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神とアンドロイドの春  作者: 大葉真琴
二話 ~天使~
7/14

天使

  わたしの怪我は既に全快していたが、学校を長期間休んだ手前、杖を付いて登校することにした。おかげで堂々と車での送り迎えの理由が出来た。

 わたし達二人がそろって登校すると、教室はざわめきに包まれた。琴音のことを双子の妹として紹介した時のわたしの心は天にも昇るといった感じだった。

ふふ、最高!

わたしが席に向かうと、わたしの席、紀子の隣には別の女生徒が座り、替わりに後ろの席が二つ並んで空いていた。

女生徒顔には見覚えがなかった、こんな子いたっけ?

わたしは紀子に話しかけた。

「席替わってくれたの?」

「何を言っているの、あなたの席はわたしの後ろでしょう?」

え、それはない・・・。

わたしは紀子の横に座る生徒に目を向けた。眼鏡を掛けたおとなしそうな子だが、やはり見覚えがない。

「ごめんなさい、あなた名前は何だったかしら」わたしは女生徒に聞いた。

「私、綾瀬加奈子です」

「そっか、加奈子初日休んでいたんだっけ、忘れてた」紀子が補足した。

「そっか、じゃあ、始めましたね、綾瀬さんよろしく」

「はい、よろしくお願いします」

わたしは納得のいかないながらも席についた、琴音は隣の席に座った。

「琴音さんよろしく、佐々木紀子よ」

「よろしくお願いします」

「ほんとによく似ているね、注意しないと間違えそう」

「一卵性だからね」

「しかし、二人とも綺麗だよね」

「そんなことないよ」もっとほめて

「男子なんかあなたが怪我して休んで、がっかりしていたんだから、でも二人そろって威力倍増ね」

「やーだ」

この後、担任が入ってきて会話は中断された。

琴音は前に出て改めて挨拶をした。実直で飾らない琴音のキャラはクラスに受け入れられたようだ。

 わたしは二週間近く休んだことになるが、わたしの学力は既に大検レベルを超えていたので難なく授業についていくことが出来た。琴音は当然ことながら、余裕であった。もともと、連合警察が琴音を購入したのは、高校への潜入調査の為で琴音は学園生活に慣れていた。わたしの用意したリストは殆ど無用なモノだったのだ。

 体育の授業はわたしは見学だったが、琴音は大活躍した。もちろん琴音にフルパワーで動かれては大変なことになるので、わたしはマリーにリミッタープログラムを作らせて、学校にいる間はそれを実行しておくよう琴音には言ってある。

 昼は既に出来ていた紀子のグループに加わって、マリコの作ってくれたお弁当を食べた。

 話題は当然わたしの怪我から、琴音の留学に移り、アイドルドラマの話しに落ち着いた。琴音は留学の経験談をまことしやかに喋り、アイドルの話題も嬉々として語り、琴音なりに学生生活を楽しんでいるようだ。

そう言えば、綾瀬さんの姿が見えない。

「加奈子ね、いつも昼休みになると居なくなるわね」

「そうなんだ」

その時、地震がわたしを襲った。わたしは箸を落とし必死に机にしがみついた。

琴音を含め、周りのみんなは不思議な顔でわたしを見ていた。

今の空間の揺れは、現世のモノではない、何かが大きな力が近くで弾けたのだ。

「静音、大丈夫?」紀子が心配そうにわたしに聞いた。

「大丈夫、ちょっと貧血かな、ずっと病院で寝ていたから。ちょっと保健室で休んで来る」

 わたしは弁当箱を素早く仕舞うと、琴音を連れて教室を出た。

「どうしたの、静音」

「何かがこの学校で起こっている」

わたしは頭を指さし、インプラント端末への会話に切り替えた。

『どういうこと』

『さっき、同期が乱れたの』

『同期?』

『この世界と神世界の同期が乱れたの。それは大きな力が近くで働いたことを意味しているの』

再び、振動が起こった。

『あ、今なにか・・・』琴音が言った。

『今の気が付いたの?』

 琴音は説明の代わりに、右の(てのひら)を見せた。天逆鉾(あまのさかほこ)(つか)が浮き出ていた。琴音は天逆鉾(あまのさかほこ)を通じて、神世界と繋がっているようだ。

