3.安藤、巻き込まれる(2)
2つめなので短いです。
逃げられないと悟った安藤は化学実験室の椅子に腰かけた。
反対側にはさっきまでの威圧感抜群の笑顔ではなく純粋な笑顔を向ける彼女。
こうしてみると彼女は万人受けする美人だ。
ただ、美人でも関わり合いになりたくない人種だと安藤は思った。
どんなに綺麗な顔でも本性を垣間見てしまった今ではもう遅い。
彼女ー寺岡真理先輩(勝手に自己紹介された)ーはもう聞きたくもない、聞いてもいないのに語りだした。
「私ね、森川君が好きなの。だって彼格好良いし、サッカーやってるときの姿なんて一生懸命で、同じ学年の男子なんか屑にしか見えないの」
確かに森川君はイケメンだ。某イケメンしかいない事務所にも入れるくらいは格好良い。しかし、頭は残念で有名だ。
友人の佐伯は『森川は確かにイケメンだけど、馬鹿過ぎて付き合うとか無理。私まで馬鹿に見られたら屈辱』とまで言っていた。
『黙ってて大人しく動かないでいたら付き合ってもいい』とも言っていた。もうそれ付き合うとは言わないよと心の中で思ったのを覚えている。
まぁ、森川君も佐伯とは御免だと思うのでおあいこだろう。
っていうか、この人同じ学年の男子のことを屑って言った!
さりげなく屑って言ったよ!!
聞きたくないから軽く流していたが、屑と言ったのは聞き間違いじゃない。
「でも私、年上でしょ?部活とか見てるだけじゃ接点も持てないし」
「…………だったら話しかけたらどうですか?」
森川君は人懐っこいので、話しかけたら笑顔で話してくれるはずだ。まぁ、内容は幼稚園レベルかもしれないが。
「やだっ!そんなの恥ずかしくてできない!!」
「っ!?」
バシッと安藤の頭を思い切り叩いた後、先輩は両手で顔を覆う。
照れているのだとは思う。思うが。
森川君に話しかけるのは恥ずかしくてできないのに、見ず知らずの、全く赤の他人である自分を無理やり捕まえて話しかけられるのは何故なのか?
聞きたいが、今度は頭を叩かれるだけでは済まない気がして聞けない。
「だからせめてクラスでの様子を知れたらなって。ねっ?」
先輩が顔を覆っていた両手を少し下げ、目だけ見える形で話す。
「はぁ」
何をもって「ねっ?」なのか安藤にはさっぱりだ。
「本当!?良かった!安藤さん、ありがとう!」
「へ?」
さっきの「はぁ」は彼女の中で肯定の意味として捉えられたらしい。
違いますと否定しようとしたところで、先輩が返してくれなかったノートを安藤に喜びながら手渡す。
「じゃあ、明日からお願いね!協力してくれなかったら許さないから」
後半のトーンはドスが効いていてさらには睨まれた。
スキップしながら化学実験室を出て行った先輩。
ただ1人残された安藤は呆然としつつも悟った。
これは、強制に巻き込まれた……。
読んでいただきありがとうございます。