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神とアンドロイドの春  作者: 大葉真琴
二話 ~天使~
9/14

天音

 天音が樹の下で回復しているあいだ、わたしと琴音にはする事がなかったので、学校に登校することにした。今日は土曜日なので午後には戻ってこられる、その頃には天音が何か思い出してくれているだろう。

 学校ではみんな綾瀬加奈子のことをすっかり忘れ、紀子の横に開いた席を不思議そう見ていた。

わたしは昨日の疲れが取れておらず、気怠(けだる)い時間を過ごした。これならわたしも樹下で休んでいれば良かったかな。わたしが気怠さから覚めたのは二限目の地理の時間だった。

メカルト図法で描かれた世界地図を見たときだ。何かがわたしの中で形になろうとしていた。

この地図に何があるのだ?もどかしさでわたしは身もだえした。

三限目に入っても地図はわたしの頭を離れず、今度は悶々(もんもん)とした時間を過ごすことになった。結局答えは出ずこの日の学校は終わった。

もっと頭がスッキリしていれば、わたしは杖を使うのも忘れ、迎えの車に急いだ。琴音が慌てて追いかけてくる。

「静音どうしたのよ」

「わからない、わからないけど、何かを見落としているの」

「大事なことなの」

「ええ、多分」

その後わたしはロフトまで無言を通した。樹の元に行くと、樹により掛かり座っている、天音の横に腰を下ろした。

「お帰りなさい、静音さん」

「ゴメン、話しかけないで」

わたしは少しでも頭をハッキリさせようと目を閉じて樹の生気を体に取り込んだ。

「何かあったんですか?」天音は追いかけて来た琴音に聞いているようだ。

「それが、学校の途中からずっとこんな感じで、なんか考え事をしているみたいなんです」

「そうなんですか・・・」

「天音さんはなにか思い出せました?」

「少しだけ、五つ目の天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)を止めるのがわたしの役目だったんです」

「五つ目って、他の場所でも天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)が起こっているんですか?」

「はい、でも五つ目は特別でそれが起こると、カマエルの裁き起こるんです」

「カマエルの裁きって昨日のミサイル?」

「違います、昨日のミサイルは天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)で、そのあとカマエルの裁きが起こるんです」

五つの天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)・・・天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)とカマエルの裁きは別物・・・世界地図・・・。カムチャッカ半島、アラスカ、ハワイ、ミクロネシア、そして日本。加奈子はなんて言ったんだ。

《さあ、カマエルの生け贄になりなさい》

しまった、わたしは思わず立ち上がっていた。

「付いてきて、早く二人ともよ」

 わたしは居間に駆け込んだ。

「マリー、モニターに世界地図を出して、メカルト図法の」

『はい、静音様』

 何事かわからぬまま付いてきた二人はわたしの横に並んだ。

 ホログラムモニターに地図が表示された。

「太平洋を中心に拡大して、昨日災害のあった場所、カムチャッカ半島、アラスカ、ハワイ、ミクロネシア、日本の正確な位置をマーキングして」

『はい』

その位置はわたしの予想通りだった・・・。

「静音これがどうかしたの」

「日本とアラスカ、アラスカとミクロネシア、ミクロネシアとカムチャッカ、カムチャッカとハワイ、ハワイと日本を線で結んで」

 地図に浮かび上がったのは巨大な五芒星、西洋ではペンタグラムと呼ばれる星図形だった。

「静音様これは」

「火山(火)、津波(水)、竜巻(風)、地震(地)・・・そしてわたしが(エーテル)・・・天音これが何か分かる?」

「ペンタグラムと五大精霊(エレメンタル)・・・天使カマエルの召還魔方陣・・・」

「やっぱり」

「こんな巨大な魔方陣が完成したら、何が起こるんです?」

「マリー、資源小惑星のガスが噴出した時刻は昨日の何時頃?」

『十二時四十六分五十八秒です』

「それって、天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)が起こった時刻と同じじゃ」

「小惑星の軌道はどうなっている?」

『地球の周回軌道に接近しています。いま軌道を修正する作業が行われていますが、ガスによる加速が早すぎて元の軌道に戻すことは不可能なようです。地球の重力によるスイングバイが検討されています』

