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駄菓子錬金術で世界を救う⁉ 見習いアンティの奮闘記  作者: うどん五段
第一章 私の居場所は【錬金術工房クローバー】
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第5話 咳止めくすりと、願いを書かせる気休めアイテム

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 秋が深まる前に、できれば薬を作り上げたい。

 それは風邪症状といわれる「咳」「喉」「鼻水」を抑えたり治したりする薬だ。

 この時期から冷え始めるから、小さいお子さんを持つ親はいつも大変そう……。

 赤ちゃんなんかは自分で鼻をかめないから、鼻を吸ってあげたりと、何かと大変なのだ。

 それに、子供の風邪ウイルスはとても強い。

 親がそのウイルスや風邪で倒れることも多いのだ。

 子供を思ってしたことが、自分が風邪で倒れる――なんてことは、子育てしているパパママたちにとっては死活問題!


「何とかしてさしあげたい‼」

「お、やる気に満ちてるのう!」

「頭痛薬は作れるようになったから、スキルそろそろ上がったと思うんだよね」


 あれから私は、子供用粉ポーションと、ポーション、それにMPポーションに頭痛薬と作っている。

 それぞれ顧客もついてるし、子供用は最早この街では飲んでない子はほとんどいないだろうなってくらい売れている。

 MPポーションを買うのは、専らお婆ちゃんと兄弟子だけど……。

 ポーションに関しては、卵の私が作っていることもあり、少しだけお安く出しているが、仕事を始めたばかりのお兄さんお姉さんたちがこぞって買ってくれる。

 とてもありがたい‼


「仕事疲れにこの一本!」

「お仕事お疲れ様です!」

「アンティの顔を見たら仕事頑張って良かったなーって思うよ」

「今度、一緒に飯食いに行かないか?」

「ご飯か~お外のご飯もたまには食べたいなぁ」

「奢ってやるからさ!」

「駄目だ」


 ――でたな、兄弟子。

 気配を消して後ろに立ってお客さんを威嚇しないでいただきたい‼


「門限十八時。それを超えることは許されないが?」

「え、門限できたんですか⁉」

「お前は少々自由奔放過ぎる。ロバニアータ師匠と話し合って決めたことだ」

「え――……」

「で、君たちが店に来るのは、大体十八時を過ぎてからだ。食事に誘うのはやめてもらおう」


 兄弟子に厳しく言われた男性ふたりは、苦笑いしつつ「な、なら仕方ないな!」とすごい汗を流してるけど、どうしたんだろう?


「でも、これ俺が焼いたパンなんだ。良かったらどうぞ」

「わぁ‼ ありがとう‼」

「……やれやれ」


 こうしてポーションを飲んで帰っていったお客さんに手を振りつつ「明日も頑張ってね」と応援するとすごく嬉しそうだった。

 すると――。


「ひとたらしめ」

「兄弟子、さっきからなんです?」

「可愛い妹弟子が他の男にとれまいかと冷や冷やしてるんじゃよ」

「違います! この無意識に人をたらしこむ妹弟子がですね⁉」

「はいはい、そういうことにしておいてやろうかねぇ。さ、手を動かして仕事しな!」


 こうして私達は仕事を始めるのであった。

 ひとたらしなんて、人聞きの悪い。

 愛想が良いって言ってほしいな‼


 さて、今日作るのは咳止めだ。

 私が作る咳止めは、どんな感じになるだろうか?

 駄菓子の――呪いではない、呪いではないけど、そういうのがあるからわからない。

 この世界でも駄菓子はあるけれど、砂糖不使用の小麦粉ガムとか、そういうのはある。子どもたちにとっては、駄菓子は嬉しいけど……といった感じ。

 それに、砂糖を使った駄菓子はお貴族様が食べるようなものが多く、一般市民では手が出せない代物だ。

 錬金術でも作れなくはないけど、材料費がバカ高くなるので作れない。

 そういったネックなところもある中での――私のお薬。


「甘味とは、それだけで幸せになれる最高のもの……」

「薬を作れよ」

「私のお薬は駄菓子じゃないです、お薬なんですー!」


 一々一言多いなこの兄弟子‼

 そう思いつつ気を取り直して精霊達を呼んで手伝ってもらう。

 今日作るのは〝咳止め〟だ。

 喉を潤すとなると、錬金術のアイテムでも苦い薬を沢山飲まねばならない。

 というか、大体薬とはそういうものだ。

 量が多くて飲みにくい……。

 それを改善したいと思います!


