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11 学校の外へ

「ユメル……アンタ……」


 一瞬全ての音が途絶える。フラメは言葉を無くし、俺は笑いを止めた。


「私は平気。それよりアニキを診てあげて」


「彼は……大丈夫だ。貧血だが傷口は塞がっている。しかしこっちの黒い少年は急いで病院に運ばないと」


「そいつは自業自得です。放っておけばいい」


 ライトさんはどう反応すればいいかわからないといった顔で俺を見た後、無言のまま二人の少年を連れて消えた。


「アンタこんなところで何してたの?アイツ等は一体――」


「保健室で暇だったから図書館でも行ってみようかなって思ってたら、アニキとばったり会ってここまで案内して貰ったんだけど、そうそうアニキってあの不良青年組の……」


 説明しながらさっきまでの出来事を反芻する。

 未だ手に握っている継ぎはぎだらけの栞。

 これに意思を与えたと言っていたか? あの黒い少年

 アニキを傷つけた張本人でもあったが、その傷が自らに跳ね返りライトさんに運ばれた。

――呪詛返し


……あの時俺はどうして笑っていた?


「あんなひょろくてアタシ達と2~3歳しか違わないようなのが不良組の元リーダーなの? ホントに強いのかなあ? アイツの怪我が治ったら決闘申し込んでみようかしら」


「優しくて良い人だから、フラメちゃんはあんな大きなドラゴンでいじめちゃダメ」


 誰が相手でもあの赤竜は反則級だと思う。


「あんな優男のことをいたく庇うわねえ……好きになっちゃった?」


「うん、人として、アニキとしてね」


 正直、目の前であんな目に遭った人の事をどうにかこうにか思う余裕なんてないけどね。


「ユメルがそう言うなら……まあいいわ。不良集団とはもう決着ついちゃったから、今更アタシの方から元ボスにちょっかい出す理由も無いし。で、これからどうする?」


 フラメは決闘の件で校長先生と――姉からこっぴどく説教されたらしい。

 ユメルと面倒事に巻き込むなとか、やってもいいとは言ったけどいくらなんでも派手に暴れ過ぎだとか(一番の問題は俺の魔法による被害らしいがそこは黙っていてくれたようだ)

 彼女は処分保留、今日のところは早退、自宅謹慎を言い渡されている。


「私も授業全部キャンセルされてるみたいだし、フラメちゃんは学校から出なくちゃいけない。なら、王都を案内してよ。私この辺のことなんにも知らないから」


 この辺どころか世界の全てが知らないことだらけだけど。


「自宅謹慎って言ったばかりでしょうが! ……でもまあ、家に戻るまでに“ちょっと”寄り道するだけならいいかな。ついでにユメルは家で遊んでいけばいいのよ」


 俺とフラメはいたずらっ子のように笑いあった。

 気持ちの悪い血の光景なんて早く忘れよう。

 さっき何があったかなんて今の俺には理解出来ないことばかりなんだから。



 俺達はゲートを抜け、研究所を出て日の光を浴びながらお散歩を開始した。


 ファンタジーの世界観は中世ヨーロッパを参考にした記述が多いというが、中世というとまだ封建的な社会情勢であり地域毎に閉鎖的で交易など盛んではなく、冒険は村と村を行き来するだけの道程でも困難を極めるだろう。

 だから実際のモチーフにされているのは、発展著しい中央集権化された近世ヨーロッパ時代以降だとかそんな話はまあ置いといて。


 俺が見たこの異世界の風景はなんと表現したらいいのだろう……観光地?

 海外に行った事は無いが、観光パンフに乗ってるあの綺麗な写真がそのまま目の前に現れたと言えば少しは通じるのではないか。

 車のように速度の出る乗り物は無く、行儀よく舗装された石畳を馬車や徒歩の人が行き交っている。

 丸くて大きな葉を持つ街路樹が等間隔に立ち並び、その奥には茶色や黄土色の趣きある古くて四角い建物が町全体の雰囲気を壊さないよう良い感じに並ぶ。


「全く、アイツ等から仕掛けてきたのに、お姉ちゃんもやれ潰せやれこき降ろせって言ってたのに、教師達だって目の上のタンコブだって言うから潰してやろうとしたのに……なんでアタシが御咎め受けなきゃなんないのよ!」


「なんか……ごめん」


「ユメルも少しは魔法の加減を知りなさい! 私のドラゴンよりずっと派手で被害が大きかったんだから」


 俺は王都の景色に見とれながらフラメの話を聞いていた。

 彼女によると、俺が気絶する前に放った魔法で大嵐が起こりドームは半壊、そこへライトさんが駆け付け仲裁、フラメは校長室へ連行され事情説明とお説教。

 彼女の姉はどうか知らないが、校長は間違いなく娘の俺を心配し過ぎてフラメに矛先が向いたんだろう。

 幸い大した怪我の無かった不良青年達は、フラメと俺の魔法に越えられない壁を感じてしまったらしく、その後はひたすら従順だったそうな。

 

「ちょっとだけ遭ったんだけど、私……フラメちゃんのお姉さん苦手だな」


「『凄い銀髪のマセた娘がいる』ってやっぱりユメルのことだったんだ。校長室に来る途中で会っちゃったんだね、アタシも最近のお姉ちゃんあんまり好きじゃない。自分勝手にちょっかい出す癖して直ぐに飽きて冷たくなるのは前と変わらないけど――研究所に入ってから益々氷の女王みたいに近寄り辛くなってきてさ」