 スイングバイとは重力ターンともよばれる、惑星の重力を利用して軌道を変更する方法だ。

「じゃあ、小惑星の落下を狙っているんですか、でも海に落ちてもたいした被害にはならないんじゃ?」

「逆よ、地上に落ちれば、局地的な被害に(とど)まるけれど、海に落ちれば地球規模の大災害になる」

「どういうことですか?」

「マリー、小惑星が魔方陣の中心に落ちた場合の被害規模を算出して」

『小惑星の質量と現在の加速から、太平洋上に落ちた場合、津波による被害で太平洋に面する主要都市は全て水没します。さらに飛散する海水により三十年間地球は厚い雲に覆われ氷河期に入ります、また塩分を含む雨により生態系も破壊されます。十年以内に人類の99%が死滅します』

「廃絶派はカマエルの裁きにより、人類絶滅を画策しています。廃絶派は最近になって人類の存在そのものが戒律に反していると考えるようになりました」

「思い出したの天音?」

「はい、わたしは天使アリエル、廃絶派の天使ベリンダを追って地上に降りました。カマエルの裁きを止めるため、静音さんを守るのがわたしの役目です」

「ベリンダって綾瀬加奈子のこと?」

「はい、そうです」

「わたしが生きているってことは、カマエルの裁きは防げたと考えていいのかしら?」

「残念ですが、ベリンダの天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)はミサイルではなく、静音さん自身に向けて発動されました。天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)はまだ続いています」

「わたしが死ぬまで終わらないってこと?」

「またはベリンダが消滅するまでです・・・」

「すると加奈子、ベリンダを見付けて倒す必要があるわけね」

「はい、ですがそれは私の役目です、静音さんはこのロフトに居て下さい」

「わたしにこの状況を黙って見ていろって云うの」

「ここには、生命の樹があります、天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)の驚異から守られています」

「今日、学校では何もなかったわよ」

「手を見せて下さい」

「え?」

 わたしの広げた掌には、茶色く変色した世界樹の葉があった。それは見る間に、ひび割れ、粉々に砕けた。

「天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)は続いています。生命の樹の助けがなければ、今日もまた、ミサイルが落ちたでしょう」

今日、わたしはなにも気が付かず、半日を過ごしていたの・・・。

「分かって頂けたなら、わたしがベリンダを消滅させるまでここに居て下さい」

「じゃあ、代わりに私が付き合います」琴音がいった。

「あなたでは天使と戦えない、足手まといです」

 こいつ、記憶が戻った途端性格が悪くなってないか?

「そんな云い方無いでしょうッ」わたしはかっとなって口走った。

「すいません、でも事実です。エネルギー体にもどった天使は光速で移動します。天使と戦えるのは天使だけです」

「あなただって、実体化しているのがやっとじゃないの、どうやって戦うの」

「もう大分回復しています、夕方まで樹の下で休めば戦えます」

「それじゃあ勝手にしなさい、わたしも勝手にさせて貰うから」

「静音さん、あなたが死ねば、世界は破滅するんですよ、軽はずみな行動はしないで下さい」

「あんたら天使のバカ騒ぎに、勝手に巻き込んでおいて何を云っているのよ」

わたしは居間を後にして、自室に戻った。本当は樹の下で休みたかったのだが、天音、アリエルに会いたくなかった。

部屋に入るとベッドに飛びこみ、不貞寝を決め込もうとした。しかし気怠(けだる)さはどこかに消え、怒りが取って代わっていた。わたしは、仰向けになって天上を睨んでいた。

ノックする音がして、返事を待たずに琴音が入ってきた。琴音は何も云わずにベッドの横まで来ると、わたしの横に寝転んだ。わたしを押しのけて場所を作る。わたしのベッドはダブルサイズなので二人で寝ても狭くはなかった。

その後琴音は何も云わずにわたしと同じように天上を見ている。五分もたった頃、琴音がポツンと云った。

「静音って、結構短気だよね・・・」

 ぐっ!

