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ヒロインと言われましても、私はただの男爵令嬢です

あの日の女の子を取り戻す方法 〜後日談〜

作者: bob

※本作は

『ヒロインと言われましても、私はただの男爵令嬢です』

の後日談となります。

子供の頃から本が大好きで図書館に通った。

その先で知り合った女の子。


「私、将来は隣国にある大陸図書館の司書になりたいの」


その女の子――オリビアは、夢を語る時いつも笑っていた。


僕は貴族と言っても子爵家の四男。

“ハルムス学園に入学して城に士官しよう”ぐらいしか考えてなかった。

そんな僕に将来の夢を語るオリビアの瞳は眩しかった。


僕の将来の夢が“大陸図書館の司書”になるのに時間はかからなかった。






ハルムス学園入学式。


久しぶりにオリビアに会った。

馴染みの顔がいた嬉しさと、夢の第一歩である最難関学園の入学に舞い上がった僕は声をかける。


「久しぶり。

君もハルムス学園に入学すると思ってた」


「はぁ?モブが話しかけないでよ」


僕はその場で固まったまま動けなかった。

オリビアを目で追う。


「あ!ハロルド殿下」


殿下を追い回し、周りの学生から白い目で見られている。

彼女は本当に、図書館で会っていたオリビアなのか?


三年生になっても、オリビアの行動は変わることなく酷くなっていく一方だった。

オリビアが自慢していた大好きな妹は、入学式一人佇んでいたのを思い出す。

オリビアとの思い出と現在の違いに胸が痛んだ。


卒業パーティー。


この時、僕は大陸図書館司書に内定を貰い浮かれていた。

公爵令嬢と同じドレスを着るオリビアに冷や水を浴びせられたようだった。


オリビアが妹に酷いことを言うたびに。

周りの人々が断罪されるオリビアを嘲笑っている姿に。


思い出の中のオリビアが黒く塗りつぶされていく。

手を握りしめ決意する。


あの図書館で笑っていたオリビアを、消させはしない。




大陸図書館司書内定を受け、国王陛下に呼び出された。

目の前には国王陛下とハロルド殿下。


「最年少で大陸図書館司書内定の栄誉。

我が国としても誇り高い。

その努力に報いる為、褒美を遣わす」


僕の考えは決まっていた。


「オリビア・フジーア嬢が移送される修道院を隣国との国境近くにしてください」


「……して、理由は?」


「大陸図書館の蔵書全てを読了し、彼女を元に戻します」


国王陛下は殿下へ顔を向けた。

それを受け、殿下が前へ出る。


「修道院移送の件、確約する。

もし戻すことができ、その証明ができるなら…。

オリビアの罪を軽減し一定期間の王都立入禁止とする」


「ありがとうございます」


僕は深々と頭を下げた。

後は僕が頑張るだけだ。


大陸図書館で勤務を開始してからは一つ一つの作業を丁寧に行った。

オリビアが夢見た仕事を、今は僕がしている。


その合間にオリビアを元に戻す方法を探す。


そんな僕に興味を持ったのか一人の男が声をかけてきた。

不思議な雰囲気のする聖職者のような装いの男。


「度々お見かけいたしますが、熱心に何をお調べですか?」


男の装いのせいか、雰囲気のせいか…。

僕はオリビアのことを、ありのまま説明した。


「ふむ。

僕ならお力になれるかもしれません」


男曰く“人憑き”と言われる現象に酷似しているらしい。


「“人憑き”の場合、病や怪我など生命が危うい状況で魂が消耗し別の魂に入れ替わるのです。

それ故に“人憑き”と呼ばれています」


オリビアに起きている現象そのものに聞こえる。

なんの手がかりも得られない毎日に、僕はこの男に縋りついた。


「どうすれば元の魂に戻せますか!?」


「……貴方は人を殺す勇気がおありですか?」


あの日の図書館、オリビアの笑顔が頭から離れない。

悩む余地すらなかった。


「はい」


男は逡巡し、やがて懐から一つの小瓶を出した。


「こちらは体に魂が一つ、つまり普通の人には無毒の液体です。

しかし“人憑き”が飲むと魂の消耗を引き起こします」


男が僕の目を見て言葉を続けた。


「そうなれば魂を入れ替えられます。

但し、消耗の結果消える可能性もあります」


全てを聞いた僕は迷いなく小瓶を手に取った。

仕事場に一週間休みをもらい、その足で修道院へ行く。

男が同行を願い出てくれ、心強かった。


修道院へ到着し、応接室へ通された僕たちは早速オリビアを呼んでもらう。


応接室に入ってきたオリビアの態度はあの日のままだった。


「なんの用なの――」


オリビアの視線が聖職者の男を捉え顔一面、歓喜の色に染まる。


「隠しキャラじゃん!

