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16 双子の奮闘

 双子の幽霊……いや魔霊は、俺が昔大好きだった洋画のゴーストそっくりな姿をしていた。

 若干透けながらも輪郭のはっきりした人間の子供が2人。足はちゃんとあるけど地面から浮いている。

幼いせいか服装以外では双子の判別が出来ないが、男の子は白い半袖ワイシャツに黒いズボン、サスペンダーとどこぞのお坊ちゃまのような格好をしている。一方女の子の方は多段フリルでボリューム感のある白いドレス姿。お城のパーティに列席する大富豪の子息達のようだ。


 「初めまして! フラメちゃんの両親に代わってこの屋敷のお掃除係を任されましたユメルと申します!」


 相手の礼装に対して俺も居住まいを正し自己紹介。

 学校の制服はスカートでは無いけど、あるつもりのそれを軽くつまんでお辞儀した。やってから自分でもちょっとわざとらしい仕草だと思った。


「嘘つけ! こっそり聞いてたんだぞ。僕たちを追い出そうとしたって無駄だからな」


 少年の方が年頃の男の子らしく攻撃的に反応する。


「(目的は違うけど)ちゃんと掃除はしてるし、君たち双子に出て行けなんて言わないよ。けど……」


 風を操る手は敢えて休めず、時々珍妙な骨董品を品定めしながら俺は魔霊との対話を開始した。


「なんで君たちは、フラメのお父さんとお母さんをあんな目に合わせるの?」


 うん、この壺はいい味出してる! 中にハチミツが入ってる的な意味で。

 こっちの世界に来てから物漁りの癖がつきそうだ。見る物全て……というわけではないが

、珍しい物が多いのだから仕方がない。


「決まってるじゃん!」


「この家の魔素を薄めないためよ! 私たちがこうして強く存在し続けられるように、そしてあの方の――」


「シィ! そこからはちゃんと言い直さなきゃ」


「ごめんスゥ」


「ふーーん。それで?」


 分厚いホコリの下には面白そうなモノがたくさんあって、会話のキャッチボールを忘れかけている自分を自覚しながらも、物珍しさを求めて俺の目と手は珍奇な品物を行ったり来たり。


「オホン! ここは今から約200年前天に召された偉大なる魔法使い“オッペンハイム”様の御屋敷!」


 この和っぽいタンスは……桐箪笥だと!? 古臭くて懐かしい香りは田舎のおばあちゃん家を思い出させる。


「力の無い者が踏み荒らすことは断じてまかりならぬ聖域!!」


 “すっごい飛ぶよ! この箒!!”

 昔小学校でチャンバラごっこして遊んでたあの竹箒に似ていて、これまた懐かしい。今ではあんまり使われなくなったとか……残念だ。この箒も見た目は悪くないのに変な名前がついてて残念だ。


「オッペ様のいないこの屋敷を、真の後継者が現れるまで死守するのが僕たちの使命!」


 “水がワインになる盃”

 今この体にはあまり有り難くないな。

 あっちの俺も酒は苦手で付き合い以外じゃほとんど飲まなかった。

 そもそも俺はまだ二十歳になるかどうか…いやなんでもない。


「後継者足る者はその力を以って“証”となるものを示せ!!」


 “失敗作! だがある意味究極の媚薬! 飲んだ人が最初に見た人を殺したくなる程愛してしまう薬”

 最近流行ってるヤンデレになれる薬か……リアルで近くにそんな人いたらとても嫌だ。


「見事証明した者にはこの屋敷の全てと永遠の命の術を……

 あの……僕達の話聞いてる?」


「うん、聞いてる聞いてる」


 あらかた片付いたら隣の部屋、また隣の部屋へと移動しては掃除と物漁りと会話の一方受信を続ける俺。

 双子は自分達の使命を果たそうとするべく、必死になって俺に語りかける。


「氷の女王と炎の姫は見事その力を示された。後継者ではないがここに滞在する資格のある者達だ」


「ホントは二人がケンカしてるのを見て恐くなっただけなんですが」


「(シィそれは内緒って言ったじゃん! 僕達の威厳が台無しだよ!)」


「(そうだっけ?ごめんスゥ)

 しかし! 二人の両親にその資格は無いと判断したまで。

 貴女はその力で何を示す?」


 “絶対に勝てないと思った敵へ最後の手段! 何が起こるか分からない!? 一億の魔法を詰め込み圧縮したパ○プンテ玉!!!”

 どうでもいいけどビックリマーク多い。あとパル○ンテって……

 見ていて飽きないけども、あまり使ってみたくない代物ばかりだ。


「……」

「……」


 “容量ほぼ無限大!好きな時に望む物を取り出せる四次元ポ○ット!”

