消失
12
今日は六月末だと云うのに、コートが必要になるほど酷く冷え込んでいた。五月の中旬から、暖かくなるどころか、気温は下がり続け冬に戻っているようだ。
この異常気象は単なる自然現象ではなく、球技大会から始まった神世界の空間の揺れと関係しているようなのだが、神世庁からは何も云ってきてはいない。
球技大会以降、神世界の揺れは断続的に続いていた。天使達が魔法を使った時のような、局地的な揺れではなく。揺れの幅自体は小さいが、範囲は世界全体が揺れるような大きなモノだ。
マリーはこれを時震と呼んでいる。二つの大きな力が過去から押し寄せ、現在でぶつかっていると云うのだがその説明は良く理解できなかった。
だが、時震が起こす災いは、気温の降下以外にもわたし達の生活に影響を及ぼし始めたていた。
今朝、わたし達は寝坊し、迎えに来た石田の電話で起こされ、慌てて支度をすることになった。
いつもわたし達が快適な朝を迎えられるよう、気を配っているマリコが全ての家事をボイコットしたのだ。
数日前からマリーは何かに気を取れているようで、マリコによる家事が疎かになり始めていた。食事のメニューや洗濯などが必要最小限に押さえられ、後回しに出来ることは、すべからく後送りにされた。
マリーに訪ねるとなにやら重要な計算をしているらしく、それは神世庁の全ての業務に優先されるべき事らしい。
雑務を行う余力は無くなり削れるモノは全て削っているらしい。そして今日我が家の家事に割り当てる余力がまったく無くなったようだ。
事前に予告くらいはして欲しかったが、それほど差し迫っているらしい。
移動中の車の中で調べると、マリーは自分の計算能力だけでは足りずに使える端末全てを計算に割り当てているらしい。マリコのプロセッサーも、マリーの計算に使われていた。しかもそれだけでは足りずに、公官庁、大学、民間を問わず、レンタル可能な全てのスーパーコンピューターをシェアーし高額な時間料金を支払っていた。
何が起きているのか、この件に関して神世庁に問い合わせをしても、不明としか返答が帰ってこなかった。わたしのアクセス権は神世庁の長官に次ぐレベルであるから、何かを隠しているわけではなく、本当にマリーが何を行っているか分からないのだろう。
明日以降この状態が続くようなら、神世庁に直接乗り込もうとわたしは考えて居た。
昼食はマリコの弁当がないため、まずい学食で済ませた。問題は夕食だった、キッチンを前にわたし達は途方に暮れていた。冷蔵庫に豊富な食材が有るが、なまじマリコがいるため、インスタントやレトルトといった名前が付くモノは無かった。この中で調理と呼べる事をしたことがあるのはわたしだけだが、家庭科の授業で習った程度では、夕食に挑むには無謀だった。
わたしは早々に戦略的撤退を宣言し、目標を近所のファミレスへと変更した。
せっかく外食するのだから、フレンチレストランなどで食事を取りたかったが、そういった店の予約などは全てマリーに任せていたので選択の余地はなかった。
わたしはシーフードドリアを、琴音はカルボナーラ、天音はペペロンチーノを注文した。ドリンクバーを付け、私はデザートにケーキを、天音と琴音はチョコパフェを頼んだ。
「まったくどうなっているのかしら、天界の方からは何か分からない」
「今のところさっぱりね、廃絶派の反乱は収まったようだけど、指揮系統が混乱しているし」
「このマリーの云う時震が、神世界で起こっているのならわたし達に出来ることはないんでしょうけれど、マリーは必死になって何を計算しているのかしら?」
「時震の原因を探しているとかですかね?」
もっともな意見だったが、わたしは釈然としないモノを感じた。マリーは焦っている、明らかに時間が足りないのだ、何かが起ころうとしている。
わたし達の次の事件は,この直後に起きた、支払いに出した、神世庁のクレジットカードが承認ではじかれたのだ。カードは無効になっていた、ブラックカードを出して承認ではじかれるなど赤恥もいいところだ、幸いわたし個人のクレジットカードは使えたので支払いは出来たが、これは明日まで待たずに、今すぐでも神世庁に行くべきだろうか。
だが事態の進行は、わたしが思っていたより早かった。ファミレスを出たとき、大きな時震がわたし達を襲った、しかもこの揺れは現世での地震を伴っていた。現世での揺れは震度三弱程度のモノだったが、時震はわたし達三人ともに座り込んでしまうほどの揺れだったのだ。揺れはおよそ三分間続き揺れが終わったとき世界に変化が起こっていた。わたしには神世界が感じられなくなっていた。そして天音の瞳は黒に、髪は茶色がかった黒髪に変わっていた。わたし自身の髪も同じだった。わたし達から神世界の力が失われていた。
