22.森川君の誕生日(2)
ぎりぎり間に合いました。
―――森川君の誕生日当日。
その日、朝から森川君はそわそわしていた。
「おい、さっさと渡してやれよ。あいつ安藤のこと気に過ぎてるのかトイレ行きたいのかわかんない状態だぞ」
確かに5秒に1回は安藤のことを見てくる。
それに気づかない人が見れば、トイレ行きたいけど行けないのかなと思うだろう。
安藤の席は廊下側の一番後ろ。教室のドアはすぐ横にあるのだ。
クラスメイトも森川君のそわそわぶりに安藤のことを生温い目で見守っている。
森川君もそれだけ見てくるなら、ずっと見ているほうがいいのではないか。
「今渡すの?」
鞄の中には包装されたスポーツタオルが入っている。
タイミング的に今渡すのがいいのか。
「今しかねーだろ。今渡さないと授業中も安藤のこと見てくるぞ」
授業中こちらを見まくる森川君。寝ないで後ろを振り返るその姿に先生は何事かと思う。そして話しかけ、「実は俺今日誕生日なんですっ!」と元気よく答えてまた安藤を見れば、ああ安藤からプレゼントもらってないのかと気づく。おせっかいな先生ならそれにプラスアルファで「安藤、何も用意してないのか?」と聞き、クラス中が安藤に注目する。そこで安藤がプレゼントを渡せば……。
「マジ無理…………」
そこまで想像して耐えられなくなった。想像は強制終了だ。リアルすぎてあり得る。
安藤が気の弱い子だったら不登校になるだろう。安藤は気の弱い子ではないので有り得ないが。
これが加藤さんだったら「やだー先生ったら!恥ずかしい。でも隼ちゃん、お誕生日おめでとう!」とかクラスの視線を全部浴びた状態でプレゼントを渡すだろう。
恥ずかしいとか言いながら内心喜ぶはずだ。皆の前で彼女って言ってくれてありがとう。これで隼ちゃんと私は公認の仲。キャーと一人悶えて授業どころじゃなくなるに違いない。
それはそれですごいなぁ。
安藤はなぜか加藤さんバージョンの想像までしていた。
「今渡しとけ。あとは家帰ってから開けるように言っとけば大人しくするだろ」
恥ずかしいから家で開けてほしいとか言えば、にやけながら一日を過ごす。
家に帰ってから開けて(無難な)スポーツタオルが出てきても、一日期待して過ごしているからとんでもなく喜ぶ。(多分すぐ開けても同じように喜ぶ)
喜んでテンションが上がって安藤の携帯に電話をかけてくる。そこは寝ていることにして電源を切っておこう。
「それが一番マシなパターンだ。行ってくる」
「多分漏れちゃいけない部分も声に出てるぞ」
佐伯の言葉は耳に入っていなかった―――。
「森川君」
「!」
待ってましたと言わんばかりの表情で森川君は安藤を見た。
今、絶対尻尾振っている。
あるはずのない尻尾が見える。森川君以外クラス全員見えている。
「な、なに、栞っ」
森川君はあれだけそわそわしていたのに、いざ目の前に来られると緊張しだすとは。
ここで誕生日の話題に触れず別の話をしたらどうなる?
一瞬そんな考えがよぎったが、そのあとがあまりにも可哀想なのでやめよう。
「はい、これ。誕生日おめでとう」
包装してもらったタオルを渡すと、感極まったのか目を潤ませる。
「栞、俺の誕生日覚えててくれたんだ」
「う、うん」
本当は佐伯から聞いたなんて言えない。
「違うぞ、森川。安藤はお前の誕生日なんて覚えてなかったぞ」
自分からは言えないが、佐伯から言われてしまった。
「佐伯、馬鹿なことを言うなよ。栞が俺の誕生日知らないはずがないだろ」
森川くんはそんな佐伯の言葉をも気にも留めない。
ごめん、森川君。佐伯が言っていることが正しいの。
佐伯は白けた目で森川君を見ていた。おそらく、馬鹿には何言っても無駄。つーか、今馬鹿に馬鹿って言われなかった!?って内心ブチギレているころだ。
今日は誕生日だから何もしないけれど、明日はひどい目に遭うはずだろう。
「開けてもいい?」
目を輝かせながら聞くので、「うん」と若干引き気味に答えた。帰ってから開けてとは言えない。
子供のようにビリビリに包装紙を破り、中から出てきたスポーツタオルを見てさらに目を輝かせた。
「これ、俺超欲しかった!!」
「う、うん……」
無難なただのタオルなんですけど。
「森川、この前ヘッドホン欲しいって言ってなかった?」
と武井君が聞けば、
「俺、タオル超使うし~」
「お前、ほとんどタオル使わないじゃん。いつも袖で拭いてるだろ、汗」
さらに水石が突っ込みを入れる。
「うるさい、お前ら!栞がくれたものは俺にとって宝物なの!!」
「つまり欲しいものでも使うものでもないけど、嬉しいってことか?」
「そう、それ!」
最終的に佐伯による推測に頷いた森川君。
あーそうですか。欲しいものでもないし使わないものあげちゃったんですね。
無難なとこでスポーツタオルにしたのがいけなかったのか。あげたのにこの仕打ち(しかも本人は気づいていない)。
「もういいよ。タオルいらないなら返して……」
「いる!使う!大事にする!」
タオルを握りしめて首を横に振る森川君。興奮してしまったのか鼻から一筋の赤いものが流れ落ちる。
「ちょっと!鼻血出てる」
慌てて森川君に言うと、本人は握っていたタオルで鼻を押さえた。
あー。
「お前……、今もらったタオル鼻血拭うのに使うなよ……」
「ほら、栞は俺に必要なものをくれるんだ」
得意気に言われても全然嬉しくない。
「使ってもらえてよかったーあはは」
もう棒読みで笑うしかなかった。
いつもありがとうございます。
昨日帰りが遅くて予約できませんでした。
3連休も出かけるので更新が難しいと思います。
明日と8日は更新する予定ですので、よろしくお願いします。




