1 何事においても萌えは無敵だわ!
「というわけで、第三十七回新聞部イメージアップ対策会議、始めるわよー」
「いや、いつの間にそんなに回数積んだ感じになってるんですか。これ今日部長の思い付きで突然始まっ……」
「うーるーさーいー。こう言っておけば、読者には『以前から努力し続けている勤勉な新聞部』というイメージで伝わるでしょうが。何故このくらいのことにも頭が回らないのかしら」
「そういう行為が余計に信頼度を落としてるんだと思いまひゃあっ」
「つべこべ言うと、夏輝が私にキスしたこと……言いふらすわよ?」
「それは、クラス劇の白雪姫での話ですよね。読者に誤解を与える発言は止めてくださいよ。そして、今僕の胸を揉んでる人が言うことじゃないです!」
「全く。夏輝の乳は、いつになったら成長するのかしらね。毎日私が、丁寧にマッサージしているのに」
「余計なお世話です」
「やっぱり直に揉まないと効果は無いのかしら」
「いい加減自重しましょう。読者引きまくりですよ、今頃」
「……まぁいいわ。このまま会議始めちゃいましょう」
「え、ちょっと。その前に僕に抱きつくの止め」
「はーい。えー、まず私が考えるイメージアップ案ですがー」
僕は抱き枕と化したまま会議に応じなければならないらしい。まぁいい。この程度の狼藉には慣れっこだ。
「あ、一応言っておくと、今この部屋には、私と夏輝の二人しかいませんよ。いくら私でも、夏輝が嫌がるふりをしながらも、敏感なトコロを刺激されてつい感じちゃって、はぁはぁ真っ赤になって喘いでいるのに、素直に快感を表すのが悔しくて、顔を何とも言えない絶妙な表情に歪ませているような痴態を、さらに公衆の面前にさらすなんて羞恥プレイは、可哀想すぎるのでしませんから」
僕のことを気遣ってくれるのなら、ぜひ毎日のセクハラも止めていただきたい。あと、妄想自重しろ。
「では、提案その一ー。とりあえず今の新聞部の問題点を洗いざらい挙げてみるのはどうかしら」
「それは良い案ですね。早速出していきましょう」
「えぇ。あら、この体制ではホワイトボードに記録できないわ」
部長はそう言うと、あっさり僕を解放し、ホワイトボードに丸っこい文字で題字を書き始めた。……助かった。
「問題点その一。夏輝何かある?」
「部長の変態行為」
「読者にスリーサイズばらすわよ?」
「だからそれですよ。そういう発言」
「上から順番に、七十五――」
「わぁー、わぁー、わぁぁぁーっ」
「そんな、隠すほど悪いスタイルでもないのに。今のとこで止めてしまうと、ただ夏輝がぺったんこなのが知られただけよ? どうせなら、折れてしまいそうなほど細いウェストや、コンパクトで可憐なヒップのサイズも、思い切って公開してしまえば良かったのに。幼児体型好きの方々を惹き付けることが出来たはずだわ」
「そんなことアピールしてどうするんですか。そもそも、何故僕のスリーサイズを?」
「ふっふーん。私の特技の一つは、後ろから抱きついただけで、その娘のスリーサイズを正確に計測出来ることなのよ! ちなみに、パッドとか入れても無駄よ。私にはお・見・と・お・し」
「いや、胸張って言うことじゃないです」
それにこの部長、外面は良いから、実際、部の欠点にはなっていない。……つまり、被害者は僕だけ。なんてこった。
「私は、新聞部が嫌われる一番の原因というのはやっぱり、その活動自体だと思うのよね」
「確かに、プライベートなことをさらし上げられるのは、やられる方からすれば、良い気持ちではないですからね」
そう言いつつ、僕は本棚からファイルを取り出し、ここ最近の壁新聞を読み返す。
「生徒会長の二股疑惑、野球部美人マネージャーの妊娠発覚、バスケ部の百合カップルの恥ずかしい蜜月を激写……。こんな記事ばかり特集されてたら、誰だって引きますよ」
そして、全て女子生徒のネタなのは、明らかに部長の趣味だ。部長曰く、「野郎のことなんて興味ないわ。追っかけるなら勝手にやって頂戴」だそう。
しかし、何を思ったか、部長は、こんな主張を返してきた。
「何を言っているの! 他人の秘めている恋愛感情やら何やらを目ざとく見つけ、しつこく追い回し、面白おかしく吊し上げる。それが、我ら新聞部の本来の使命であるはずよ!」
「絶対違うと思います」
「目指すは、表紙に巨乳のおねーさんが載っている写真週刊誌のような存在よ」
「学校新聞という前提を忘れてませんか?」
「全く……これだから、理解のない人は困るわ。私たちの活動は素晴らしいの。全校生徒に、身を張って娯楽を提供するという、称賛に値するべきものなの。だから、これからもこのポリシーは変えずに守っていくべきだわ」
「数行前の自分のセリフ思い出せぇ――――!!」
