反撃
4
データ化された憑神、それはわたしにとっても突拍子もない話だった。どうやって封印すればいいのだ。マリーが対策を検討するあいだ、わたしは自分に出来ることをした。
PAREXがフリーズしたまま動けない|武装警官(AP)のPAREXの電源を落とした。自由になった武装警官(AP)に他の隊員を動けるようにしてやるように言う。
琴音に打たれた|武装警官(AP)は事切れていた。胸部にレールガンの直撃を食らったのだ、即死だっただろう。
現在起きている、サイバーテロによる被害は、首都圏に留まらず、日本中に広がっている。それが原因で起こる様々な事故による被害者はどれ程に上るのだろう。
しかもワームはいまだ拡大を続けている数時間後には全世界に広がるだろう。
「ありがとう、取り敢えず礼を言っておきます」藤田と名乗る|武装警官(AP)の指揮官はわたしにそう言った。
わたしは首を横に振った。
「巻き込んでしまったのは、こちらです申し訳ありません」
「なにが起こっているのか分かったら教えて欲しい」
わたしは連合警察のサーバーがハッキングされたことを説明した。今ネットに起きていることも、火之保倉神の件をだけを伏せて説明した。
「それで対策は?」
「今、わたしのエージェントが対策を検討しています、出来れば協力をお願いしたい」
「あなたの身元を明かして欲しい、あなたがハッカーではないと言う保証が欲しい」
「電子認証は今つかえません」
「それは分かっています、先ほどのあなたの行動を裏付ける保証が欲しい」
ここで神世庁などと言えば、良くて狂人か、悪ければ宗教的なテロリストだろう。
「ごめんなさい、ある特務機関のエージェントとしか言えません・・・」
ここで、マリーから通信が入った。わたしは、藤田に身振りで通信が入ったことをしめすと、マリーとの会話をした。マリーが説明した対策は又しても突拍子もないものだった。
「そんなことが可能なの?」
『幸いにして、それを可能とする装置がそこにはあります』
「そんな装備持っていないわよ」
『個体識別名、風祭琴音と呼ばれるテクノイドです』
「琴音ッ!・・・」
「どうしました?」わたしの奇声に驚いたのだろう、藤田が聞いてくる。
「どうやら、事態の解決には協力して貰う以外に道はなさそうです。マリー緊急コード105を実行して協力要請を」
『了解しました』
わたしは藤田に話しかけた。
「わたしの身元を保証してくれる連絡が入るはずです、それが来たら作戦を説明します」
言っている内に藤田へ通信が入ったようだ。藤田の目が驚きに見開かれる。
「了解しました、全面的に協力いたします」
通信を終えた藤田のわたしを見る目が変わっていた。
「あなたは何者なのです?まさか事務総長からの命令なんて」
ほう、それはわたしも少し驚いた。緊急コード105は国際連合政府への神世庁からの緊急協力要請だ。だが、それを受け取るのがトップである事務総長とはわたしも知らなかった。滅多に使わないように言われていた意味が良く分かった。
「わたしの身元は保証されたはずです。名前だけは明かしておきます志奈津静音、改めてよろしくお願いします」
「了解しました、事務総長からはあなたの指示に従うよう命令を受けました」
「ありがとう、じゃあこれを外して貰えるかしら」
「失礼しました」
手錠が外されると、わたしは藤田に手伝って貰って外れていた右肩を入れた。藤田は経験があるらしく、以外に痛みは少なかった。
「マリー、国際連合警察のサーバーの影響を受けないようにPAREXを再起動できる?」
『今バックアップチームが到着します、そうすれば可能です』
近くに止まった黒い偽装バンからおりてきたのは驚いたことにマリコだった。いつもとは違うスーツ姿で、金属製のアタッシュケースを掴んでいる。
アタッシュケースの中には、携帯端末が収まっていた。マリコは素早くケーブルで端末と藤田のPAREXを繋ぐと、いくつかのプログラムを走らせた。
『これで、国際連合警察のネットワークから切り離して、こちらでバックアップが出来ます』
「起動して」
『はい』
マリコが『Enter』キーを押すと藤田のPAREXが再起度する。
藤田は確認するように手足を動かしている。
「問題はない?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、悪いけれど琴音を回収してきて貰えるかしら、彼女が必要なの」
藤田はビルの上へと消えた、マリコは同様に別の|武装警官(AP)のPAREXを再起動していく。
バンからもう一体のマリコが降りてきて、わたしの肩の手当をしてくれた。なくしたヘッドギアの変わりも持って来てくれた。
佐久間と死傷した武装警官は国際連合警察が手配した救急車で運ばれた。
全てのPAREXの再起動とわたしの肩の治療が終わる頃、藤田が琴音を担いで戻ってきた。
マリコは琴音のコネクターとPAREXを端末に繋いだ、こちらは少し時間が掛かる。作戦に必要ないくつかの追加プログラムをインストールしているからだ。
非常停止ピンが戻されると、琴音が再起動され、目をさました。
本当にお母様に似ている、茶色掛かった、細い髪の毛もそのままだ。
「琴音、意識ははっきりしている?」
琴音はわたしに驚いて立ち上がり身構えた。
「いいんだ、風祭くん。我々は現在、志奈津さんの指揮下にある」
「自分に何が起こったか理解できている?」わたしは聞いた。
「はい、サーバーから強制的に肢体のコントロールを奪われました。なんだか・・・」
「なんだか?」
「・・・取り憑かれていた感じで」
「取り憑かれたって、おい」藤田が口を挟んだ。
「しっ、黙っていて。どんな感じだった」
「まるで炎のようなモノが私の中に入ってきて、私は抵抗できずに・・・」
「ありがとう、その感じを記憶しておいて後で必要になる」
わたしは周りに集まった|武装警官(AP)を見回すと、バイザーを付けて無線通信に切り替えた。
「マリー作戦を説明して」
今は全ての|武装警官(AP)がマリーに繋がっている。
『はい、大規模なサーバーテロを行っている対象は現在データセンターを占拠しています』
バイザーにデータセンターの見取り図が映る。
『対象はFブロックにいるものと思われます』
見取り図に入り口からFブロックまでの経路が表示される。
『ガードロボット、及び国際連合警察のテクノイドがハッカーによりコントロールを奪われています。データセンター内に進入するにはこれらを排除する必要があります』
「それをあなた達にお願いすることになるわ」
「数は分かりますか?」
『ガードロボットは十台、テクノイドは投入された|武装警官(AP)五小隊から、風祭琴音を除く最大四体と思われます』
「あっている?」
「はい、一小隊に一体テクノイドが含まれています」
「|武装警官(AP)の増援があった可能性は」
『現在の混乱を考えると可能性は低いと考えられます』
「ガードロボットの武装は?」
『法律で許される範囲でのスタンガンだけです』
それは、PAREXの前では武器とはならない。
「他に質問は?」
「ハッカーの拘束は?」
「ハッカーの拘束とハッキングAIの解体はわたしと琴音で行います」わたしが答えた。
「Fブロック内に入ったらあなた達は外のガードをお願い、AIの解体には多少の時間が必要になるわ」
わたしは周りを見回した。これ以上質問は無いようだ。
「それじゃ、いくわよ!」