え?こっちのルートだったの!?」


訳がわからない話に困り男と顔を見合わせる。

男が頷いて見せたため、作戦を進めることにした。


男がオリビアの注意を引いている隙に、紅茶に小瓶の液体を入れる。

当たり障りのない会話をし、オリビアが紅茶を飲み干すのを見守った。


仕事があるとオリビアが呼ばれるまで心臓が暴れ、生きた心地がしなかった。

男を見ると頷き、成功したのだと安堵した。


「数時間経つと魂の消耗が始まります」


その日、修道院へ泊まらせてもらい様子を見ることに。

オリビアが元に戻ったら。

元に戻らなかったら。


幸せな想像と嫌な想像が交互に迫るなか、眠りに落ちた。





翌朝、修道院が騒がしい。

事情を聞くと、朝方からオリビアが高熱を出しうなされているそうだ。


本当は毒だったら――


自分の犯したことの大きさと、オリビアの容体が気になり看病を買って出た。


苦しむオリビアを、見ていることしかできない。

ハルムス学園にいた頃と何も変わってない自分に嫌気がさす。





気がついたら辺り一面白い空間だった。

看病してて寝てしまったようだ。


しばらく歩くと、目の前にオリビアが見えた。

夢ならばと図書館にいた頃のように話しかけることにした。


「オリビア。僕、大陸図書館の司書になったんだ」


「君が好きそうな本がたくさんあるよ」


「……今からでも遅くない夢を追おうよ。

僕が支えるから」


歩きながら話しかけると、オリビアは振り向き微笑んだ。

僕はその笑顔に恐怖で硬直する。


「……誰?」


目の前の女性は、体はオリビアなのに魂が違うような感覚がする。

女性は口を開く。


「この子には悪いことをした。

罪人の魂が逃げた先にこの子がいたんだ」


尚も目の前の彼女は話し続ける。


「この罪人の魂は私が連れて行くから安心して」


図書館で日の光に照らされながら笑うオリビア。

好きな本について瞳をキラキラさせて語るオリビア。


僕は我慢の限界だった――


「そんなことのせいでオリビアの大切な時間を奪ったの?

オリビアは夢を追うことも、学園生活を楽しむことも、大好きな妹と過ごす時間も奪われたんだよ?」


僕の話を聞き悲しい笑顔をする女性。


「それは無理だよ。

なぜなら――」





目を覚ますと、ベッドに突っ伏して寝ていた。

ハッとしてオリビアを見る。


オリビアは泣きながら僕を見ていた。


「私……ありがとう…」


“人憑き”の時、意識があったのかわからないが、オリビアは僕に感謝を呟き泣いていた。

そんなオリビアを見て僕も涙を流しオリビアの手を握った。


「おかえり、オリビア」







感謝を伝えようと聖職者の男を修道院中探したが見つけられなかった。

誰も男を見てないそうだ。


半年後、オリビアは論文を評価され、大陸図書館に採用された。

司書ではないが、それでも彼女は笑っていた。

それで十分だった。


修道院から隣国へ引っ越しをする日。

修道女たちに泣きながら見送られるオリビアを見て、あの日の判断が正しかったのだと、心が晴れたようだった。





移動する馬車内。


オリビアは大陸図書館のことを考えているのか、笑顔で楽しそうに風景を見ている。

僕も車窓に視線を落とした。


夢での会話を今でも覚えている。


『それは無理だよ。

なぜなら――


なぜならオリビアはハルムス学園入学前に、流行病で死ぬ運命だったから』


女性、女神の言葉が脳裏に反芻する。


目の前には未来に瞳を輝かせるオリビア。


僕は女神さえも見捨てた彼女を救ったんだ。


「オリビア、愛してる」


オリビアは涙を流し笑顔で応えてくれた。

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