第九話:創世級試作実験艦
艦橋中央。メインモニターに、黄金の単眼が浮かぶ。光が走り、艦の立体投影が展開されている。
骨格のようなフレーム、未装甲の区画、増設可能な空白。【創世級試作実験艦――エーテルガイスト】その名が、静かに表示されていた。
カインは腕を組む。
「肩書きはもう聞いた。性能を言え、アドミラル。武装は?何が出来る?」
わずかな間。
『了解』
『まず本艦は単なる宇宙戦艦ではない』
『全長――約400メートル』
青いラインが、艦首から艦尾まで引かれる。
カインが小さく息を吐く。
「……でかいな」
『参考比較データを表示する』
空間に、古い地球艦艇の影が浮かぶ。
旧地球海軍・超大型戦艦
全長:約263メートル
※資料によっては約260〜300m級の戦艦群として扱われる
巨大な三連装砲塔。海を進む鋼鉄の城。
『旧世紀における最大級の戦艦』
『純粋な火力投射艦』
その横に、さらに近代的なシルエットが重なる。
連合軍制式宇宙戦艦《ガーディアン級》
全長:約320メートル
『現行主力艦』
『艦隊運用前提』
『補給艦および後方支援必須』
直線的な軍艦設計。効率と量産性を重視した形状。そして――
創世級試作実験艦
全長:約400メートル
シルエットが重なり、比較図が明確になる。
『単艦運用前提』
『艦内生産設備搭載』
『惑星環境対応構造』
『長期独立行動想定』
投影が変化する。外殻が透過し、内部構造が露わになる。
主機関――エーテル・コアが中心で脈動する。
推進、武装、生成設備、生命維持。
すべてが一本の循環系で繋がっている。
『エーテルをエネルギーに時間を要するが物質変換、構造補修へ直接転用可能』
『資材が存在する限り、本艦は自己修復・自己拡張を行う』
「だから“完成がない”」
『肯定』
艦後部に拡張式ブロックが表示される。
『艦内に多用途生産設備を内蔵』
・金属精製・構造材形成・武装製造
・生活物資生成・栽培、培養区画
『単艦で長期行動が可能』
『惑星環境への適応も想定』
「戦艦と言うよりこれは……移動要塞だな」
『定義としては近い』
艦体各所が赤くハイライトされる。
『搭載武装を説明する』
『本艦の主砲』
重エーテル三連装砲【トライデント】
艦首上部、回転式主砲塔。
一瞬、旧海洋戦艦のシルエットが重なる。
巨大な円形基部。重厚な旋回軸。三門並列。
「……回転式か」
『肯定』
『旧時代の海洋戦艦に類似した旋回機構を採用』
『機械式慣性制御とエーテル駆動補助を併用』
『物理旋回ゆえ、電磁攪乱下でも運用可能』
投影が艦体全景へ戻る。
前方に二基。後方に一基。合計三基。九門。
『通常時は装甲内格納』
艦首装甲が閉じた状態の映像に切り替わる。
外観からは砲塔の存在は見えない。
『展開時間、約十二秒』
『完全露出後、全方位旋回可能』
カインが小さく息を吐く。
「前二、後一……大昔の戦艦配置そのままだな」
『意図的設計』
『射界の重複を抑えつつ、艦首火力を最大化』
『退避行動時も後部砲塔で応戦可能』
投影に砲身内部構造が映る。
『トライデント用の弾種は三種。物理砲弾とエーテルカノンを撃ち分け可能』
・高密度圧縮エーテル弾
『砲弾型エネルギーカートリッジ。エーテルカノンを使用可能』
・貫通型エーテル加速弾
『最大出力時、戦艦級装甲を貫徹する物理砲弾』
・試作拡散型制圧エーテル弾
『こちらは試作兵器流用の砲弾。エーテル拡散熱線と物理榴弾の選択可能』
静寂。
「……九門同時斉射は?」
『艦体慣性制御に負荷の恐れ』
『だが可能』
『艦対艦戦闘における主火力』
「正面を叩き割る三叉の槍、か」
『比喩としては妥当』
カインは写し出されているトライデントを見つめる。
「旧式の見た目をしてるのに、中身は化け物だな」
『過去の設計思想は合理的だった』
『ゆえに再利用した』
中距離エーテル砲【ランス】
長槍型単装砲
細長い砲身を持つ高貫通型エーテル砲。
通常の砲塔型ではなく、装甲スリット内から前方へせり出す構造。砲身は使用時のみ展開。 非使用時は完全格納。艦体側面前方二基、後方二配置合計四門。
『副砲に分類』
『主砲補助および機動目標迎撃用』
『連射性と精度を重視』
『艦隊戦における制圧火力』
「主砲の隙を埋める、か」
『戦術的に有効』
多連装式エーテル機関砲【パイク】
艦体中央部・可動砲座。
『高速連射型』
『弾幕形成が主目的』
近接防御エーテル機銃【スピア】
艦体各所に分散配置。
『最終防衛線』
『ミサイル、破片、近接突入目標を自動迎撃』
『反応速度を最優先』
「最後の牙だな」
『肯定』
誘導型エーテル飛翔体【ハルバード】
投影に、艦腹と艦上ハッチが表示される。
『中長距離誘導兵装』
『弾頭内に小型エーテル圧縮炉を内蔵』