 でも、私が作ると駄菓子になる……。

 それがどう作用するのかも見てみたい。

 使うアイテムはお婆ちゃんや兄弟子が使う咳止めの材料。


 精霊さんたちの力を借りて、丁寧に作り上げていく。

 どんな形になるかな……【乾燥】→【粉砕】→【祈りの涙】→【薬効成分抽出】→【分離】→【濃縮】まではいつもどおりだけど。


「安定化」


 そこで願いを込める。

『0歳の赤ちゃんからでも使えて、子供も大人も無理なく使える咳止めのお薬が作れますように……。』というお願いを女神様にお願いするのだ。

 シュパン‼ という金色の光が消えた瞬間、机の上に転がったのは――子供が目を輝かせる夢のお菓子、棒付きキャンディだった。


「……棒付きキャンディ?」

「五個セットの棒付きキャンディだな」

「可笑しいな。五個に分かれることなんてあるんだ」

「五個でワンセットって感じかねぇ?」

「これは私でも舐められるから舐めちゃおうっと。お婆ちゃんと兄弟子も一本ずつどうぞ」

「アタシはこの赤いのにしようかね」

「俺は緑色で」

「私はオレンジ」


 精霊さん達は余ったのを取って、上の袋を破って舐めている。

 私達も上の飴を保護している袋を破り舐め始めると――甘い‼

 前世だと、のど飴ってあったけど、それよりも甘い……子供向けの味だ‼


「わ――……あま~い♡」

「甘いが……。甘いが‼ 師匠、これは本当に効能があるんですか?」

「……しっかりあるね」

「……まさか本当に効能があるとは」

「これは、これからの時期にいいですね! どんどん作りましょう!」

「なぜ皆あんなものに夢中になる……? やはり甘い薬が革命を起こしつつあるのか? 薬とは苦いからこそ……」

「はいはい、ピエールは深く考えすぎじゃよ。いいじゃないか。甘い薬が世の中にあっても問題ないさね」


 流石お婆ちゃん!

 でも兄弟子は何か焦っているように見える。

 どうしたのかな?



 ◇◇◇◇


 