『急がないとやばそうね』

『どこに向かっているの』

『屋上、たぶん其処(そこ)で起こっている』

わたし達は階段を駆け上り屋上に出た。扉を向けると其処(そこ)にわたしの予想通り綾瀬加奈子がいた。

いや予想以上だ、加奈子は背に白い大きな翼をはやし宙に浮いていた。その右手には長剣が握られ、左手首の切り傷からは血が滴っていた。

「思ったより早かったですね」加奈子は音楽を奏でるような不思議な発音でそう言った。

「翼が、はえてるよ」

「天使だからね」

 そう間違えなく加奈子は天使だ。頭上には光の輪まであった。

「ここで何をしているの?」

「ふふ、あなたを待っていたんですよ、丁度準備が出来たところです」

加奈子は笑顔でそう言った。

左手を振ると、血が床に飛び散った。今までと較べようもない大きな揺れがわたしを襲った。屋上の床一面に描かれた魔方陣から光が迸った。

「あなたなにをしたの」

魔方陣は消え、加奈子指は天を指していた。

「さあ、カマエルの生け贄になりなさい」

 わたしは八束の(やつかのつるぎ)を実体化させ加奈子に斬りかかった。

加奈子はわたしの一撃を剣で受け流した。

『静音様、緊急事態です』マリーの声がわたしの中で叫んだ。

「こっちもよ」

『高々度無人爆撃機から神代高校に向かってミサイルか発射されました』

わたしの手が鈍った一瞬の隙を突いて加奈子は空に飛び上がった。目を細めわたしを笑っている。

「じゃあ、ガンバってね」

羽が宙を舞い、加奈子の姿は消え失せた。クソッ。

「静音どうしよう」琴音がどうしていいか分からないと言った顔でわたしを見ていた。

「マリー詳細を教えて」

『テスト中のミスで高度150kmから|非核弾頭ミサイル(CSM)が発射、神代高校を目標に加速を続けています』

「ミスじゃないようね、琴音さっきの映像を送れる」

「はい、送信します」

『これは、天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)の魔方陣です、それではこのミサイルは』

「天使がここを狙って落としたのよ」

 天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)は天使による地上浄化だ。本来は流星などの自然のモノを使うのだが、これは現代風にアレンジされているのだろう。天使の失墜(エンジェル・ダウンフォール)は人を殺すために使うものではない。疫病の蔓延や自然災害からから人を救うために使うものだ。

「そんな、魔法でミサイルなんて、それにどうしてここに?」

「分からないけど、わたしを狙っているみたいね」

『直ぐにお逃げ下さい、お二人なら安全圏に逃げられます』

「二人なら?」

『ミサイルは後5分で着弾します、弾頭は|超高速滑空体(HGV)、消失範囲約は100m、少なくても半径1kmの建物が倒壊します』

|超高速滑空体(HGV)はマッハ20で飛行するタングステン銅の固まりだ。炸薬こそないが、そのスピードと質量が強力な破壊力を生む。

「それって、学校の生徒は助からないってこと?」

『残念ですが・・・』

「そんな、ダメよ・・・」

「そうですダメですよ」

「対策を検討して、マリー」

『・・・現状の装備で有効な手段は、八束の(やつかのつるぎ)よる、迎撃ですが・・・』

「出来るの」

『|超高速滑空体(HGV)を消失させるだけのエネルギーを発生させた場合、静音様も消失します!』

「静音さんが消失ッ」

「・・・」

 それはそうだ、超高速滑空体(HGV)を消失させるには少なくても同じ運動量(エネルギー)をぶつける必要がある。わたしはその中心にいることになるのだ。幾らわたしでも体が保つわけはないのだ。

