問題じゃないから」
上手い言い訳を考えながら、慎重に話す。
「あなたが森川君を好きで、森川君にアプローチするのは構わない。森川君があなたに振り向いたら私は別れます。だけど、私だけの気持ちで森川君に別れを告げることはできない」
告げたところで、森川君の気持ちが別な人に向いていなかったら意味がない。
駄々をこねて足に縋り付いてでも嫌だと言う人だ。
ちゃんと気持ちを向けさせてからじゃないと別れるなんて不可能だ。
それにアプローチをしていくうえで森川君の本性を知るだろう。知っても好きだと言ってくれる人じゃなきゃ彼は無理だ。
「…………」
彼女はうつむいたまま動かない。
泣いちゃったかな?どうしよう。
そばへ近づいて顔を覗こうとしたその瞬間、
「合格」
口の端を上げて彼女は笑った。
「ふふふ。お姉さまって呼んでもいいですか」
可愛らしい笑みを浮かべながら抱き着かれた。
言っていた内容はあえて聞かなかったことにした。詳しく追及すると色々怖い。
美人に抱き着かれたままどうしてこうなったと安藤は回らない頭で考えた。
いつもありがとうございます。




