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森川君観察日記  作者: 井上ぴこ
森川君本編
14/47

14.森川君、恋する

 11月に入ってから交換日記がなくなった。

 いつもノートの置き場所にしていたところにあった1枚のルーズリーフ。


 先輩の綺麗な文字で「もう交換日記は終わりにします。お幸せにね」と書かれていた。

 交換日記が終わるのはものすごく嬉しいけど、最後のお幸せにねの意味がわからない。

 もともとわけのわからない人だったから、そんなに深く考えなくていいだろう。と勝手に解釈することにした。


 これで好きでもなんでもないイケメン(頭は残念)のストーカー的行為から解放されるんだ。

 やばい。すごい嬉しいぞ。

 今日はお祝いにケーキでも買って帰ろう。

 いや佐伯にこの喜びの報告として放課後喫茶店で食べて帰るのでもいいな。


 安藤の心は晴れ晴れとしていた。



 *****

 「安藤さん、おはよう」

 教室に入ると真っ先に森川君にあいさつされた。

 「おはよ……う」

 ちょっと待って。

 その大事そうに抱えているノート、見覚えあるんですけど。

 思わず固まる。

 「安藤さん、このノート見覚えない?」

 「ない……かなぁ」

 とっさに嘘をついた。

 全然見覚えありますけど?

 っていうか最近まで使ってましたけど?

 それは私と先輩が交換日記として使っていたノートですよね?

 でもなんで森川君が持ってるの!?

 「そっかぁ」

 なぜか残念そうに森川君は呟いて、新しく教室に入ってきた子に声をかけにいった。

 「ウィース、はよー」

 「佐伯、お前は違うと思うけど、これ見覚えある?」

 次に声をかけたのは佐伯らしい。

 「なんだよ、森川。ノート大事そうに持ってそわそわして。トイレ行きたいんだったら早くいけよ。我慢はよくないぞ。あ、でもノートは置いてけよ。汚ねぇから」

 「!トイレ我慢してるわけじゃねぇし!!」

 「え、う○こを我慢してるんじゃないの?」

 「だから違うって言ってんだろ!もうお前は絶対違う。ない」

 「ないって何がだよ?」

 「お前は俺の未来の彼女じゃない」

 「は?何言ってんの??馬鹿の彼女なんてこっちから願い下げだし。本当に頭の中が残念で困るわー。……ってそのノートどしたの?」

 佐伯はそこでそのノートに気づく。

 さっきまではただのノートだと思っていたらしい。

 「え。やっぱり佐伯のノートなの?」

 「違うけど。あんたそれどうしたの?」

 「もらった」

 あの女!何してくれてんの!?

 お幸せにってこういうことか!

 森川君と佐伯のやりとりをこっそり聞いていた安藤は怒りでシャーペンを持った手に力が入る。

 「これさ、俺のことよく見てくれてんの。まさに俺の理想。このクラスに俺のまだ見ぬ彼女がいるんだ」

 ちょい待ち!

 何か彼女とか言ってるんですけど。

 ばれたらもうこれは彼女というポジションに自動的に収まる感じですか。

 こっちは別に好きじゃないんですけど。

 「あんた、本当に残念だね」

 白けた目で佐伯は森川君を見る。

 「なんでだよー」

 「まぁいいや。そのノート私のじゃないし。せいぜい彼女探し頑張れば?」

 佐伯は森川君からさっさと離れ、自分の席に着いた。そしてすぐ携帯をいじりだす。

 佐伯が携帯をいじり終わるのと同時に安藤の携帯にメールがきたことを知らせるバイブが鳴る。



 From:佐伯 六花


 何でバカがノート持ってんの?



 私が知りたいよ。


 机に突っ伏して授業が始まるまで寝たフリすることにした。


 *****

 「あーそういうことね」

 1時間目の授業後の休み時間に佐伯にたぶんこうじゃないかという事情を話した。

 「超迷惑なことしてくれたよ、あの人」

 最初に観察しろって言って、勝手に勘違いしてノートとか渡しやがって。

 あんな奴、受験落ちろ!浪人してしまえ。

 「あいつかなりマジだよ。安藤が書いてたってバレたらどうすんの?見てるこっちは面白いけどさ」

 「佐伯ー笑い事じゃないから」

 「でもさー、さっきあの後聞いてみたんだけどさ、誰がそれ書いてたと思うのって」

 「うん」

 そこに私の名前が出てこないなら安心していいよね。

 日記には安藤の文字も栞の文字も書いていないし。

 「あいつ、笹島さんか三原さんか安藤がいいって言ってたよ」

 「!!」

 な ん で す と ! ?

 「ちょっと!なんでそこに私の名前が出るのさ」

 笹島さんも三原さんも可愛いからわかる。

 その2人となんで私が出てくる!?

 「何か、安藤のこと好みらしいよ。出しゃばらなくておとなしそうだからって。地味顔が好きだって言ってたぞ。あいつ本当失礼な奴だよな」

 佐伯にだけは森川君も言ってほしくないと思うよとは言えなかった。

 それ以上にショックの方が大きかったからだ。

 これでノートを書いていたのが私とバレたら……。

 何だか気持ち悪くなってきた。吐きそうだ。

 「帰りたい」

 まだ1時間目が終わったばかりだというのに安藤の心は折れそうになっていた。


読んでいただきありがとうございます。

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