第9話 中級ポーションは炭酸ジュースな味がする
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モルダー君の一件から数日後、やはり風邪は街に蔓延し始め、私はポーション作りどころではなくなった。
それでも、小さい子供さんが甘いお薬で助かるのならと、頑張ってアイテムを作った。何より甘い系の薬は私しか作れないので、必死になって作った。
精霊さんたちにも頑張ってもらい、一日が終わる頃、ひとりずつに子供用粉ポーションをあげて労う。
「ふう……」
「お疲れだな」
「風邪がこんなに早く蔓延するとは思わなかったわ」
「町医者も今大変な状態らしいねぇ……。錬金術のアイテムで治るなら、そっちを優先してほしいって言ってるくらいじゃよ」
「たちの悪い風邪が流行り始めたのかしら?」
「俺達も注意しないとな」
「ええ、そのためには毎日ポーションを飲まないといけなくなるけど」
「初級ポーションでも、効果はあるからありがたいねぇ……。特に、甘いのだとねぇ?」
お婆ちゃん……疲れているのに更に作れと。
思わず苦笑いしつつも、私は再度精霊さんたちにお願いして、ポーションを三本作った。それをひとり一本ずつ飲んで、風邪に負けないようにするのだ。
「でも、ポーション飲んでても風邪にはかかるのね」
「いや、ポーションの苦さはまだアンティにはわからんじゃろうが……」
「薬草臭くて苦いんだよ……」
「ああ……それで」
「うちの店を知ってる人たちは、アンティの初級ポーションを大量に買っていくじゃろう?流石にひとりにつき家族分までにしたがの」
「大量に買い占める客もいたものね」
「あの大量に買い占めに来た客を止めたが……。あの男、ロバーツ商会の男じゃないか?」
「ああ、この街の商会で働いてる男だったね。うちと契約したけりゃ、ちゃんと筋を通しな‼……と、アタシが怒鳴りつけたら悲鳴あげて逃げていったよ」
流石お婆ちゃんである。
ロバニアータに目を付けられたら、商会に錬金アイテムが売られず大打撃だろう。
とは言え、ロバニアータの錬金アイテム。つまり【錬金術工房クローバー】の商品というのは、特殊な判子を押しているため、偽装もできないんだけどね。
偽装をしていれば、錬金術学会が黙ってはいないだろう。
「アンティの作った商品にも、うちの判子を付けてるからね」
「ありがとうお婆ちゃん」
「でも、流石にもう錬金術師の卵からは、少し進んで、ひよこくらいにはなったんじゃないか?」
「あはは!ひよこくらいにはなってると思いたいな!」
そう言いつつグイッとポーションを飲みきり、私達は気合を入れる。
明日も朝から大変そうだし、もしかしたら夜中に担ぎ込まれる子供もいるかも知れない。各自覚悟を決めて、暫くは日々を過ごさないといけないのだ。
――そんな日々が二週間ほど続いて、風邪も少しずつピークを過ぎた頃、私はようやくポーション作成に挑むことにした。
あれから少しまたスキルが上がって、今なら中級ポーションくらいは楽に作れそうなレベルになっていたのだ。
◇◇◇◇
「さて、と。念願叶って中級ポーションだわ!」
「頑張れよ」
「ありがとうピエール。よーし、頑張りますか!精霊さんたち、手伝ってくれる?」
『初めての中級ポーションだね!』
『そこまで育ったんだねぇ……』
『ワシは嬉しいぞい……』
「もう、みんなしみじみしないで~? 私のためにも力を貸してほしいの。お願いね?」
こうして、いつもの手順通りに、中級ポーション用のアイテムを使い錬金していく。
少し時間が掛かるのは最初の一歩だからこそ。
シュワンシュワンと音を立てつつ金に光るのは、私の魔力の色らしい。
お婆ちゃんは虹色のオーロラで、ピエールは銀の光だ。