 こういう時どうするかは、守神子(まもりみこ)の任に付く時に決めていた。ああ、これから7年、大学卒業まで楽しみたいこと一杯あったのに。しかたないか。

「やるわ・・・」口にしたときわたしの気持ちは不思議と穏やかだった。

「ダメですよ、もっと別の方法があるはずです」

『神世庁はそのプランを否決しました。天使の狙いは静音様にあります、守神子(まもりみこ)を失うことは許可されません』

「どうやって止めるつもり」

『八束の(やつかのつるぎ)を封印します』

わたしの手から八束の(やつかのつるぎ)が消えた。

「こんなことしても、わたしはここから動かないわよ。学校の生徒だけじゃない、こんな都心に落ちれば、十万人規模の被害が出るのよ」

『静音、わがままはやめて』インプラントから響いたのはマリーとは違う、落ち着いた女性の声だ。

奈津美(なつみ)おばさん」

『長官と呼びなさい』

「はい長官」

霧塚奈津美(なつみ)神世庁長官、陰陽師の家系である霧塚家の家長であり、叔母様の従者だった人だ。大叔父が霧塚家に養子に入っているため、母の従姉妹に当たる。

わたしにとっては姉弟子であり、数少ない頭の上がらない人だ。

『早く待避して、あなたが死ねば誰が天使と戦うの』

「なにか手段があるはずよ」

『あなたの決意は守神子(まもりみこ)としては模範的だけれど今はその時ではないわ・・・・音葉と静奈叔母様のことを考えれば、捨てられる命ではないハズよ』

くっ、奈津美(なつみ)叔母さんはわたしの急所を突いた。今のわたしは二人の愛と犠牲の上にあるのだ。

「あの、私の体を使って下さい、この前みたいに私に乗り移って、そうしたら静音さんは死なずに済みます」

「琴音・・・」

 わたしは琴音の頬を思いっきり引っ張った。

「にゃにするんです・・」

「敬語になっているわよ」

「しょんなこと言っている場合じゃ」

「バカ、それじゃ、あなたが死んでしまうわ」

「いいです、わたし、あっ」

わたしは琴音を抱きしめた。

「あなたはわたしの妹なのよ、わたしがそんなこと、させる分けないでしょう。でもそのアイデアは有りかな」

「えっ」

「マリー、わたしの肉体が消失しても、わたしの精神を琴音の中に残すことで守神子(まもりみこ)として任務が可能かを検討して」

『静音ッなにを』

「マリーッ!」

『・・・任務は可能と判断します・・・』

「許可を長官ッ」

わたしは長官という言葉にアクセントを置いた。奈津美(なつみ)叔母さんに泣き落としは効かない、ましてや奈津美叔母さんは小さい頃から私を可愛がってくれていたのだ。情に訴えればわたしへの愛情が勝だろう。だから長官としての判断を求めた。

『・・・神世庁は守神子(まもりみこ)の提案を承認します』その声はやっと絞り出しているようだった。ゴメンなさい、奈津美(なつみ)叔母さん。

わたしは再び、八束の(やつかのつるぎ)を出現させた。

「静音、考え直してお願いッ!」琴音がわたしの袖を掴んで云った。

「琴音、わたしの姿を記憶しておいてね」

「静音、ダメーッ!」

わたしは足元に力をため、校舎を蹴って宙を飛んだ。翼は使わず脚から力を放出しスピードを上げる事に全ての力を注ぎ込んだ。空を飛ぶとき翼を使うのは体力を温存するためだ、今回はこの後などない。

八束の(やつかのつるぎ)を頭上にかざし、超高速滑空体(HGV)に一直線に向かう。上空3000m以上で迎撃する必要がある。八束の(やつかのつるぎ)を傘にする事でわたしのスピードは音速を超えた。

「マリー、軌道は大丈夫?」

『そのままの軌道であと15秒後に接触します』

見えた、あまりのスピードに大気が励起され光を放っている。八束の(やつかのつるぎ)の出力を上げバースト状態にした、八束の(やつかのつるぎ)は今や巨大な光の剣となっていた。その時わたしに向かってくるもう一つの光が見えた。

なに?

 考える暇もなく三つの光は重なりそして爆発した。

 ・・・。

わたしが目を開けると、そこにはお母様がいた。それではわたしは失敗したのか?

「静音しっかり」

「琴音・・・わたしの体・・・どうして?」

「憶えてないんですか?」

「なにを?」

「爆発があった後、光がものすごいスピードで飛んで来て、そしたらそれが静音で、背中に翼が生えていて」

翼?・・・

そういえば背中に何かある・・・。

わたしの背中には真っ白な天使の翼が生えていた。

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