13.先輩、暴走する
あくる日の放課後、真理はサッカー部の練習が終わった森川君に声をかけた。
約1年近く見続けてきて初めてのことだ。
時刻は19時過ぎ。
陽はとっくに落ちている。
「森川君、ちょっとだけ話があるの。今いいかしら?」
森川君はタオルで汗を拭きながら真理を見て「いいですよ」と人懐っこい笑顔で答えた。
その笑顔が真理は好きだった。自分のことなんかよく知らないはずなのに笑顔を向けてくれたことが嬉しい。
肌寒い季節になってきた。もう11月だ。汗をかかせたまま着替えをさせずに話をしたらまた風邪がぶりかえすかもしれない。
熱なんかでたら大好きなサッカーがしばらくできなくなる。
安藤さんならきっと着替えてからでいいよというだろう。汗を十分拭いて体を冷やさないようにと思うに違いない。
「着替えてからで大丈夫だから」
そう思ったら不思議と自分も同じことを言っていた。
着替え終わった森川君が部室から出てきた。
真理はそれに気づいて「じゃあこっちで」と昇降口のほうへ進む。
昇降口は文化部や受験勉強をしている3年生が残っているため、まだ明かりがついている。
ただ、下校のピーク時間はすでに過ぎているため、人はいなかった。
「何すか?話って」
さっきまでの笑顔とは違い、困惑した顔。
森川君はうすうす感づいているのかもしれない。
知らない女子に話があるって言われたら考えられるのはただ1つだものね。
クスリと小さな笑みがこぼれた。
「私ね、森川君が好きだったの」
「はぁ」
「でも付き合ってほしいわけじゃないから」
森川君は顔に?マークが浮かんでいる。
安藤さんの日記には森川君はちょっと頭が残念って書いてあったから意味がわかっていないのかも。
「最近、英語のテスト範囲を教えてもらって赤点免れたりのどが痛くてのど飴もらったりしなかった?」
森川君の顔が驚愕に変わる。
「なんで知ってんすか?……まさか、M.Tって」
「M.Tは私だけど、それをやってたのは私じゃないわ」
「え?」
一気に力の抜けた顔。ごめんなさいね、たぶん、いえ間違いなく話がわかってないのに話を進めちゃって。
「これを読んでほしいの」
森川君に安藤さんと書いていた交換日記を差し出した。
「森川君のことが知りたくて、あなたと同じクラスの子に観察してもらってたの。テスト範囲もの ど飴もイソジンもみんな彼女がしてくれたのよ。これを読んだらあなたも彼女の気持ちがわかると思うから」
森川君に日記を渡したら私の役目は終わり。
意味が分かっていないかわいそうな森川君を置いて、真理は帰路についた。
「さ、これからは受験に専念しなくっちゃ」
いつもありがとうございます。