 一応巾着袋の形をとっているが、どこかで聞いたことのある代物だ。こんなものあるなら最初から屋敷の物全部この袋に入れとけばいいのに。

 持ち物が少なすぎる今の俺には必要ないけど、これは“地味”だし便利そうだから貰っておこうか。


「シィ、もういいよ。この人僕達の話全然聞いてくれない」


「でもスゥ、オッペ様も研究に熱中されてる時はこんな感じだったわ。もしかしたらこの人こそ私たちが待ち続けていた人かも――」


 これで屋敷の1階半分はだいたい探索したかな。少し夢中になり過ぎた。それにそろそろ明りがないと行動しにくい時間だ。


「そんな訳ない! 結局この人も僕達のことなんてどうでもいいんだ!

 そうやって無視するなら……こっちから試してやる!」


 そう言って双子の男の子の方が、透明で華奢な子供の腕で俺に殴りかかってきた。

 一息ついた俺はそれに気付いたが、大した脅威を感じないかったので好きにさせてみることにした。


「やあ! とお! てい!」


 双子の半透明な手は俺の体に触れられずにすり抜ける。

 しかし体に重なった部分から僅かではあるが、力を吸い取られる感覚を覚えた。


「えい! えい! えい! えい!」


 双子の少女も仕方なくといった表情で加勢してくる。


「たあ! たあ! たあ! たあ!」


 少女に続いて少年の貧相な連続パンチが俺を幾度も貫通してゆく。

 しっかり閉めるのを忘れた蛇口のように、ちょろちょろと俺の体から魔力が抜ける。

 この攻撃……あと100万回くらい食らったら気絶するだろうか?フラメの両親はこんなのにやられたのか?こんなんじゃ気絶はおろか悲鳴すら上がらないと思うんだけど。

 何かで驚かされた後にこの攻撃喰らったら、2重のショックで倒れないとも限らないか。


「はぁ、はぁ……どうだ! 参ったか」


「ふぅ、ふぅ……謝るなら今のうちよ」


「この調子でお屋敷の反対側も掃除(と言う名の物漁り)しちゃおっか」


「「まるで堪えてない!?」」



 こうして双子との攻防? は続いた。変わったことといえば、俺が片手にランタンを持つようになったことくらいか。

 途中、俺は掃除の為に片手を振り続けながら、試しにと風の刃を発生させ双子へ向けてみた。当たってもちょっと切り傷が付く程度の威力に抑えて。しかしそんな配慮は全く必要なく、カマイタチは何事もなかったかのように双子をすり抜けて壁を傷つけた。


「ああ! オッペ様の御屋敷が……よくもやったな!」


 双子の攻撃は苛烈を極める? が、明らかに攻撃している自分たちの方が疲れている。俺から奪った魔力をそのまま自分の力に出来る訳ではないようだ。

 そしてやはりフラメの言った通り魔霊に実体はない。

 このまま地道に掃除を続けながら双子の依り代を探すか?

 双子がこの屋敷そのものにとりついた地縛霊でないことを願いながら?


「……お互いに手の打ちようがないね」


 俺は一息ついて魔霊達に話しかける。


「もう諦めて帰って下さい」


「そうだそうだ!オッペ様の屋敷をこれ以上いじくるな!」


 双子は俺の気が引けたのか、ちょっとだけ嬉しそうだった。

 少しばかり相手してやろうか思い、俺は良い感じに古びた机の上に明りを置く。綺麗にホコリを取り払った安楽椅子に腰かける……と、お尻のポケットに何か入っているのに気が付いた。


「あ……リセットボール!」


 俺の数少ない持ち物の中に打開策はあった。というかこれが効かなかったらフラメになんて報告しようか考えなくては。

 魔霊の方を向くと、いつの間にか双子は仲睦まじく肩を寄せ合っていた。幽霊のくせに恐がっている? これから起こることをなんとなく察しているのかもしれない。

 少しだけ申し訳なく思いながら、俺はポケットから胡桃くらいの大きさの黒い球体を取り出す。そして魔力を込めながらギュっと握りしめた。未だに魔力がなんなのか論理的には理解していない、感覚的なものだけど、ようするにそういう気分で。

 目に見えない空間が俺を中心としながら円心上にゆっくり広がって……それが触れた先から、双子の半透明なシルエットが消えてゆく。俺に怒りや悲しみをぶつける間もない。


「シィ……僕達、消えちゃうの?」


「大丈夫よスゥ。また直ぐに復活出来るわ。だって私たちの本体は大浴場に――」


「シィっ!! それを言っちゃ――」


 あらゆる魔法効果を無効化する(らしい)空間に呑み込まれ、双子の魔霊は俺の視界から完全に消え去った。


「……あんまりいい感じはしないけど、大浴場とやらへ行ってみますか」

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