「でも、怒っている時って、誰かにっていうより、自分に腹を立てているんじゃないかと思うんだよね」

「・・・」

「何にも出来ないと思うと腹が立つんでしょう?」

「・・・そうだけど」

「前に進んでないと不安になって落ち着かない・・・」

「勝手に分析しないで・・・」

 そのあと、また沈黙が続いた・・・。

「吐き出しちゃえば?」

 わたしは大きく息を吸い込んだ、

「アリエルのバカ、自分だって死にかけたのに、何が一人で大丈夫よッ! 本当はフラフラなくせしてッ! わたしにじっとしてろって! 誰に云っているのよ、わたしは志奈津静音よ、そんな柔にできてないっ! ナメんじゃないわよ、天使だろうと悪魔だろうと、神だろうとギタギタにしてやるわよっ! 世界もアリエルもわたしが守るッ!!!」

「スッキリした?」

「ちょっとね・・・」

「天音さん、責任感が強いところ静音に似ているんだと思う、静音のこと守れないと思っているから、ああ云ったんじゃないかな・・・」

「だから腹が立つのよ、天音のバカッ!」

「本当にわたし達には何にも手伝えないのかな・・・」

「・・・そんなことない・・・」

 わたしの頭の中では考えがグルグルと回り始めていた。

「マリー過去に守神子(まもりみこ)が天使と戦った記録はない?」

『静奈様が、過去に一度戦ったことがあります。その時も廃絶派の天使が相手でした』

「叔母様が?」

『はい、百年ほど前です』

「どうやって戦ったの?」

『申しわけありません、詳細はデータ化されていません、直接お聞きになってはいかがでしょう、高天原(たかまがはら)にお繋ぎしますか?』

「ええ、お願い」

わたしはベッドから起き上がった。琴音も横に座る。

ベッドの向かいのホログラムモニターに叔母様が映った、背後には中国の宮廷を思わせる優雅な部屋があった。高天原(たかまがはら)も便利になったものだ。

「こんにちは叔母様」

「こんにちは」

「初めまして、静奈さん」

「始めまして、あなたが琴音ね、ホント音葉にソックリね、顔が見られて嬉しいわ」

「わたしもです、静奈さん」

「あなたには叔母様って呼んで欲しいわ」

「はい、叔母様」

 叔母様も琴音を気に入ってくれたようだ。

「静音はわがままで、頑固だけどいいところも沢山あるから、仲良くしてあげてね」

叔母様酷(ひど)いわ、そんな」

 叔母様と琴音はクスクスと笑っている。

「それで叔母様、天使について聞きたいことがあるんだけど」

「大体はマリーに聞いているけど、廃絶派が暴れているみたいね」

「ええ、それで天使と戦う方法を教えて欲しいの、叔母様が戦った経験があると聞いて」

「天使は敵に回せばやっかいな相手よ、エネルギー体になれば、まず掴まえることは不可能だし、それにあなた天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)を掛けられているんでしょう?」

「ええ、でもじっとしてはいられない、天使を倒す方法を教えて叔母様」

「天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)を甘く見てはいけないわ、樹の保護から外れればあなたは確実に命を落とすわよ」

「それでも、抜け道があるはずよ」

「相変わらず、言い出したら聞かないのね、天使とは相談したの、来ているんでしょう」

「ええ、アリエルて天使が来ているんだけど、自分が何とかするからわたしにはじっとしてろって云うんです」

「あら、アリエルが来ているの、懐かしいわ」

「叔母様、アリエルを知っているんですか?」

「ええ、わたしが廃絶派の天使と戦った時には、アリエルとチームを組んで戦ったのよ」

「叔母様がアリエルと!」

「あの時は、倒したはいいけど二人ともボロボロになっちゃってね。わたしは死にかけるし、アリエルは消え掛かるしでね」

「どうやって戦ったの、その時?」

「一人では無理よ、天使の協力がないと、天使がエネルギー体になるのを止められるのは天使だけだから」

「アリエルがエネルギー体になるのを止められるのなら、わたし達も協力して天使を倒せるのね」

「倒せるけどその後が問題ね。天使は死と共に爆発を起こすの、天使達はそれを死の抱擁(デドリーエンブレス)と呼んでいるわ。前の戦いではその爆発から、わたしを守るためにアリエルは殆どのエネルギーを使い果たしてしまったの、アリエルだけならエネルギー体になってやり過ごせたんだろうけど」