 それでもやはり姉妹なのだろう、フラメの言葉からは姉を心配する心が見え隠れしている。


「でも“マセた娘”ってアンタ何かしたの? まさかあのアニキとかいう優男と」


「フラメちゃんの方がずっとマセてるんじゃないの!? 私たちまだこんなちっちゃな子供なんだよ」


「自分からちっちゃいなんて……ああ、あんたのホントは結構大人なんだ? ねえソッチじゃどこまで進んだことあんの?」


「いやえっとその……フ、っフラメちゃんの方がもっと小さいんだからね!」


「そうねアンタの方が大きいわ、認めるから話してみなさい! 色んな経験積んでるんでしょ?」


 ニヤニヤが止まらないフラメにタジタジと言葉が返せない俺。

“もう二十歳になるしかも男でついでに何の経験もありません”なんて真実絶対に言いたくない。



 噴水が涼しげに水を吐き出し、俺よりもっと小さな子供が水遊びをしていてそれを母親が近くで見守る。あとは読書している老人が一人いるくらい。あとは通行人が時々通り過ぎるだけ。

 そんな平和な広場に辿り着き、少し休憩することになった。


「王都シュミレンの中央公園よ。普段は人混みや露店でごった返してるんだけど、平日でまだ学校も仕事も終わって無いこんな時間だから静かなものね。

 たまにはこういうのも優越感味わえていいわ。ほぼアタシ達の貸し切りみたいだし」


 午後の講義をサボって一人芝生に寝転んでいた時間を思い出す俺。

 まだ一日も経っていないのに懐かしく思う。


「アタシ飲み物でも買ってくるからそこのベンチで待っててね」


「うう、お小遣いすら持ってなくてごめんね」


「気にしないで、後で校長にねだってみれば? アンタに凄く甘そうだったもの、魂が違っても、付けいる隙はあるんじゃないかしら」


「うん、そうしてみる」


 このままだとそろそろ今夜泊まる場所とか気にしないといけないし、どちらにせよ校長には会わないといけないか。



 ベンチに腰掛け足をぶらぶらさせながら、姿の見えなくなったフラメを待ちつつ噴水で遊ぶ子供を眺めていると、遠くからでもいかにもな恰好と分かる人達がこちらへ向かって歩いてくる。しかしまさか自分に用があるとは思わない、赤の他人よろしく通行人として通りすぎるだろう、とのんびり空を見上げていた。


「雲は何処に行っても雲だなあ…………」


 ガラの悪そうな高校生くらいの3人組に絡まれていた。

 学ランみたいな黒服を第三ボタンまであけてはだけているのが面白いと思った。

 さっきチラ見した赤の他人で通行人A、B、Cとなっていたはずの人達だった。


 どういう……ことなの……?

 この体ってトラブル体質でもあるの?


 学校にいたテリメン達が人を見下しそうなエリート面した不良(実際は才能にコンプレックスを感じている集団のようだが)なら、こいつらは下級生をパシリに使いそうな頭のよくないチンピラだ。


「お嬢ちゃん魔法学校の生徒だね?」


「こんなところでサボるなんてイケナイ子だなあ、何してるの?」


「マジなこと言うとオレ達と遊ばない?」


 この姿はそんなに人目を惹くんだろうか?

 日本だったらともかくこっちじゃ金髪とか目の色が凄いのとか珍しくないだろうに。


「……お兄さん達、もしかしてロリコンなんですか?」


「いや、けどお嬢ちゃんくらい可愛い子なら……ギリギリオッケーかな」


 そこはギリギリアウトと言って欲しかった。


「お金たくさんもってそうだし」


 ……自分でも悲しくなるくらい何も持ってませんが。


「高く売れそうだし……いやいや人身売買なんてアブナイ橋渡ってないから安心してよ。ちょっと気持ちよくなるだけだから」


 本当に巻き込まれトラブル体質だなあこの体は。


「私も人のこと言えませんけど、お兄さんたち学校行かなくていいんですか?」


「オレ達貧乏だからガッコいけてないのよ」


「そうそうだからこうしてお嬢ちゃんにたかりにきてるの」


「オレ達も魔法ガッコ入学させてくれない?」


 胡散臭いことこの上ない。

 フラメちゃん遅いなあ……

 この人達で遊んじゃってもいいと思う?

 こいつら不良から感じるプレッシャー? みたいなものは、あの紙人形や黒い少年、テリメン達から発せられるそれより遥かに劣る。

 自身の身を少しも心配してない俺がいる。


 魔法の訓練もしたかったし丁度いいか。

 でもこんな人前でガンガン魔法使っても平気なのかな?

 魔法だとバレない程度にしておけば何の問題も無いな。


 公園で遊んでいた親子は危険を察知したのかいつの間にか姿を消していた。

 読書中の老人はそもそもこちらに気付いていない様子。

 好都合だ。

 

「仕方ないなあ、そこまで言うなら遊んであげる。お兄さんたちがケンカで私に勝てたら好きにしていいよ」


「いやいやお嬢ちゃんに暴力なんて」


「素直にオレ達に付いて来てくれれば」


「手荒なマネはしないから。きっと気持ちよくって楽しいよ」


 そういいつつ俺との距離を縮めようとじわりじわり近寄ってくる3人組。


「じゃあ……こっちから行くね」


 俺は気付かれない程度の風の力を借りて一気に加速、不良の1人に急接近した。

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