「マリー、何が起こったの!」わたしのインプラントからの問いかけは虚しく響き、答えが帰ってくることはなかった。
携帯で神世庁に問い合わせると、電話は繋がらず、『お客様の都合により現在繋ぐことが出来ません』との応答が帰ってきた。
取りあえずマンションに帰ったわたし達をさらなる事実が待っていた、ロフトから中庭なくなり樹が消えていた。わたしにとってこれは決定的だった、樹は何事にも左右されない絶対的な存在であり、永遠のモノだ。間違えなく神世界は消えてしまったのだ。それはわたしの存在そのものを否定されたようなものだった。
わたしは混乱の中でロフトの前から動けずにいた。
わたしは・・・わたしはどうすればいい?
幼い頃わたしは守神子として生まれた自分を恨んでいた。生まれたときからわたしの運命は全て決められていたのだ。わたしは普通の子供として、普通の人間としての生活にあこがれ自分を、世界を否定した。
だが今は守神子であることが、わたしの存在意義であり、神世界がわたしの居る場所だった。足元が崩れるような感覚に、琴音と天音の存在も助けにはならなかった。自分の心がこれほどに脆いモノだとわたしは初めて思い知った。
動けずにいるわたしを琴音と天音は引きずるようにロフトへと連れ帰った。二人はわたしに話し掛けていたが、言葉はわたしには届かなかった。
ロフト入るとわたしは自室に閉じこもった。ベッドに腰を下ろし、ボンヤリと窓の外を見ていた。外では季節外れの雪が舞っていた。六月の東京で雪なんて・・・。
八束の剣も封縛大御鏡もわたしの手から消えていた。残っていても、人間であるわたしには扱えない。いやそもそも、なにと戦うのだ。全ては消えてしまったのだ。
わたしの思考は取り留めもなく宙をさまよった。
こんなことなら、命を掛けてわたしを生んだお母様の苦労は何だったのだ?
叔母様の苦しみは?
わたしはその時、首に掛かったペンダントに気が付いた。あの日叔母様が渡してくれた、お母様の形見。水晶のペンダントだけはそこに残っていた。
取りだした水晶を握りしめた時、わたしの目には涙があふれた。
わたしは何者だ?
昨日までのわたしなら、こんなことを考えているモノがいれば、しかり飛ばしていただろう。涙に滲んだ目の隅で何かが光っていた。携帯電話だ。メールの着信があったのだ。ホログラムモニターに文字が流れていた。from Marie・・・・。
マリー?
ノックの音が響き、琴音と天音が入ってきた。
涙に濡れる顔を上げると、琴音が駆け込んでわたしを抱きしめた。天音はゆっくりとわたしの横に座り、そっと肩を抱いた。
「静音しっかりしてよ」
「まったく、あなたらしくないわよ」
分かっている、分かっているの・・・。
でも・・・どうしていいか分からない・・・。
「私を見て静音」
琴音・・・、再びわたしの目に涙があふれた。
「静音・・・」
「静音、神世界が消えて、衝撃を受けているのは私も同じよ・・・一人でいたら、とても耐えられなかったかもしれない、でもわたしは一人じゃない、あなた達がいてくれる」
天音はそこで言葉を切って、わたしの顔を見つめた。
「あなたはどうなの、わたし達じゃ役不足?」
「そんなことない、そんなことないけど・・・」
「だったら、わたし達を信じて、わたし達は家族なんでしょう?」
「そうですよ、家族は助け合うモノですよ」
わたしは琴音と天音を家族と思っていたが、お母様や叔母様に感じていたのとは違う、ルームメイトのようなものだった。
だが琴音と天音の愛情は本物だ。二人は心からわたしを思い心配してくれていた。
わたしはバカだ・・・。
確かに守神子であることを失い、わたしの存在意義は揺らいでいた。
だが、琴音と天音の存在も助けにはならないなんて大間違いだ。
二人がわたしを思い支えてくれるなら、それはもう一つのわたしの存在意義として十分だった。二人がいてくれる限り、わたしは志奈津静音として自分を見失わずにいられる。
わたしは携帯を持ち上げ二人に見せた。
「マリーさんからメール?」
琴音が携帯を受け取ると、メールを確認した。
From: Marie subject: It's important for you date: 2035/06/30 19:15:37
31° 53′ 10″ N, 130° 55′ 9″ E 2035/07/01 08 :59 :60
メールの内容は、たった一行だった。だが、It's important for you|(とても大事なことです)と云うからには意味があるのだろう。
わたしは涙を拭い、画面を見つめた。
北緯31度53分10秒 東経130度55分09秒は位置を示しているのだろうが、8時59分60秒とはどういうことだ?
