17.そして安藤の平穏は終わりを告げる
その日を境に安藤の日常は変わった。
正確に言えば約1か月前から変わっているが……。
「おはよう、栞」
朝教室に着けば森川君が近寄ってきて笑顔で安藤にあいさつをする。
「お、おはよう」
安藤は森川君の顔を見ないで言う。あからさまに背ける。
「今日も地味だけど、そんなとこも俺好きだよ」
「…………」
森川君はそれだけ言うと自分の席へ戻っていく。
「あいつさー、地味だねとか自分の彼女に言うか?本当に失礼だな」
「佐伯……」
ウィースと佐伯はあいさつをしながら吐き捨てるように言った。
「安藤も元気出せよ。化粧すれば中の中から中の上にはなれるから」
肩を叩いて慰めてくれているのだろうが、全然効果がない。
なんだかんだ言って佐伯も失礼だ。
私の周りには失礼な人間しかいないんじゃないかと安藤は思った。
先輩に脅されて森川君と付き合わなきゃいけなくなり、次の日森川君から「付き合ってください!」と再度アタックされ、死んだ目で「はい」と答えた。
佐伯には事情を話したが「いいじゃん。黙ってるかサッカーしてるときはイケメンだから。安藤のレベルで森川の顔レベルは普通無理なんだから得したと思え」と慰めにもならない言葉をもらった。
「不細工で馬鹿よりイケメンで馬鹿のほうがましだろ」とも言われたが、恋愛感情がないのだからどっちも嫌だ。
苛められているんじゃないかと真剣に考えて先生に相談しに言ったら、「あの森川の赤点を克服させるなんて感心だ。先生はいいと思うぞ」とか言われた。
良くない。すごく良くない。
安藤1人だけが納得しておらず、周りが納得しているためもはやどうにもならない。
貧乏くじを引いた気分だ。
クラスメイトの一部は同情してくれているが、だからといって何かしてくれるわけでもない。
安藤が納得すれば丸く収まる話なのだ。
「あーあ、呪われてんのかな?」
「絶対呪われてんね」
小さく呟いた言葉に佐伯が断言した。
「安藤の不幸度半端ない。まぁいいじゃん。先輩が卒業したら別れれば」
そう。先輩が卒業したら別れる。卒業してしまえばもう関係ない人なのだから森川君と付き合おうが別れようが関係ないはずだ。
ただ、別れるときに森川君は号泣してしがみついて嫌だと言いそう。
そうなったら人として良心が痛むのでそれまでに森川君に好きな人ができたらと願う。
何せ顔はいいのだから、あと頭がそこそこ良くなって空気が読めるようになったらモテるだろう。
半年の間に成績を上げて人の気持ちをわかるようにしなくてはと安藤は意気込んでいた。
「でもそんなことしたら、ますます森川の奴安藤にぞっこんになるんじゃね?」
ってかぞっこんていつの時代の言葉だよと佐伯は自分の言葉に突っ込みを入れて笑い出す。
「栞ー!!俺思いついたんだけどさ」
自分の席に戻ったはずの森川君がまたやってきた。
「俺、栞のこと何も知らんの。だからあれやろう」
「あれってなんだよ?」
佐伯が聞くと森川君は「じゃーん」と言いながら見たことのあるギンガムチェックのノートを出した。
「げ」
「何ていうんだっけ?あ、交換日記??」
照れたようにはにかみながら森川君が言う。顔だけなら本当イケメンなのに、やっぱり残念だ。
「なんで携帯があるこのご時世に交換日記やるんだよ!馬鹿じゃねぇの!!」
佐伯がこめかみに青筋を浮かべつつキレた。
「だってー、栞って地味だから携帯とか使いこなせなさそうじゃん。交換日記って栞のイメージに合ってるし」
ブチブチと隣の佐伯から聞こえた気がした。怒りで血管切れちゃった……?
「いいよ、佐伯。怒んなくて。もう慣れてる」
地味とか言われるのも地味だから携帯電話使いこなせないって言われるのも。
周りに毒されすぎて、それくらいじゃもう傷つかないよ。
「いいよ、やろうか。ははっ」
ノートを受け取りつつ乾いた笑いが出た。おかしくないのに笑いが止まらない。
佐伯は怒りが収まらなかったみたいで森川君を殴っていた。
こうして今度は森川君と交換日記が始まりました……。
ああもう本当はやく春になってほしい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
一応これで完結です。
あとはおまけや裏話など不定期に載せていきたいとおもいます。




