40.加藤さんのバレンタイン講座(1)
いろいろなネタをやりたかったのに、いつのまにかバレンタインまですぎてしまったというorz
2月に入って森川君は急にそわそわし始めた。
常にそわそわすることが多い彼だが、その頻度は1月までと比べて増えた。
何が言いたいのか薄々感づいてはいたが、安藤の方からは切り出しはしなかった。
絶対に面倒臭い。
向こうが切り出してこなければ「あ、そういえば○○(イベント名)過ぎちゃったね」と後日なかったことにできる。
しかし、森川君は甘くなかった。
「栞ー、もうすぐあれだよね」
あれとわざと濁してきたよ。
「ああ、そうだな、節分だな」
佐伯がわかっているのにわざと豆まきのイベントを答えた。
「違う!バレンタインじゃん」
節分もう終わったしと口をとがらせる森川君を無性に殴りたくなった。それやっていいのは女子だけだ。可愛くても腹が立つ。
「お前、自分から催促するとは……。どうせたくさんもらうんだろ、義理チョコ。安藤のなくたっていいだろ」
佐伯が森川君の様子に引き気味だ。自分から切り出すって勇気あるよね。
「それに安藤が作るお菓子、まずくて死ぬぞ」
「!」
自分がそこでダメージを受けると予想していなかったため、安藤は思ったよりショックを受けた。
「栞が作ったもので死ねるなら俺、本望!」
佐伯が冷めた目で森川君を見る。
「誇張して言ってるわけじゃなくてマジだからな。去年、安藤が作ったチョコで安藤の親父3日間腹壊して寝込んでるからな」
先ほどまでの勇ましい様子から一転、森川君の顔は青ざめる。
「昼夜問わず襲われる激しい腹の痛み。寝ても覚めてもうなされる恐怖。お前、本当に食えるのか?食わないことも優しさだぞ」
「や、やっぱり無理かも……」
佐伯も森川君も本人を目の前にして失礼すぎないか。確かにお父さんはお腹を壊したけれども!
心の中で安藤は憤慨する。
「俺、彼女から手作りチョコって理想だったんだけどな」
悲しそうに森川君は呟いた。
「今までに付き合った人からもらったことあるんじゃないの?」
「ああ、家族がもらうなって言ったんだよ。こいつ、顔は良いけど馬鹿だろ?中身とか知らない他校の女子とかからチョコもらうとすぐ惚れるだろうし、向こうもその気になると困るから、『知らない人や仲良くない人から食べ物をもらってはいけません』って小さい時から言われてて、付き合った子からなら大丈夫かと思ったら、何かその子が変なもの入れてたみたいで、腹壊してさ。それ以来付き合っている彼女からでも家族が認めた人以外から手作りをもらってはいけないとルールができたらしい」
えー、怖い。何そのルール。
そしてそのルールを知っている水石も怖い。
「今年は、安藤さんからならもらってもいいと家族会議で決まったから、森川はしゃいでたんだよなー」
待って。そもそも手作りする気もあげる気もないんですが。
安藤の意思は無視して話が勝手に進んでいる。家族会議とか重いよ。
でも話だけ聞いていたらあまりにも可哀想だったので、手作りじゃなくて市販のならあげてもいいかと安藤は思った。
「ごめんね、森川君。手作りじゃなくて市販のでもいい?」
「いいんだけど、いいんだけど……」
ちらり。
安藤を横目で見る。
……が何を語りたいかよくわかりますが、あれだけ殺人的と罵られた(殺人的とはだれも言っていない)手作りをするつもりはない。
「あ、じゃあ加藤に教われば?」
「加藤さんに?」
「あいつブスだけど、料理は超上手いんだよ。頼めば教えてくれるんじゃね?」
加藤さん、料理が上手な感じはしないんだけど。人は見た目じゃないからね。
自分も失礼なことを思っていると安藤は気づいていない。
加藤さんに頼みに行くと、加藤さんは座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、安藤を睨みつけた。
「あんた、ブスのくせに料理できないの!?」
「はい……」
ブスはもう加藤さんのあいさつみたいなものなので軽く受け流した。料理ができないのは事実である。
「駄目じゃない!ブスなんだから料理くらいできないと!いい?ブスはね、美人みたいに何もしなくても男が寄って来るわけじゃないのよ。料理くらいできないと男を繋ぎ止めることなんてできないんだからね!!」
「おお、体験者のお言葉は重みが違いますなぁ」
脇で佐伯が茶化すので思わず笑いそうになった。
「ちょっと!あんたやる気あるの!?いい、私に弟子入りするんだから甘くはないわよ。覚悟しなさい。隼ちゃんも喜ぶチョコレートの作り方教えてあげるから」
「はぁ」
何か面倒なことになったなと軽い気持ちで安藤は思っていた。この後苦労することも知らずに……。
読んでいただきありがとうございます。
バレンタインに間に合いませんでした。すみません。
そして続きます。