各自違う魔力の色を持っている。
シュパン‼ と、気持ちの良い音と共に金の光が落ち着くと……コトン、と机の上に中級ポーションが落ちる。
鑑定しても、やはり中級ポーションだった。
でも……。色合いは初級ポーションと同じ色合いで、瓶の色が若干違う程度。
試しに振ってみると、炭酸のような気泡が出た。これは――もしや‼
「炭酸ジュース?」
「なんだい?炭酸って」
「飲むとシュワシュワッと口がするんです」
「シュワシュワッと?」
「飲んだらわかると思うわ。お婆ちゃんとピエールお願いできる?精霊さんたちも飲んでみて」
こうしてピエールがアイテムボックスから紙コップを取り出すと、みっつ取り出し中級ポーションを入れていく。
そして二人と精霊さんたちが飲むと――。
「うわっ‼本当にシュワッとするな」
「いや、でも喉越しは爽やかじゃよ?」
『しゅわしゅわびりり……』
『癖になりますわ!』
『シュワッとしてピリッときて、スッキリするんじゃなぁ……』
『こう……喉にクッてくるよね』
「味は……美味しい?」
「「美味しい」」
『文句なしだね‼』
その言葉を聞いてホッとする。
良かった、炭酸が苦手って人もいるからどうしようかと思った。
それに、この世界では「炭酸飲料」というものは存在しないから、どうしようかと不安にもなったのだ。
でも、飲めるのなら良かった。
苦手な人には申し訳ないけど、初級ポーションで我慢してもらおう。
「俺はこれ、癖になるな」
「アタシも気分がスッキリするから好きだねぇ」
「良かった‼」
炭酸ジュースは今後うちの店の商品として出すことが決まった。
とは言え、買い占めということが起こらないように、家族分のみ販売、という形を取るけれど。
小さな街なので、大体の人の顔と家族構成は知っている。
これで嘘をつく人がいることは無いとは思いたい。
「瓶の蓋の色が違うから、中級と初級は見分けがつくな」
「そうだね。普通のポーションやMPポーションもそうなんだよね?」
「そうじゃよ。色がついていないからね。蓋の色で皆は区別しているのは確かじゃよ」
「なら問題なさそう」
「MPポーションになると瓶の形も変わるからな。それでポーションとMPポーションの違いはわかる」
確かに。
ポーションは丸い瓶に対し、MPポーションは三角形だ。
急いでいても手に取った形で判別できるようにしているらしい。
冒険者が使うことが多いから尚のことそうなったのだとか。
冒険者か~。
いつか、冒険者用のアイテムも作ってみたい。
まだレベルが足りないから作れないけど。
「取りあえず、今日はこの中級ポーションを多めに作ってみるわ」
「ああ、そうしておくれ」
「俺は、城に納品する用のポーションを作るか」
「でも、そろそろ薬草とか素材が切れそうだね。アニーダ薬草店には連絡は?」
「してあるよ。近々届けに来るそうじゃ」
「良かった!」
〝アニーダ薬草店〟とは、この街にひとつしかない薬草店で、冒険者もしている店長が、薬草を摘みに行ってくれる。
さらに言えば、アニーダさんちは家族全員冒険者をしていて、皆で手分けして薬草を手に入れてくるのだ。
無論、先に話のあった〝ロバーツ商会〟も薬草を取り扱っているけれど、やはり質が違う。アニーダ薬草店のほうが質も物もいいので、我が家はそちらと契約をしているのだ。
それに、ロバーツ商会はあまり好きじゃない。
色々取り揃えてはいるけれど、たまに街でロバーツ商会の前を通ると、いつも罵声が響き渡ってる……。
あんまり商会上手くいってなさそうっていうか……なんというか。
ワンマン社長って前世でもいたけど、それで上手くいくことの方が、あの時代には少なかった気がする。
