15.安藤、付き纏われる
昼休みになり、佐伯がコンビニの袋を持ってやってきた。
佐伯は弁当よりパンのほうが多い。
安藤は弁当派だ。パンだとお腹がすぐに空いてしまう気がするのだ。
「安藤、あのさー」
「聞きたくない」
「何だ、わかってんのか」
佐伯のにやにやしたいのにあえて我慢している顔がムカつく。
言いたいことはわかるよ。
佐伯も同じことを思ってると思う。
だからあえてスルーの方向でいたい。
「森川があんたのことさっきからずっと見てるよ」
「聞きたくないって言ったじゃん!」
あーなんで言っちゃうかな、もう!
言われなければ自分の気のせいでスルーできたのに。
佐伯を見れば、こいつ、絶対面白がってんだけどってわかるくらい嫌味な笑顔で。
ちらりと森川君のほうを見れば、ばっちり目が合ってしまった。その瞬間照れたようにはにかむ。
あー。
これはもしかして……。
考えたくないけど、うん。考えなくていいや。
「まぁいいや。佐伯さっさと座りなよ」
安藤は佐伯に自分の前の席を勧めた。安藤の前の席の田中は別のクラスへ行っているためいない。佐伯が座るのと同時にお弁当の包みを開いた。今日はから揚げが入ってる。やった。
「何かさー水石が言ったっぽいよね」
佐伯はコンビニの袋を漁り、中から缶コーヒーを取り出してプルタブをあける。
パンを食べるときはブラックがいいという彼女独特の嗜好で今持っている缶コーヒーもブラックだ。
安藤からしてみればそれは有り得ない。苦いし、胃に悪そうだ。
「本当余計なことしてくれたよ。でもいいの。なかったことにするから」
見なかった。聞かなかった。気づかなかった。知らなかった。
今日の私は何にもなかった。いつもと同じように1日が終わりました。終わり。これで行こう。
「安藤さん」
うっ。
箸でつかんだから揚げがお弁当箱の中へ再び戻ってしまった。
落ち着いて。私は何も聞かなかった。聞いていない。聞いていない。
「いや、栞」
ブッと佐伯がコーヒーを口から噴きこぼした。
「……佐伯、汚い」
「おい、誰かこのバカ捨ててこいよ!食事中だぞ」
コーヒーを口から拭い、佐伯が暴言を吐く。
だが森川君はおかまいなしだ。
「日記書いてたの、栞でしょ?テスト範囲ものど飴も野菜ジュースも」
「………………人違いです」
「嘘だ、栞でしょ」
「おい、このバカに安藤は弁当食べたがってるって教えてやれよ、水石。まったく食事中に色ボケやがって。このクソが!!」
「俺にはもう面倒見きれないよ」
「あーどいつもこいつもクソばっかだな!」
面倒くさいと言わんばかりに、パンをかじる。
っていうか食事中にクソクソ言い過ぎだよ。
近くでご飯を食べていたクラスメイトもなんだか気まずそうだし。
そんな発言をしてもパンを食べられるあたり、佐伯の神経は図太い。
自分だってお弁当を食べたいのに目の前のイケメン(頭は残念。タイミングも残念)が邪魔をしてそれどころじゃない。
さらに付け加えれば、なぜか名前で呼ばれる始末。
朝から昼休みまでに勝手に親密にされても困る。
こっちは仲良くしたいなんて思っていない。(むしろ願い下げだ。)
「こんな気持ち初めてなんだ。栞、俺と結婚してください!」
「無理です。嫌です。ごめんなさい」
「容赦ねぇな」
佐伯の突っ込みは無視だ。
だって結婚って言ったよ。
彼女どころじゃないよ。結婚って何だよ!重いよ!!
私ら高校2年生だよ。こっちは一応できるけど森川君はまだ結婚できないじゃん。
そんなこと言ったら前向きに捉えてると勘違いされるから言わないけれど。
「じゃあ結婚を前提に付き合ってください」
「無理です。嫌です。ごめんなさい」
「じゃあ……」
「無理です。嫌です。ごめんなさい」
「まだ森川何も言ってねぇじゃん」
「とにかく無理です。嫌です」
「あれだけ俺のこと見てたのに?」
「あれは先輩に脅されて書いてたんです。別に森川君が好きだからとかいうわけじゃない」
「…………もしかしてツンデレ?」
「はぁ!?」
何だ、そのポジティブ思考!?
佐伯の顔なんて17の女子高生じゃないよ。おっさんがくしゃみ出そうで出ないときみたいなもどかしい表情を浮かべている。
佐伯はとうとう苛々のピークに達したのか、森川君の頭を殴った。グーで。
「今、飯の時間だって言ってんだろうが!お前は待てもできねぇのかよ」
犬扱いですか……?
「これ以上食事中に安藤に絡んだらお前のこと階段から突き落とすぞ」
「おい、森川。もうやめとけ。佐伯ならやりかねないぞ」
水石は嫌がる森川君を連れて戻っていく。
最初から連れて帰れるならそうしてよと安藤は心の底から思った。
いつもありがとうございます。




