42.エイプリルフールの別れ話は信じてもいいか
春休みももうすぐ終わろうとしていた4月。
安藤の携帯が鳴った。
「誰?」
表示を見れば森川君。
あれ、今日は部活が夕方まであるって言ってなかった?
因みに部活があるかどうかは安藤が聞いたわけではない。森川君が春休みに入る前に日記に書いてきたのだ。部活の合間にデートしたいから安藤の予定と自分の予定を確認するために。
安藤から聞いたら森川君は喜んで教えてくれるだろう。尻尾を振りまくる犬の姿が浮かぶ。聞く気はないが。
「もしもし、森川君どうしたの?」
安藤はすぐ電話に出た。何か急な用事があってかけてきたのかもしれない。
部活の合間だろうからあまり時間がないに違いない。
『あ、栞。あのさ……』
電話口の森川君は何だか元気がない。
「どうしたの?何かあった?」
『………………』
聞いても何も言わない。本当にどうしたのだろうか。悪いものでも食べたのか?
「具合でも悪いの?」
『………………俺と別れてほしいんだ!!』
「え?」
唐突すぎてどう反応していいかわからなかった。
『それじゃっ』
ブツッと電話は切れてしまった。
「え?どっち??」
携帯を見ながら安藤は首を傾げた。
何で今日言うんだろう……?
携帯で日付を見ると4月1日。
エイプリルフールだった。
*****
「森川、休憩終わるぞー。そんなにしょげるなよ。カビ生えるぞ」
部室のベンチで携帯を見ながら黒い影を背負っている森川。
「水石ー。これで『うん、いいよ』って言われたらどうしたらいい??」
振り返った奴は涙目だ。
「そんなん、知らん」
「!!お前がエイプリルフールは栞の気持ち確かめるのに最適だって言うからこんなことしたのに!本当に別れるようになったらどうしてくれるんだよ!?」
森川が掴みかかってくる。
ガキじゃねぇんだから泣きながら掴むな。鼻水は頼むからつけないでくれ。この後の練習お前の鼻水に塗れたユニフォームでやるなんて俺は御免だからな。
「だったら言わなきゃよかったんじゃない?」
武井が俺に掴みかかった森川を離す。
「だってさ、栞春休みにデートしようって言っても「部活忙しいんじゃないの?」って言うし、部活の日程教えても何も言ってこないし、好かれてないのかなって思うじゃん!」
泣きながら語る森川に安藤の気持ちはないんじゃね?とはさすがに言えなかった。
まぁまぁ落ち着いて、鼻かんでと武井はティッシュを森川に渡す。おかんか、お前。
目は涙で赤いし、思いっきり鼻をかんだため、鼻も赤くなっている。
「そんなに嫌なら、今日エイプリルフールだから嘘ついたって言えばいいだろ」
武井が最もなことを言うが森川は首を振る。
「それじゃあ言った意味がない」
「んでもさ、それで別れることになったらお前どうすんの?」
俺が聞くと森川はまた泣き出した。
「うわぁ~嫌だー。栞ー俺別れたくないー」
あんまりにも面白いので携帯でムービーをこっそり撮ってしまった。
あとで佐伯に送ってやろう。
*****
さっきのは本当のことか?それとも嘘か?
安藤は机の上に置かれた携帯を見ながら考えていた。
嘘ならすぐ泣きながら電話がかかってきそうなんだけど、かかってこないし。
部活中だからかけたくてもかけられないのかもしれない。
本当なら森川君のためにも別れるべきなんだろうけど……。
「…………!?」
私、今別れたくないって思った?
まさか、森川君に恋した!?
いやいやいやいや、待て。落ち着け。よく考えろ。
この5か月間のどこに恋する要素があった!?
安藤は5か月間のことを思い出す。誕生日に鼻血事件、クリスマス栞コレクション事件、バレンタイン加藤さんがウザくて最悪だったこと……。
思い出して冷静に考えた結果、恋になり得る要素は1つもなかった。
確かに顔は良いが頭は相変わらず残念だ。ちょっとマシになってきているけれど。森川君のちょっとって普通の人の10分の1以下だし。
一緒にいて情に絆されたのか。どこに絆されたんだ!?馬鹿なとこか!
騙されるな。これは恋じゃない。断じて違う。
いきなりの『別れよう』発言に驚いて気が動転しただけだ。
それに最初から先輩が卒業したら別れようって決めていたじゃないか。
それなのにいつの間にか春休みになっちゃってるし。
あれだ。加藤さん講座が長引いてバレンタインが1か月後になってしまったから別れるタイミングを逃してしまったのだ。
これはチャンスじゃないか。
森川君がエイプリルフールだと知らなくて言った可能性だって十分にある。
エイプリルフールのことすら知らない可能性だってある。
嘘じゃなくて本当に別れたいと思っているのかもしれない。
そうだったらこっちから別れようなんて言わなくて済むのだ。
「…………済むんだけどなぁ」
やっぱり嘘!別れたくないって泣きながらの電話が来るのを待っている。っていうか絶対来る。
「うん、別れよう」なんて言った日には泣きながら、自宅にまで押しかけてきて土下座もしかねない。
*****
「じゃ、今日はここまで」
部活の終了とともに森川は部室へ駆けていった。
あれは安藤から電話かメールが来ているか気になっているに違いない。
今日の練習もあれ以降上の空で顧問に怒られっぱなしだった。
「森川ー連絡あったのか」
部室のドアを開けて、森川の後ろ姿に声をかける。
携帯を耳に当てているってことは連絡があったんだな。
どれ、どんな顔してんのか覗いてやろうと森川を見れば顔を真っ赤にしていて。
お。
これはいい感じか?
とニヤニヤ笑って様子を見ていた。
『もしもし、森川君?部活お疲れ様です。安藤です。……さっきの電話の件だけど、本当に別れたいなら明日もう一度言ってくれないかな?今日エイプリルフールだから嘘か本当かわからなくて。今日言うってことは嘘だと思うんだけど、森川君今日エイプリルフールって知らないのかもと思って。要件はそれだけ。じゃあまたね』
森川は留守電を聞き終わるとすぐに電話をかけ始めた。
相手は安藤だろう。聞かなくてもわかる。
「あ、もしもし栞?俺、栞のこと大好きだから!結婚しよう!!」
『え!だからどっち!?』
電話口でまた安藤は嘘か本当か悩むはめになってしまった。
いつもありがとうございます。
この話だけ、本編終わった直後くらいに書いたので、安藤の気持ちが揺らいでいる感じになっています。
揺らいでいるといっても恋愛感情はなく、馬鹿な子の成長を見守る親な感じです。
恋愛ジャンルにいるのに、いつまでも恋愛に発展しない不思議……;




