第32話 私の錬金術は、まだまだ始まったばかりなの‼
これにて完結です。
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自宅に帰り、数週間必死にアイテムを作り続けて各地に送ってもらい、ホッと安堵の息を吐いた頃――。
私たちが城に滞在している間の王都の話を、コウジさんから聞いた。
それは、あまりに強烈で、驚きの連続の内容だった。
王家御用達店は、貴族だけではなく、庶民もまた買い物をすることが多かった。
特に〝錬金術師の薬〟に関しては、貴族や庶民という差別はない。
ゆえに〝アンティ・ロセット〟が〝錬金術学会〟からいわれなき罪をつけられ、錬金で薬が作れなくなった時は、我先にと薬を買い込もうとする客でごった返したという。
店にあった予備の備品もなくなる頃、薬を買えなかった貴族や庶民の怒りは凄まじく〝錬金術学会〟を決して許さぬという勢いがあったのだとか。
「うちの子の風邪がまだ治ってないのに、アンティの作った風邪薬がないのよ‼」
「うちの子の発熱だってそうだ‼」
「全部……いわれなき罪を吹っかけた〝錬金術学会〟のせいだわ……許せない!」
私のいわれなき罪に関しては、王家が噂雀を使い王都に流したのだと聞いた。
そのため、私が何かをやらかして〝錬金術学会〟の怒りを買ったのだということは、誰も思わなかったそうだ。
むしろ〝まだ十三歳で錬金術師のヒヨコ〟だとの私の未来を憂いた人たちもかなり多かった。何より、私の錬金術アイテムで助かった子を持つ親たちの怒りは、凄まじかったと聞く。
「特に病気を持つ子供の親の怒りは凄まじかった。それでも、〝アレ〟が発表されるまでは、まだ大人しかったんだぜ」
「アレって〝女神の愛し子〟ってやつ?」
「ああ。アレを聞いた民衆は――本当に暴動を起こした」
この王国では〝女神サシャーナ〟への信仰が強い。
そのため、滅多に産まれない〝女神の愛し子〟を、何としても国を挙げて守らねばならないという考えが根強い。
ちなみに〝聖女〟は〝女神の愛し子〟ではなく、稀有な光魔法が使える者を〝聖女〟と呼ぶらしい。
結果として、聖女の力を失った大罪人が出来てしまったけれど。
前任は今どうしているのかは分からない。
他国に流れたのか……それとも――。
かくして、私が〝女神の愛し子〟であることを知った民衆の怒りは爆発。
〝錬金術学会〟の支部は破壊され、〝錬金術学会〟に所属している貴族や錬金術師はひどい目に遭わされたのだという。
愛し子を嘘のでっち上げで苦しめる〝錬金術学会〟を、国民が許すはずなどなかった。徹底した罰を国民から受け、彼らは逃げるように学会を後にしたという。
そして残った三人が――件のお爺さん三人だったわけだけど。
「結局、今は生き延びたというと変だが、一番まともなご老人が〝錬金術学会〟の長となり、新たな体制のもとでの再スタートを切ったと」
「それの手伝いに『蒼龍の牙』や『アニーダ薬草店』が名乗りを上げたのを聞いているわ」
「俺たちが名乗りを上げることで、アンティが、〝今の錬金術学会〟へ対して遺恨もなければ応援している……という意味合いを持たせたんだ。そうでないと〝錬金術学会〟は再度立ち上がることは出来なかった」
「そうだったの」
「それだけ、アンティの力……〝女神の愛し子〟の威力は強いということなんだ」
この異世界、特にこの国では、その力は絶大なるものがあるのだと知った。
それゆえに、今後私に対する態度は、貴族ならば横暴な態度は取れず、冒険者や市民は敬いながらになるだろうという話で……。
「貴族が横暴な態度に出ないのは嬉しいけど、敬いながらというのはちょっと」
「諦めろ。あんな事があった後だ。大事な宝と敬いながら過ごさせたほうが、国民感情的にもまだ良いだろうな」
「うわぁ……」
「何も特別なことをしろと言ってるわけじゃない。ありのままでいいんだ」
そっか。ありのままでいいのか。
なら気楽かな?
いつも通り店で〝駄菓子錬金術〟をして、お店にお薬を並べて、お客さんの相手をして……当たり前の生活でいいならそれに越したことはない。
「ただ、店員は雇ったほうがいいだろうな。お前と握手したくて並ぶ客も来そうだし」
「ええええ……」
「うちに少々訳ありの女性がいるんだが、アンティの所で雇ってもらえないか?」
「うーん。お婆ちゃんが何ていうかなぁ」
「正直に、アニーダ薬草店から紹介されたって言えばいいぞ」
「わかった。ちょうどお店の作業だけじゃなくて、梱包作業の人も欲しかったら、お願いしようかな」
こうしてコウジさんの言う事を素直に聞いて、明日から我が家に新しい新人さん……というと可笑しいけど、お店で働く人が増えた。
お婆ちゃんが所用から帰ってきて事を告げると「アニーダ薬草店からの紹介なら問題ないだろう」ということで、我が家で雇うことも正式決定。
〝少々訳ありの女性〟というのは気になるものの、酷い内容ではないだろうと私たちは思っていた。
それこそ、ピエールの家に寄生してたユナンさんのような人なら絶対雇わないけど。
翌日、店にやってきたのはとても柔らかそうな綺麗な女性だった。
――ん? なんか、どこかで見たような?
私が首を傾げつつ女性を見ていると、ピエールは口をパクパク動かして驚いている。
やはりどこかで?
