41.加藤さんのバレンタイン講座(2)
何とかホワイトデーまでに間に合いました。
はっきり言って、加藤さんはスパルタだった。
「いい?まず今日はチョコレートの歴史を学ぶわよ」
黒板の前に立ち、チョークを片手に加藤さんは席に座る安藤に言う。
一応佐伯も隣にいてもらっているが、すでに帰りたがっている。
「おい、何で歴史から学ぶんだよ。作り方だけ教えればいいじゃねぇか」
欠伸をかみ殺しつつ、ダルそうにしながらも疑問をぶつける佐伯。
何故、歴史を学ぶのか?それは安藤も疑問に思っていたことだ。
「あんた!簡単に作り方を教えると思ったら大間違いよ!!いい?料理ってのは、材料の性質、特徴、調理方法、全てを学ばないとできないのよ!チョコレートの作り方だけ知りたいなんて虫のいいこと言ってんじゃないわよ!」
「やべぇ。あいつ凝り性の料理好きだわ」
熱く語りだす加藤さんとは裏腹に隣に座っていた佐伯はうんざりした様子でつぶやいた。
その後、1時間以上もチョコレートの歴史について語られ、ノートも取らないで聞いていたら「ノートくらい取りなさいよ!やる気あんの!?」と怒られ、ノートまでとらされる羽目となった。
「じゃあ残りの歴史は明日ね」
「明日もかよ!」
もうマジでお前にはついていけないわーと安藤の肩を叩き、「明日からも頑張れ」と爽やかな笑顔で佐伯は席を立った。
こいつ、明日からはバックれるつもりだよ……。
この加藤さん講座に独りで参加させられるとは地獄じゃないか。
翌日もその翌日も座学だった。歴史の次はチョコレートの製法。
短期間でかなりチョコレートには詳しくなった。なったけれども。
肝心の作り方は一向に教えてくれる気配がない。
「……であるから、このチョコレートにはこの製法がいいのよ」
「あ、あの、加藤さん」
「何?」
「いつになったら作り方学べるの?」
出来るだけ加藤さんを怒らせないように慎重に安藤は問う。
「んー、そうねぇあと1か月はかかるかしら?」
「い、1か月!?」
「そうよー。だって学ぶこと学んでからじゃないと作れないでしょ?」
安藤は眩暈がした。
しれっと言いますけど、1か月って。バレンタインどころかホワイトデーまで終わっちゃうよ!
どうしよう。1か月もかかってたら森川君ががっかりするどころかぐずるんじゃない!?
加藤さん講座を諦めて自力で作るにしてもお腹を壊されたりしたら心配だ。(主に自分の身が。森川君がお腹壊したら森川君の家族が黙っていないと思う。)
これは仕方ないけど、加藤さん講座を素直に聞くしかない。
森川君には謝ろう。
翌日、安藤は森川君に事の経緯を話した。
「ごめんね。加藤さんがあまりにも熱くて作り方教えてもらえるの1か月後なの」
「おい!あいつ1か月も伸ばすのかよ!それ、安藤の邪魔したいだけじゃね?」
佐伯は驚いて、加藤さんが意地悪をしているのではないかと勘繰る。
加藤さんは実際、意地悪はしていない。ただ、熱心に、うん。本当熱心に教えてくれているだけだ。
度が過ぎていなければ、すごく良い人だが、何事にも限度がある。今回の件でそれを学んだよ。
「俺、栞が作ってくれるの待ってる!」
森川君は笑顔でそう言ってくれたが、「お前、バレンタイン過ぎてもいいのか?」と純粋に佐伯に聞かれて「本当は嫌だけど……」と本音を零していた。
目の前に本人いますから。聞こえないように離れたとこで言ってくれないかな?
2人を殴りたいのを安藤は必死に堪えた。
その後も加藤さんのチョコレート講座は続き、1カ月後。
「はい、講義はこれでおしまい。よく頑張ったわね」
加藤さんは笑顔で、安藤と握手する。
「ありがとうございます!」
「これで隼ちゃんも満足するチョコレートが作れるわ」
「え?」
いやいやいや。ちょっと待ってくれ。
「……加藤さん、これから作り方教えてくれるんでしょ?」
今まで受けてきたのは、作り方ではなくて、歴史から、特徴、性質、製法だけである。これで作れるはずがない。
「何言ってるのー!?私の秘伝の作り方教えるわけないでしょ。そこは自分でやんなさいよ」
何 だ そ れ !
肝心の作り方を教えてくれないとは。
この1か月なんだったんだ。マジで、何だったんだ。
「大丈夫よ。今まで学んだことを活かせば簡単に作れるわ」
安藤の両肩に手を置いて最もらしいことを言うが、正直作れるはずがない。
無駄に時間を過ごした挙句、放り投げられるとは。
どうしたらよいかわからず、安藤は途方に暮れた。
こんなの佐伯は大爆笑して、「やっぱ加藤は加藤だわー」とか言うに違いない。
森川君は1か月も我慢したのに「え、ないの?」とがっかりするだろう。
本当、加藤さん何なの!?たちが悪い。
仕方ないので、凝ったものは作らず、湯煎で溶かしたチョコレートをカップに入れて、上にトッピングするだけという、幼稚園生でもできる簡単なチョコレートを作った。
溶かして固めるだけって。
ああ、この1か月何だったんだろう……。
無駄な時間だったなと思うのは言うまでもない。
翌日、佐伯に「安藤、あれだけ真面目にやってこれかよ!?」と馬鹿にされ、悔しい思いをした。
森川君はこんな簡単なものなのにとても喜んでくれて「俺、一生食べないで取っとく!」とまで言い出した。
汚点だから食べてくれ。
やっぱりバレンタインは市販のチョコレートが一番いいなと今回のことで身に染みてそう感じた安藤だった。
いつもありがとうございます。
一回書いたものが全部消えて泣きたくなりました。
しかもタイトル間違えてました。すみません;
次回は4月1日に投稿予定です。




