35.クリスマス?うちは仏教です(7)
前回の続きです。
そこからが地獄だった。
別に怖い話がじゃない。
怖い話に反応する森川君がだ。
怖い話が苦手らしく、オチに入るたびに安藤の袖をギュッと掴むのだ。
「で、実はそいつはもう死んでいたんだ」
「ひぃっ」
「……森川君、袖伸びるから強く掴まないで」
既に掴まれているところは伸びてきている。お気に入りだったのに、もう着られないかもしれない。
袖を引っ張らないでと言ったら、今度は腕にしがみついてきた。
ごめん、そっちの方が嫌だ。
カップルの女の子が彼氏の腕にしがみついているような感じ。
森川君、そこは格好良く『俺がついてるから怖くないよ』くらいじゃないと困る。
未来の彼女に幻滅されてしまうよ。
「………………見つけた」
後ろから女の人の声がして振り返ると、ドアがほんの少し開いていて、そこから目だけが覗いていた。
「ギャアッ!」
「っ!!」
森川君は恐怖で腕にしがみついたまま固まってしまって動かない。
目が覗いていたことよりもその衝撃に驚いて安藤は小さな悲鳴を上げてしまった。
「ちょっとー、失礼じゃない!?何なのよ」
ドアを開けて入ってきた目だけの人は、加藤さんだった。
「お前、良いところで入って来るなよ。森川ビビッて固まったぞ」
「やだ、隼ちゃんごめん!びっくりしちゃった?」
加藤さんは森川君の隣に座って森川君を揺さぶった。
「……マジでビビった」
青い顔で森川君はうつむいたまま呟いた。
「さっきからビビりまくりだろうが」
「大丈夫?」
小休憩のときに取ってきたココアを森川君に勧めると、両手でコップを持ってゆっくり飲みだした。
温かいものを取って落ち着いたのか顔色は徐々に良くなる。
「加藤、よくわかったな場所」
「当たり前じゃない。隼ちゃんのことなら何でもお見通しよ」
自慢げに加藤さんは言うが、それならあんな登場は避けた方が良かったと思う。怖がりにあれは厳禁だ。
「で、カラオケにいるのに何やってるの?」
「怖い話だよ」
「やだー!超面白そう!私もあるわよ」
加藤さんは意外にも乗り気で話す気満々だ。
「これはね、私が隼ちゃんと出会う前のことなんだけど、私、付き合ってた人がいるの。今は隼ちゃん一筋よ。それでその人といい感じになってね、その人と一夜を過ごすことになったんだけど」
「大胆なカミングアウトだな」
「そうなるってときにその人悲鳴出して逃げちゃったの。あれはきっと何か見たのよ」
「いや、それはお前のすっぴん見たからだろ。悲鳴あげるほどひどかったってことだろ」
「そんなわけないでしょ!?あれは霊的な何かをみたからよ」
「ポジティブすぎてある意味尊敬するわ」
加藤さんの話で白けたのか、佐伯は照明を一番明るくした。
怖い話って気分じゃなくなったようだ。
「もう帰ろうぜー」
佐伯は荷物を持って立ち上がる。
「栞、これ」
森川君は鞄をあさって、安藤に長方形のラッピングされた箱を差し出した。
「何?」
「プレゼント。何もないのは駄目だって言われたから」
「えー何それ!?隼ちゃん、私にはないの?」
加藤さんがうらやましそうに見て、森川君に尋ねたが、「ないよ」と素っ気なく返されていた。
「ありがとう」
「安藤、開けてみたら?」
水石に促され、安藤は受け取ったプレゼントの包装紙をはがしていく。
中身はハートのネックレスだった。立体の透かしハートの中に薔薇の花のモチーフがあしらわれている。
「可愛い」
思わずそう漏らすと森川君は嬉しそうに笑った。
「森川のセンスにしてはハイレベルだな。妹か?」
「当たり前じゃん。森川にこんなの選べるわけないって」
安藤の手元を覗き込んだ佐伯が言うと水石が代わりに答えた。
「お前ら……。そうだよ!俺1人じゃ何買っていいかわかんないから一緒に選んでもらったよ!」
やけくそになって森川君が答える。
「妹、本当にセンス良いよな」
「お前と妹、性別逆にして生まれてきた方がよかったんじゃね?」
「何言ってるのよ。隼ちゃんはちょっとお馬鹿なとこが可愛いんじゃない」
皆言いたい放題だ。
「うるさい!俺は栞に喜んでもらえればいいの!」
「森川君……」
何かちょっと感動して目が潤んでしまった。
「栞は俺にないの?」
「あ」
森川君に言われて思い出した。
先輩に栞コレクションをあげるようにと言われていたのに準備するの忘れていた。正確には準備したくなくて記憶から消し去っていた。
代わりのものも何も用意していない。
どうしよう。
自分だけもらっておいて、ないよとは言えない。
「えっと、ちょっと待ってね」
慌てて何か渡せるものがないか鞄の中を探す。
「?」
何か入っている。
自分で入れた覚えのない包装された薄い四角いものが入っている。
まさか……?
鞄の中でひっくり返してみると黄色い付箋が落ちていて『ちゃんと用意しなきゃダメって言ったでしょ。今回は私が用意しておきました。次回から気を付けてね。M・T』
と書いてあった。
M・Tって先輩……!?
いつ入れたの!?この鞄学校に持って行っていないのに。
今日のどのタイミングで先輩が現れたの!?
そして一体いつ私の写真を撮っていたの?
「あ、もしかしてこれ?栞、ありがとう」
色々な恐怖で動けなくなった安藤の様子に気づかず、鞄を覗き込んだ森川君は自分のと思われるプレゼントを勝手に取り出して嬉しそうに自分の鞄にしまった。
安藤にとって今日の怖い話よりも一番怖い出来事だった。
いつもありがとうございます。
これでクリスマスは終了です。