「せ……先代聖女様‼」
「あ‼」
そういえば教会が躍起になって探しているという、先代聖女様じゃない‼
こ、これはある意味とても厄介だわ‼
思わずビシッと立つ私に、お婆ちゃんは呆れて頭を抱えていたものの、店に入ってもらい話を聞くことになった。
何でも追放されたその日、コウジさんに保護され、今までアニーダ薬草店の薬草管理をしていたらしい。
ところが、妹さんが店番をするようになったことにより、元々不慣れだった薬草の管理ではなく、違う仕事についたほうがいいのでは……。
そう悩んでいた所、【錬金術工房クローバー】を紹介されたのだとか。
しばらく悩んだ後、コウジさんに是非にと伝えたのが先日。
そして本日、念願かなって【錬金術工房クローバー】の店員として働けるのが嬉しいのだと語っていた。
「え?でも、どうだろう?聖女様だしなぁ」
「いいえ、わたくしはもう聖女は辞めたのです。新たな聖女を教会が見つけてくればよろしいのですわ」
「そうだけれど……」
「誠心誠意働きますわ‼なんなりとお申し付けくださいませ‼」
気合を入れて語るほんわか元聖女様。
人相がバレないように伊達メガネはつけていらっしゃるけれど、迸るオーラが隠せていない……。でも――。
「そうよね。聖女様だって、第二の人生歩んでもいいわよね‼」
「こらこらアンティ」
「その通りですわアンティさん‼聖女だって第二の人生を歩みたいの‼だってもう追放された身ですもの‼戻れと言われて誰が戻りますか!」
「ですよね‼」
「「は~~……」」
頭を抱えるお婆ちゃんとピエール。
でも、元聖女様だって、追放されたんだし、第二の人生を楽しんでいいと思うのよ。
『悪かった、戻ってこい』と言われて、今さら反省されて誰が戻りますか‼
「これからよろしくお願いしますね‼えーっとお名前は」
「マチルダですわ‼」
「ではマチルダさん、これからよろしくお願いします‼」
――こうして【錬金術工房クローバー】に、マチルダさんが加わったのであった。
◇◇◇◇
しかし‼そうは行かないのがお婆ちゃんとピエールである。
一応王家と教会には連絡を……ということになり、マチルダさんの許可を得て問い合わせたところ、「一度は里帰りしてこい」と言われたマチルダさん。
泣く泣く彼女は一度教会に戻ったものの、数日で店に戻って来た。
「聖者様から言質を取りましたの。『気が済むまで第二の人生を歩まれよ』……とのことでしたわ」
「「「気が済むまで」」」
「わたくし、恋愛や結婚をするのも子供の頃からの夢でしたの……。ああ、コウジ様‼あの方こそ運命のお方……」
「「「お、おおお……」」」
「ハリのある人生って素晴らしいですわね‼」
すごい同意を求められてくる。すごいゴリゴリに求められてくる‼
でも、でもわかる。
ハリのある人生、素晴らしい‼
そもそも、人と比べられることの少ないこの異世界は、ある意味でハリに溢れているとも言える。承認欲求の塊のような人もいない。
皆、心に余裕を持って生きている。
人生に焦っている人は少ない。
こんな生き方、元いた世界では『浮世離れしてる』とか言われるんだろうけど、私の人生はそういうので良かったのかも知れない。
他人と張り合う必要もない。
誰かとマウント取り合う必要もない。
私は私。
ただ、それだけで良かったのだと、今なら気付かされる。
ハリのある人生は、誰かと競い合ったりマウント取り合ったりすることじゃない。
そんな暇があれば、違う人生を歩んだほうがいいと思えた。
きっと、今だからこそわかる、人生の達観……。
――そしてマチルダさんと同じ、第二の人生だからこそかも知れない。
「マチルダさんは恋に愛に第二の人生を送るのね‼」
「そうですわね。アンティ様はどう生きますの?」
「私は無論決まってます!」
「お聞かせ願えるかしら?」
「ええ‼」
私の人生は言うまでもなく。
〝駄菓子錬金術で薬が飲めない子供たちを助けたい〟なのは変わらない。
それに加えて、今の目標もある。
〝失われつつある錬金術〟と〝失われた錬金術〟を復活させること。
きっとそこには、まだ見ぬ苦しんでいる子供たちを助ける〝錬金術〟があるに違いないと思うから。
「だから、私の錬金術は、まだまだ始まったばかりなの‼」
「アンティ……」
「いいこというねぇ……」
「素晴らしいですわ……っ! 僭越ながら、わたくしにもお手伝いをさせてくださいませ‼」
「ええ、お願いしますね‼」
◇◇◇◇
――こうして、私たちの人生は、新たな一頁を綴りながら進んでいく。
そこに加えられたのは、私の中での人生の厚みかもしれないし、自分の最もたる目標のおかげかもしれない。
私は〝異世界の知識があるからこその駄菓子錬金術師〟というのは間違いなくて。
〝駄菓子錬金術〟のおかげで助かっている子どもたちも多くいて。
私の薬で命をつないだ子。
私の薬で火傷を治した子。
私の薬で痣を克服した子。
それは、偶然のようできっと必然だったのだと思う。
私でなければ、助けられなかった子どもたちかもしれないとも思う。
その誇りを胸に、私は前を向いて今日も錬金術で薬を作る。
――子どもたちを笑顔にする魔法はきっと、私にしかできない錬金術だと思うから。
=END=