この世界でも同じことが言えるのかも知れないわね。
◇◇◇◇
それから数日後――アニーダ薬草店から、コウジという青年がやってきた。
アニーダ薬草店の長男さんだ。
「よう、アンティ。今日も超絶に可愛いな‼」
「お世辞でもありがとうございます!」
「ははは!サラッと受け流されちまったや。そこがまた良いんだけどさ。それと、これが今回頼まれてた品の薬草たちだ。全部新鮮だし手入れも怠ってないぜ」
「うん、鑑定してるけど、どれも最高の薬草だね!」
「だろう⁉アニーダ薬草店はそこが売りなんだよな!どこぞの薬草店モドキとは違ってな!」
ロバーツ商会とアニーダ薬草店は仲が悪い。
というのも、ロバーツ商会の薬草部門は、質の悪い薬草を高く売りつけるという感じで、錬金術師や町医者からも嫌われているのだ。
薬草に関してはプライドを持っているアニーダ薬草店からしてみれば、許せないことなのは理解できる。
それに、私もあの店嫌いだしね。
「そういや、アンティが婚約したって話聞いたけど、マジで?」
「マジよ」
「うは、誰だよそんな幸運掴んだ男」
「ここにいるが?」
「お前かよ‼」
「知り合い?」
「まぁな」
なんでも、ピエールがお婆ちゃんの弟子になった頃に知り合ったらしく、年も近いらしい。コウジさんはピエールをじっと見つめて「マジうらやまー」とぶすくれていた。
「俺もアンティ狙ってたのになぁ……」
「そうだったの?」
「そうだったのよー?」
「でもゴメンね~?もうピエールと婚約したから浮気はしないのー」
「だよなー? ちぇ……。もっと早く言うべきだった。最近街ではアンティの婚約で、男どもの話題持ちきりだぜ?」
「そうなんだ」
「〝幸運男に触ったら御利益あるんじゃねーの?〟って言っておいたら、皆本気にしてたわ」
「余計なことを……コウジ、お前は本当に余計なことしかしないな‼」
「うるせー!少しは幸運分けろ!この豪運野郎‼」
と、男子同士でギャイギャイやってる。
ピエールもこうしてみると年相応の感じがして新鮮で好きだわ。
何時も私相手だとお兄ちゃんぶってるけど、あれかな? 婚約者には良いところを見てもらいたい……みたいな感じなのかな?
「ともかく、沢山薬草を持ってきたんだからな。しっかり良い商品作れよ!」
「言われなくとも……っ!」
「それと、アンティ」
「なに?」
「うちのアニーダ薬草店の面子だけでいいから、ポーションとMPポーション取引しねぇ?」
思いがけず契約の話が来た。
これにはズイッと間に出たのがお婆ちゃんである。
ここから先はお婆ちゃんに任せたほうが良さそう。
「契約のことはわからないから、お婆ちゃんとお願いね」と告げて私はすぐにアイテム作成に入る。
ポーション類を沢山作らねばならないからだ。
私はローテーションを組んで、ポーションの日、MPポーションの日、お薬の日と決めてアイテムを作るようにしている。
そっちのほうが効率がいいことに気づいたのだ。
それに、甘い駄菓子な錬金術が使えるのは私だけ。
だったら尚のこと休んでもいられない。
どんどん作ってガンガン売ろうと決めたのだ‼
その後、コウジさんは帰り、お婆ちゃんから今後アニーダ薬草店に卸す甘いポーションとMPポーションの個数を聞き、追加で作ることになった。
――だが、それを嗅ぎつけてくる者も、やはりいる。
甘いポーションが街で噂になればなるほど、黙っていない者も必ず現れるだろう。
翌日、私がMPポーションを作っている時だった。
ドアを乱暴に開け、入ってきたのは……。
「失礼、甘いポーションを作っている錬金術師がいると聞いたんだがね?」
横暴な態度でやってきたのは……ロバーツ商会の薬草部門の男性だった。
お婆ちゃんが店に出てくれたけど……大丈夫かなぁ……。