 彼には彼なりの事情があるんだろうということで、その日はコツコツと、〝咳止め〟を作り続け、店に出した。

 目新しい物があると、興味を出すのがお客さんだ。

 特にうちは子供を持つお客さんが来ることが多い。


「あら、目新しいお薬があるねぇ」

「それ、私が作った咳止めなんです。甘くて0歳から使えますよ」

「それは助かるよ! うちの孫が咳が酷くてね……」

「あ、年齢にもよりますけど、親がしっかり見ててあげてくださいね?」

「あいよ、伝えておくよ。これをひとつ頂こうかね」

「ありがとうございます」


 その後も次々と咳が出始めたお客さんがやってきて、私の薬を買っていかれる。

 中には「苦いほうが身体にええんじゃ‼」と言ってくるお客さんもいたけれど、そこは兄弟子が対応してくれていた。


「甘い薬なんぞ、子供だましじゃろ‼」

「それは違います。俺もその考えには同意したいところですが」

「そうじゃろう?」

「ですが、苦いのが苦手だったり、オブラートがうまく飲めない子供もいるんです。その子達のためのお薬というのを作るのもまた、錬金術師の仕事です」


 兄弟子の言葉に思わず目を見開く。

 ――兄弟子……そう思っていてくれたんだ。


「子供のためのお薬ねぇ……。確かにガキには苦いのはきついだろうがよぉ」

「0歳児に苦い薬を飲めというのが、また無理な話では?」

「むう……」

「そういう薬もあるということですよ」

「まぁ……それなら納得したわい」


 そう言って帰っていったお客さんに、私がつつつっと兄弟子に近寄ると――。



 ◇◇◇◇




「そういう薬も、一部では必要というだけのことだ。他意はない」

「ほほーん?」

「なんだ? 俺がそんなことを言うのが珍しいか?」

「凄く」


 素直に伝えると、兄弟子は溜息をはいて私の頭を軽く小突いた。


「俺だって、子供たちにどう薬を飲ませられるか悪戦苦闘中なんだ。お前のように魔法のような甘い薬が作れればいいんだがな」

「苦い薬でも飲めたらご褒美があるといいよね」

「だが、なかなかそういうご褒美は」

「作れるよ? 多分だけど」

「本当か⁉」

「ちょっと待っててね。お薬じゃないから、材料台所から集めてくる」


 そう言うと台所に走って、必要な材料を集めて作り上げていく。

 材料は台所にある「薄力粉」「塩」「ベーキングパウダー」、これに水。

 水はウンディーネに出してもらい、サラマンダーに手伝ってもらう。


 簡単だからパシュン‼ とすぐに薄いせんべいが出来上がる。

 そこにさらにチューブ入りのジャムを作り上げていく。

 これも台所から拝借。

 パシュン‼ と作り上げて、白いせんべいの上にチューブに入ったジャムで文字を書いていく。


「前々から作ろうと思ってたんだよね」

「これは?」

「気休めの薬でもなんでもないお菓子だね。白せんべいに、ジャムで願い事を書いて食べるの。来店した子供や親に願いを書かせる気休めアイテムだよ。

 食べることで願いがかなうといいね! って、そういうの素敵じゃない?」

「お前……」


 呆然と私を見る兄弟子に、ニヤリと微笑み一枚のせんべいに文字を書いて手渡す。


「身体を治すアイテムを沢山作るのが私達錬金術師でしょう? 無論いろいろなアイテムも作るけど、全ての基礎は身体から! だから、気休めでもあると嬉しいと思ったんだよね。『苦い薬を飲んで早く元気になる』とか書いて薬を飲んで口直し!」


 そして、書いてある文字を読んでから……急に笑い出す兄弟子。


「は、ははははは‼ そいつは最高だな!」

「でしょう? これ、いつでもいくつでも作れるから、お店の名物にしよう。いいよね? お婆ちゃん」

「ああ、構わないよ」

「苦いお薬の後はご褒美がある、素敵じゃない!」

「全く……妹弟子の考えることは……たまには役に立つ」

「たまにはって何よー‼」


 ――世界で初めて、『薬の後に食べるご褒美せんべい』が誕生した。

 しかし、この白せんべい。親だけではなく、子供にも人気になっていった。

 私がまだ作れない病気の薬がある場合、どうしてもお婆ちゃんや兄弟子の作った薬に頼るんだけど……。


「うまく、オブラート、のめますように……っと」

「あの、お店でひとつ飲ませてもらえることはできますか? ジャムなので帰宅までに文字が潰れそうで……」

「いいですよー。こちらのお席にどうぞ」


 それからというもの、苦い薬を飲む前は、我が家にお薬を飲む場所ができたのだ。

 ほんの小さなスペースだけど、私が管理している。


「苦い……飲めた――‼」

「えらーい‼ おせんべいどうぞ」

「わああい‼」


 ――頑張ったらご褒美がある。

 ――苦手な薬を飲んでもご褒美があれば、涙で潤んでも嬉しいものだ。


「頑張ったね。早く治るといいね」

「うん‼」

「ありがとうございます」


 こうして、人の気持ちの暖かさを感じながら……今日もお薬を作っていく。

 さて、咳止めの次は何を作ろうか。

 いろいろ手当たり次第作ってくぞ!


 頭痛薬は大丈夫。

 咳止めも作れた。

 今度は喉の腫れを治すお薬だ‼

 ――また新しい挑戦が始まるのだ!


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