「さて、改めて我が部の在り方を確認したところで、他に何かあるかしら?」
「僕もう、このメンバー自体に問題がある気がしてきました……」
何だこの地獄。ボケは一人のはずなのに、ツッコミが忙しすぎる。
「そうねぇ。容姿は上々だと思うのだけれど」
そういう問題じゃない。
だが、自分で言うのも図々しいが、僕ら二人が美少女なのは事実だ。新聞部は嫌われているが、部員自体は、男女両方から大人気だったりする。
「やっぱり、夏輝の乳」
「そういえば、この部って僕たち二人だけなんですか?」
無駄な労力を割かないためには、ボケそのものを回避するに限る。
「いえ、もう一人先輩がいらっしゃるけど、随分前から幽霊部員になっているみたい」
「ふーん……」
「要するに、人の力はあてに出来ないってことよ。私たちだけで、頑張りましょう」
「……はい。」
「……がっかりした顔することないじゃないの。それとも、私では……駄目なの?」
「!!」
近寄ってきて僕を見つめる部長。あろうことか上目遣い。やばい……これは、萌える。ていうか、こいつ本当は可愛い――
「あ、今、私に萌えたわね? 萌えたでしょ。どうよ、私の渾身の演技!」
――訳があるまい。ついでに萌えもしていない。一時の気の迷いだ。みんな、美少女には気を付けよう。
「あ、今ので、新しい改善案を思い付いたわ」
「……この流れだと、どうせろくでもないものでしょうが、一応聞きますよ。何ですか?」
僕の問いかけに、さぞ得意気に応じる部長。
「それはね……萌えよ!」
「……まぁ、そんなところだろうと思っていました」
「む。萌えを甘く見ては駄目よ、夏輝。その威力たるは、さっきあなたも実感したでしょう?」
「うぐっ……」
「人々に幸せを与え、愛を与え、時に惑わせ、狂わせる、恐ろしい感情『萌え』。美少女の私たちがこれを利用しない手はないわ!」
確かに人を引き付ける方法としては良いだろうが。
「でも、どうやってそれをアピールするんですか? まさか、壁新聞に写真でも載せる気じゃ……」
「あら、そんなことはしないわ。さっきも言ったけど、新聞自体の方向性は変えては駄目よ」
「あぁ、なら、そういう恥ずかしい写真なんかが後々まで残るという心配は無……」
「号外を刷るわ」
「わざわざ!?」
「タイトルは『ご主人様、私をお召し上がりください♪』で、内容は私と夏輝のコスプレ写真。フルカラーで、全校生徒に配布するわ」
「本家より規模でかい!」
「夏輝の……コスプレ……はぁ、はぁ」
「僕は断じてそんな衣装着ません! ていうか、そんなの学校が許すはずないじゃないですか」
「なら、私たちが趣味で作った、ということにして、希望者にのみ配布するわ」
「どんな同人誌ですか……」
「そうね、夏輝は細身でちっこいから、スク水とかどうかしら」
「僕の制止はスルーする方向ですか」
「少年っぽい見た目を生かして、執事なんかもいいわね」
「……あの、それって、僕だけじゃなくて部長も着ることになるんですよ。いいんですか?」
「あら、そんなことだったら全然気にしていないわ。私はバニーを着ようと思っているの」
「バ、バニー……?」
網タイツに包まれた細い脚に大きく開いた胸元から覗く谷間、頭に揺れるうさ耳……。
美人で巨乳、いや爆乳の部長にはぴったりかもしれない。それに、
「ハイヒールだから背の低さも誤魔化せ」
「スリーサイズ」
「小さいのも良いと思います」
まぁ、僕もあまり人のことは言えないが、部長はさらに小さいのだ。身長147cmで爆乳って、どこかのアニメに出てきそうだ。
「部長だったら、あとは……」
メイド、ナース、ビキニ、魔法少女、ブルマ、猫耳、巫女……ありとあらゆる萌え装束を、脳内で部長に着せ替えてみる。あれ、これ、すごく、楽しいかも。
そう思っていたのは僕だけではないらしく、部長もはぁはぁ興奮しながら妄想中だった。果たして向こうは、どんな衣装を僕に着せているのか。
「部長――」
「夏輝――」
同時に互いに呼び掛けた瞬間。
何かが壊れた。
「部長はやっぱり、胸を露出するコスチュームが良いと思います。それから、普段見せない弱気な表情で、ギャップ萌えを――」
「夏輝はイケメン路線で女子のハートを掴んでから、一気に女の子らしさを見せて男どももゲット! あえてのお色気も良いかもしれないわ」
それから延々、萌えについて語り合うこと数十分。
何気ない流れで、僕が核心に触れたとき。
「で、これ、どうやって新聞部のイメージアップにつなげるんですか?」
「……………………。」
「……………………。」
空気が凍りついた。
「…………はい、何か良い案出していきましょう」
会議が、振り出しに戻った。
「夏輝も何だかんだ言って変態よね」by部長