「これだけですか?マリーさんにしては不親切ですね」琴音が云った。
「これだけしか、送れなかったんじゃないかしら、ほら送信時刻」
「ああ」
19時15分は最後の時震が起こった、神世界が消えた時刻だ。
わたし目は再び涙に曇った。マリーはずっとこの為に計算をしていたのだ、これをわたしに伝えるために。たった一行のメール。だが、これはきっと世界を救うためのモノだ。
マリーは守神子であるわたしにそれを託したのだ。わたしにはするべきことがある。
「静音どうしよう?」
マリー、琴音、天音ありがとう、世界が消えゆこうとも、わたしは一人じゃない。
わたしは顔を上げ二人に云った。
「決まっているじゃない、神世界を取る戻すために戦うのよ!」
世界には悪いが、これはわたし自身の為だ。わたしとわたしの家族のために。
「琴音手を見せて」
「はい?」
北緯31度53分10秒 東経130度55分09秒には心当たりがあった。ならば、それは琴音の手にまだなくてはならないのだ。
他の全てが失われていたが、琴音の手には天逆鉾の柄が残っていた。神世界と現世は辛うじてまだ繋がっているのだ。
北緯31度53分10秒 東経130度55分09秒は高千穂山の峰であり、かつて大地を鎮めるために、天逆鉾が最後に振るわれた場所だ。
明日の存在しない時間、8時59分60秒にここに天逆鉾を突き立てろと云うことだろう。だが、問題が二つあった、一つはここにあるのは柄だけで、鉾先が欠けていること、そして、もう一つはわたしが我を忘れたために、貴重な時間が失われたことだ。既に時間は二十一時を回っていた。しかも雪は吹雪に変わり始め、世界は凍りつこうとしていた。
「琴音、移動手段を確保して。神世庁が消えたことで、あなたの現在の立場がどうなっているか分からないけど、国際連合警察でもどこでもいい、8時59分60秒までに確実に高千穂山頂に行ける手段が必要なの、お金で解決できるのなら幾ら掛かってもかまわない」
わたしは、クレジットカードとキャッシュカードを琴音に渡した。個人財産だけど、そのまま残っていれば現金だけで五百億円は動かせるはずだ。
琴音が端末を使うため、部屋を出て行くとわたしは天音に向き合った。
「天音、天逆鉾の鉾先を取りに行かなければいけないの」
「琴音に外させたってことは、また無茶なことを考えているのね」
「現世と神世界が切り離され、神の魂を失ったいま、それがある場へ行くには方法は一つしかないの」
「天逆鉾の鉾先は黄泉の伊邪那美神の墓に奉じられているんじゃないの?まさか私にあなたを殺せって云うんじゃないでしょうね」
「ええ、その通り。わたしは一度死んで黄泉に昇る」
「分かっているわよね、今のあなたは神ではないし、私も天使の力を失っていることを考えれば、現世には魂の導き手はいない。あなたが人として死ねば、導き手のいない魂はその場で消えることだってあるのよ」
「その危険は分かっているわ、でもそれ以外に方法はない」
「魂が消えなくても、どうやって現世に戻ってくるつもり?」