「じゃあ、本当に足手まといになるだけなのね」

「そうとも云えないわ、天使同士で直接戦えば、エネルギーのぶつけ合いになる、よほど、力の差がなければ、倒した方の天使も一緒に消えてしまう。だから百年前わたし達は協力して戦ったのよ」

「分からないわ、叔母様。アリエルは天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)からわたしを助けた為にエネルギー体になれないほど弱っているの。いまアリエル一人で戦えば消えてしまうのは明らかだと思うの」

「・・・それほど弱っているのなら、確かに自殺行為ね、アリエルがそう云ったなら、きっとあなた達のことを考えてだと思うわ、倒した後の爆発からあなた達を守る自信が無いのよ」

「・・・アリエルは自分が犠牲になって、わたしを守るつもりなの・・・」

「わたしの知っているアリエルなら、そうだと思うわ。アリエルは責任感が強いのよ、自分以外のモノが傷つくのをとても嫌うの」

だからって、だからって、何の相談もなく、何か方法があるかもしれないじゃない!

それを最初から一人で決め込んでッ!

命を捨てることを前提に考えるなんて、自己犠牲も度が過ぎるわよッ!

そこまで考えて、わたしは立ち上がっていた、廊下を走り、向かった先は中庭だった。

後ろで、琴音がなにか叫んでいたが知ったことか。

天音は突然あらわれた、わたしに驚いていた。わたしは天音の襟首をつかみと自分に引き寄せた。

「天音あんた何で勝手に死のうとしているのよ!助けられるわたしに断りもなくそんなこと許されると思っているの?」

「静音さん、くるしい」

「うるさい、何一人で決め込んでいるのよ、後に残される人間の身になってみなさい、勝手に死ぬなんて絶対許さないから、そんなこと考えたら死ぬような目に合わせるからそう思いなさい」

「息が」

「わかったの?」

「ちょっとまって・・・」

「返事は、『はい』よ」

「はい・・・」

興奮状態のわたしはそのまま天音の顔を睨み付けていた。

 わたしの腕を琴音が押さえた。

「静音、本当に天音さん死んじゃいますよ」

 天音の顔は紫色になっていたわたしは慌てて手を離した。

しばらく、天音のむせび声が中庭に響いた。

「ごめん、天音やりすぎた」

「・・・」

「ごめねさい、私からも謝るわ、静音はいつもやり過ぎるのよ、でも分かって、天音さんが静音を助けたようにわたし達も力になりたいの」

「でも、無理よ今の私の力では、死の抱擁(デドリーエンブレス)から二人を守る力はありません」

「だから、決めつけるなって云っているでしょうッ」

「おちついて静音、あなただって平気で自分の命投げ出すんだから人のこと云えないでしょう」

「それと、これとは別ッ」

「もう、ムチャクチャなんだから、天音さんへ静奈さんから伝言があります」

「静奈から」

「はい、『静音はわたしとソックリで頑固だから、わたしと同じように頼りにしていいって』そう伝えるように云われました」

 叔母様これって(けな)しているの、褒めているの?

 天音の顔は驚きから、優しい顔になり、微笑に変わった。

「気づくべきだったわ、あなた静奈と血縁があるのね」

「わたしの叔母よ、正確には大大叔母様だけど、わたしの親代わりで、先生でもある」

「そう、そうなの・・・」

「もう一つ伝言が有るんです『Two heads are better than one』三人でよく考えなさいって」

「本当に何とかなると思う静音さん?」天音が訪ねた。

「三人で考えましょう。それから、静音でいいから」


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