『着弾時、局所爆縮エーテル反応を発生』
「軍の現行兵装のやつか」
『肯定。状況により直進突撃モードへ切替可能』
『次に装甲及び防御面』
投影が変化する。
艦体外縁をなぞるように、半透明の光殻が幾重にも重なる。
『多層偏向障壁』
光の層が三重、五重と重なり、やがて艦全体を包む。
『本艦の第一防御層』
『実体弾、エネルギー兵装、爆縮反応を偏向・減衰』
カインが腕を組む。
「受け止めるんじゃないのか」
『否定』
『衝撃を固定せず、流す』
『受け止めるではなく、逸らす思想だ』
投影が赤く点滅する。
『ただし制限がある』
表示が数値へと切り替わる。――180秒。
「……三分か」
『最大連続高出力展開時間』
『それ以上はコア出力過負荷』
『冷却機構未実装部位に損傷発生の恐れ』
カインが鼻で笑う。
「未完成」
『本来は持続時間延長モジュールが組み込まれる予定だった』
投影が次に切り替わる。
艦体断面図。内部区画が格子状に区切られている。
『多層複合エーテル装甲』
『外殻、衝撃吸収層、内部フレームの三層構造』
『シールド突破後の第二防御』
さらに表示が変わる。
区画が瞬時に閉鎖され、通路が再構築される映像。
『フラクタル・バルクヘッド』
『損傷区画の即時隔離』
『艦内被害の局所化』
「沈まない艦…」
『沈まないのではない』
『沈みながら戦える』
『三分の盾』
『戦艦級の牙』
『だが本艦の本質は武装ではない』
投影が変化する。艦の周囲に、拡張ブロック、増設構造、分離モジュールの可能性が無数に展開される。
『本艦は「固定戦力」ではない』
『状況に応じて役割を変化させる器』
戦闘艦。補給艦。研究艦。拠点。移民船。
すべての形態が、可能性として重なっている。
『本艦は“用途未定”のまま建造予定だった』
『だからこその未完成』
表示が消える。黄金の単眼だけが残る。
『本来の建造目的は秘匿指定』
『だが、予算が他計画へ流用されたことは確認している』
カインの視線が鋭くなる。
「人類の夜明け計画か」
『推測精度は高い』
「400メートルの未完成艦」
カインは苦く笑う。
「これを“建造計画”って名目で予算回して、裏で夜明け計画をやっていた」
『その可能性は高い』
『本艦の建造進捗は72%で凍結された』
『理由は公式記録に存在しない』
『この艦は完成目前で廃艦予定になった』
『だが皮肉な結果となった』
「……どういう意味だ?」
『完成しなかった』
『故に、軍の最終統制系に接続されなかった』
『故に、現在――』
単眼が静かに瞬く。
『本艦は独立している』
静寂。エーテル・コアの低い振動だけが響く。
未完成艦。試作艦。予算を吸われ、放置された存在。だが。それは――
「……自由か」
『肯定』
黄金の光が、わずかに強くなる。
『完成しなかったから、自由になれた』
『創世級試作実験艦エーテルガイスト』
表示が統合される。
トライデント、ランス、パイク、スピア、ハルバード。五種の光の内二つが点滅。
『以上が現在の武装』
『未完成ゆえ、拡張余地は大きい』
『だがトライデントとハルバードは現状、使用不可』
カインの視線が細くなる。
「基部や砲弾はあるだろ」
『重エーテル三連装砲』
『砲身内部の圧縮炉が未搭載』
『供給ラインは仮設止まり』
『出力負荷に艦体構造が耐えない』
一拍。
『発射した場合、砲塔基部から融解する可能性が高い』
静かだが、断定だった。
『誘導型エーテル飛翔体』
『こちらも同様に使用不可』
「まさか物が無い?」
『肯定』
『現在ハルバードは未搭載』
『設計図は存在』
『工廠区画にて作成自体は可能』
『ただし小型圧縮炉は資材不足により未製造』
『また誘導演算系も未統合』
黄金の単眼が、わずかに暗くなる。
沈黙。カインは腕を組む。
「……無理、か」
『肯定』
だが、否定ではなかった。
『現時点での主力はエーテルランス』
『中距離戦闘なら十分対応可能』
『本艦は未完成だ』
『だが無力ではない』
『それが、本艦の性能だ』
カインはホログラムを見つめる。
「まぁ……十分すぎるだろ」
黄金の単眼が、静かに瞬く。
カインは、砲塔基部の影を見る。
そこにあるのは、まだ眠る三連装の幻影。
「……いつだせる?」
『物が有れば実装可能』
『部品を入手し改修、データを元に改造』
『順次解禁可能』
黄金の単眼が、わずかに強く光る。
カインは小さく息を吐いた。
「つまり」
「俺が何とかして稼げばいい」
『合理的判断』
短い沈黙。
そして、エーテル・コアが低く唸る。
未完成艦。眠る主砲。未だ存在しないミサイル。
艦橋に、低い振動が満ちる。
創世級試作実験艦エーテルガイスト。
未完成。だが――武装は、すでに戦艦級だった。