「いま、わたしはこの世界を救いたい。そして救った世界であなた達二人と暮らしたい。ここがわたしの場所だから」
天音はわたしの服の襟首を掴んで云った。
「私にそんなことさせて帰ってこなかったら、私が殺すわよッ!」
「ゴメン天音・・・」
「帰ってくのね?」
「ええ・・・」
「返事は『はい』よッ」
「はいッ」
「まったく、メチャクチャなんだから」
それからわたし達はメディカルルームへ移った。
ガウン姿で医療ベッドに横になったわたしに、天音がメディカル端末の指示に従い、センサーを体に付けていく。そして心臓の左右に電気ショック用の電極パッチを付ける。
メディカル端末のロボットアームにより、ナノマシンが注射された。
ナノマシンはメディカル端末の指示に従い、わたしの体温を二十一度まで下げ心臓を止める。わたしが死んでから、一分後に、メディカル端末はわたしを蘇生させ、ナノマシンは吸収していた熱を解放することでわたしの体温を戻す。ナノマシン自体もこの過程で分解され、熱エネルギーに変わる。
説明すると簡単だが、肉体はコンピューターを再起動するようにはいかない。蘇生できる保証はないし、蘇生できても障害が残ることもある。わたしの体温を下げる過程で、不整脈により本当に死んでしまうこともあり得るのだ。
なによりも、これだけのことをして、黄泉に行ける保証も、そこに鉾先がある保証もないのだ。
「静音、やめるなら今よ」
わたしは天音に笑顔を向けた。
「戦いはもう始まっている、GOよ、天音」
「まったく、これから死ぬって人の顔じゃないわね、戻ってくるまでに琴音への言い訳を考えておきなさいよ」
ああ、それは確かに問題だ・・・わたしの意識は途切れた。
わたしは自分の身体を見下ろしていた。横には天音がいた。
神でないと云うことはこれほど頼りないモノか、わたしの魂はいまにもバラバラになり消えてしまいそうだ。わたしは自分のイメージを頼りに魂の形を固めた。
わたしは高天原に行った時のことを思い出した。神世界の、魂の移動には距離は関係ない、黄泉へ。
次の瞬間、わたしは黄泉比良坂にいた、高天原にある黄泉への入り口だ。神世界に移動したことで、わたしの魂は実体化していた。
わたしは黄泉比良坂を登っていった。不思議だ、この場所は初めてなのに此処を知っている。思えば最初に高天原へ登った時もそうだった。なぜ?
黄泉の国は彼岸花によって、鮮やかな赤と白に染められていた。曲がりくねった細道を迷うことなく進んでいった。やがて開けた場所に出た。白い墓石が並ぶ、神々の墓標だ。
神は精神的な存在だから、もちろん墓標の下には神の肉体はない。神が死ぬには様々な理由がある、だが多くは生きることへ疲れこの場所で自ら消えていくのだ。
広場の中央に位置する一際大きい、塔のような墓標が日本の神々の母、伊邪那美神の墓だ。
わたしはその前に進んだ、鉾先はどこにある?
『伊邪那美』名が刻まれている墓標に手を触れた。わたしの中に膨大な情報が流れ込んできた、伊邪那美神の一生だ。十二柱七代の神の最後に生まれ、伊邪那岐神と結ばれ、国と神々を生んだ。
わたしは情報を整理できず、その場に崩れ込んだ!
それでも情報の奔流は止まらなかった、なぜならそれは外からではなく、わたしの内側から来ていたからだ。かつてのわたしの一生・・・前世の記憶。
伊邪那岐神と共に天逆鉾で国をつくり。
三貴子、天照大神、月讀、スサノオノミコトをはじめ多くの神々を生んだ。
創生の世は美しき生命の息吹にあふれていた。
伊邪那美は世界を愛し、神々を愛した。
葦原中国が平定されるとそこに生まれた人間を愛した。
伊邪那美は全てのモノに惜しみなく愛を与えた。
母なる樹が自分を愛してくれたように。
しかし、すべての物事は変化する。
美しい創世の時は終わり、息吹いた命は生き残るための生活という戦いをしなければならなかった。それは他の命を喰らうと云うことだ。
ほかの命をもらい生きる。そしてまた子孫という命を生む。
自分の生んだ命が生存競争と云う争いをする事に、やさしい伊邪那美は耐えられなかったのだ。伊邪那美はそれが生きると云うことだと理解していが、そういう世界を見ることは忍びなかった。
だから、自らが消えることを選んだ。そのとき、伊邪那美を愛した樹は、世界を変えることを申し出たのだ
「伊邪那美よ、お前がこの世界を嘆くなら、私がこの世界を変えよう、お前の望む姿に」
「母なる樹よ、わたしはこの世界を愛している、いかにこの世界が変わろうとも」
「ならば、なぜお前は消えようとしている、私を残して・・・」
「母なる樹よ許し給え、わたしは疲れたのです」
「ならぬ、永久の世界に存在し、消えることの許されぬ私に取って、お前こそが慰め、前が消えることを私はゆるさぬ」
「ああ、樹よそれは余りにも残酷です、どうかわたしに安息を安らぎの時を」
「ならば、世界を変えよう、お前の安らぎのために」
「樹よわたしはそれを望んでいない、なぜ分かってくれないのです」
「伊邪那美よなぜ、お前こそなぜ分からない、わたしを残して行かないでおくれ」
「わたしには安らぎが必要なのです、どうか、どうか」
「だめだ伊邪那美、それは許さぬ」
樹は伊邪那美が消えることを拒んだ。伊邪那美にとってこれ以上の地獄はなかった。
「・・・樹よわたしは、転生の世にて再び出会おう、その時こそわたしは永久にその側に居ることを約束しよう」
「ならば、伊邪那美再びお前が世界を嘆くのなら、その時こそ私は世界を変えよう」
伊邪那美が再び生まれてくる時、世界に絶望したなら、消えることではなく、世界を作り変えることを選ぶと、二度と樹の前から消えることはないと。この樹の残酷な約束を伊邪那美は受け入れるしかなかった。
前世の記憶を得たことで、わたしは神性を取り戻していた。天音の云っていたわたしの中で眠っていいた力、伊邪那美としての力だった。
鉾先のありかも分かった。かつて伊邪那美が封じた、鉾先は長い時を越えわたしの元へと、返っていた。偶然ではあり得ない、樹はわたしのために全てを用意していたのだ。
現世では既に肉体が蘇っていた。目を覚まさないわたしの横で琴音が泣いている。
今のわたしなら、此処からでも喋ることぐらいは出来るだろう。
「琴音、天音、聞こえる?」
「静音ッ!よかった」
「遅いわよ、心配させないで」
「ゴメンね、心配させて」
「それで、鉾先は見つかったの?」
「えぇ、でも、わたしは別の場所に行かなければいけないから、高千穂山の方は二人にお願いしたいの」
「なんですかそれ、他の場所って?」
「きちんと説明して静音、それに任せると云っても、鉾先がなければどうするの?」
「鉾先はそこにある、わたしのペンダントの中に、ずっとそこにあったの」
「このなかに?」
「では、行かなければいけない所ってどこよ?」
「高千穂山が最後ではないの、それを止めてもまた次が起こる、だから過ちを正に行く」
「そこでなにが、起こっているんです」
「全ては、わたしの過ちなの。憑神のサイバーテロも、廃絶派のカマエルの裁きも、妖魔の襲来も、神世界が切り離されたことも、全てはわたしの過ちが生んだことなの」
「一連の事件が、全て繋がっていると云うの?そんなことは神でも無理よ・・・まさか?」
「ええ、こんなことが出来るのは樹だけよ」
「どうゆうことなんですか?」
「もどったら、全て説明するわ」
「・・・こっちは任せなさい、琴音が頑張ってくれたから何とかなるわ」
「あ、そうです、分かったんです、7月1日8時59分60秒って閏秒なんです。存在して、存在しない時間」
「世界標準時で6月30日23時59分60秒か、良く気づいたわね、琴音」
「はい、だからこっちは任せて下さい、だから約束して下さい」
「約束?」
「はい、絶対戻ってくるって約束して下さい!」
「琴音・・・」
「私との約束も忘れていないでしょうね、静音」
「天音・・・約束するわ二人とも・・・わたしは戻るあなた達のいる場所に、わたしの家に・・・じゃあ、頼んだわよ」